法人の資本金、資本準備金、資本金等の額と税金の関係について解説

[取材/文責]阿部正仁

法人設立で資本金と出資額は一致する傾向にあります。しかし本来、両者は違う概念であり、出資額と一致させて資本金が大きくなれば、法人の税金にも影響を及ぼします。そこで、出資するときの参考として、資本金、資本準備金、資本金等の額と税金の関係について解説します。

資本金と出資額は必ずしも一致しない

資本金、資本準備金、資本金等の額と税金の関係を知る前に、そもそも資本金と出資額は必ずしも一致しないことを理解する必要があります。

そもそも資本金とは何か

資本金は法人が存続するために、最低限維持すべき出資額のことを指します。そのため、資本金を減らすためには、複雑な手続きをしなければなりません。具体的には、金融機関などの債権者の同意が必要であり、そのために1カ月以上の官報公告が求められます。つまり、資本金は出資額の一部に過ぎません。

出資額の2分の1を組み入れることができる資本準備金とは

出資額の全額を資本金にしない代わりに、資本準備金に組み入れることができます。その限度額は出資額の2分の1です。たとえば、法人設立で1,500万円を出資したとします。1,500万円を資本金にすることはもちろん、最大750万円までは資本準備金に組み入れ、資本金を750万円にすることもできます。

資本金と資本準備金の違いは出資額を減らすときの手続きの違いです。資本準備金の場合は債権者の同意、1ヵ月以上の官報公告は必要ありません。

(会社法四百四十五条、四百四十九条)

資本金と税金の関係について解説

資本金は法人の規模を示す尺度です。そのため、資本金と税金は密接に関係し、資本金が少ないほど税制上優遇されます。

資本金1,000万円未満の法人に優遇される税金

法人設立のタイミングで資本金1,000万円未満なら、消費税が最長2年間免除されます。前述の通り、1,500万円出資した場合、資本金を1,000万円以上にすれば、初年度から消費税の納税義務者です。一方、出資額の一部を資本準備金に組み入れて、資本金を1,000万円未満にすれば、消費税は免除されます。

資本金3,000万円以下の法人に優遇される税金

資本金3,000万円以下の法人で青色申告を選択している場合、特定中小企業者等に区分されます。特定中小企業者等は、中小企業投資促進税制の税額控除が受けられます。税額控除とは、「対象資産の購入金額(リース総額)×7%」の税金が免除される制度です。対象資産の購入だけでなく、リース資産も対象資産になるのが特徴です。対象資産は種類ごとに次の金額以上となります。

対象資産のおもな種類 金額
機械装置 160万円以上
事務機器 120万円以上
ソフトウエア 70万円以上

資本金1億円以下の法人に優遇される税金

資本金1億円以下の法人は中小法人と中小企業者等に区分されます。それぞれの法人に優遇される税金を見ていきましょう。

(1)中小法人に対して優遇される税金

中小法人は青色申告と白色申告に関係なく、大企業のグループ企業を除いた資本金1億円以下の法人のことを指します。優遇される税金は次の通りです。

1.年800万円以下の所得金額に対する軽減税率

基本的に法人税の税率は所得金額に対して23.2%です。しかし中小法人の場合、所得金額のうち年800万円以下の部分については19%(平成30年度は15%)の税率が適用されます。

2.交際費等のうち年800万円までは全額経費で落とせる

基本的に税法上の交際費等は経費で落とすことができません。しかし中小法人の場合、交際費等のうち年800万円までは全額経費で落とせます。たとえば、得意先に対するお中元の品物を購入したとします。中小法人なら交際費等が年800万円を超えない限り、単純に経費で落せます。

3.留保金課税の対象外

留保金課税とは、特定同族会社が株式配当をせず、内部留保をしている場合、その内部留保額に10~20%の法人税を追加課税する制度です。しかし中小法人の場合、特定同族会社から除かれるため、たとえ同族会社でも内部留保額に関係なく留保金課税の対象外となります。そのため、法人税の追加課税を気にすることなく、内部留保に専念できるメリットが享受できます。

4.貸倒引当金の繰り入れ

貸倒引当金とは、売掛金などの債権の回収不能額の見積計上額を経費で落とせる制度です。しかし、見積計上が認められるのは中小法人に限られます。

5.外形標準課税の対象外

外形標準課税は法人事業税に適用されます。所得金額だけでなく、付加価値額(報酬給与額、純支払利子、純支払賃借料)、資本割に対しても課税します。つまり、赤字でも課税されます。しかし中小法人の場合、外形標準課税の対象外となります。

(2) 中小企業者等に対して優遇される税金

中小企業者等とは、中小法人のうち青色申告を選択している法人のことを指します。それでは優遇される税金について見ていきましょう。

1. 青色申告欠損金の全額控除

青色申告で、年度の欠損金(赤字額)は翌年度以降10年間、所得金額から控除できる制度であり、控除限度額は各年度の所得金額の50%です。しかし中小法人の場合、控除していない欠損金の全額を所得金額から控除できます。控除限度額が所得金額に左右されず、事前に把握できるため、税金対策がしやすいメリットを享受できます。

2. 欠損金の繰り戻し還付

欠損金の繰り戻し還付とは、赤字の年度の確定申告で過去に納付した法人税の一部または全額の還付を受ける制度です。災害に係る欠損金を除き、この還付制度を利用できるのは中小企業者等に限られます

3. 30万円未満の固定資産を全額経費で落とせる

30万円未満の固定資産を全額経費で落せるのは中小企業者等に限られます。また、リース資産でリース総額が30万円未満についても適用されます。白色申告や大企業などその他の法人は全額経費で落せる範囲は「10万円未満」または「使用可能期間が1年未満」の固定資産です。

4. 中小企業投資促進税制の特別償却

特別償却とは、経費を追加計上できる制度です。中小企業投資促進税制の特別償却は中小企業者等に適用でき、経費の追加計上額は「対象資産の購入金額×30%」です。しかし、リース資産は特別償却の対象外です。また、対象資産の範囲は前述の中小企業投資促進税制の税額控除と同じです。

出資額を資本準備金に組み入れることで登録免許税が節税できる

登録免許税には資本金に応じて課税する項目が存在します。たとえば、法人設立登記、役員変更登記、増資などが挙げられます。そのため、出資額の一部を資本準備金に組み入れることで登録免許税の節税につながる可能性があります。

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「資本金+資本準備金」の金額に近い資本金等の額と税金の関係

税法上には資本金等の額という概念が存在し、税金と密接に関係します。そこで、資本金等の額と税金の関係について説明します。

法人税法の資本金等の額と税金ついて解説

資本金等の額とは、法人に対する出資額のことを指します。その意味では、「資本金+資本準備金」の金額に近いといえますが、次の場合に当てはまるときは資本金等の額と異なります。

(1)自己株式の取得による減少

自己株式の取得とは、会社が株主から自社株を買い取ることを指します。会社に対する出資額が減少するため、資本金等の額も減少します。

(2)無償増資、減資は加味しない

内部留保の一部を資本金に組み入れたり、資本準備金を損失の補てんに充てたりして、「資本金+資本準備金」を無償で増減させても、法人に対する出資額は変わらないため、資本金等の額の増減には加味しません。

資本金等の額は寄付金の一部を経費で落とすときの計算に影響します。その計算方法は所得金額と会社の規模の折衷法ですが、後者に用いるのが資本金等の額です。

地方税法上の資本金等の額と税金について解説

地方税法上の資本金等の額は無償増資または無償減資がある場合に限り、法人税法と少し異なります。法人税法の資本金等の額に無償増資をプラスし、無償減資をマイナスします。

地方税法上の資本金等の額は法人住民税の均等割と外形標準課税の資本割に影響します。

(1)均等割

地方税法上の資本金等の額と「資本金+資本準備金」のうち、いずれか大きい金額が均等割の基準となります。

(2)外形標準課税の資本割

地方税法上の資本金等の額が外形標準課税の資本割の課税標準となり、税率を掛けて事業税を計算します。

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まとめ

資本金、資本準備金、資本金等の額が小さいほど税金面でより優遇されることを説明してきました。特に出資するときに、税金面を考慮に入れることで、出資金の一部を資本準備金に組み入れるなどの工夫を施すことができます。会社設立などで出資するときの参考にしてはいかがでしょうか。

 

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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