在庫にも課税される?法人の税金との関係について徹底解説
在庫と法人の税金は密接に関係します。在庫を抱えれば、法人税などの所得金額に対する税金が課税されます。そのため、在庫の金額の計算方法は税法上で明確に定められています。また、在庫は消費税の計算にも影響を及ぼします。そこで、在庫と法人の税金の関係について徹底解説します。
そもそも在庫とは何か
在庫については税法上でルールが定められ、法人の税金と密接に関係します。その内容を詳しく見ていきましょう。
在庫にも税金が課税される
税法上、今期末の在庫が前期末よりも増加すれば、法人に法人税などが課税されます。在庫はいずれ現金化される換金資産であり、現金預金と同じ扱いを受けるからです。言い換えれば、在庫の増加は現金預金の増加と同じにように所得金額の増加にカウントされます。たとえば、前期末の在庫100万円、今期の仕入高1,000万円とします。今期末の在庫が100万円と120万円を比較した場合、売上原価は次の通りになります。
(1)在庫100万円の場合
売上原価は今期末の在庫の金額から間接的に求めるため、「前期末の在庫100万円+今期の仕入高1,000万円-今期末の在庫100万円=1,000万円」となります。
(2)在庫120万円の場合
売上原価は「前期末の在庫100万円+今期の仕入高1,000万円-今期末の在庫120万円=980万円」となります。
つまり、上記(2)のほうが上記(1)より今期末の在庫の金額は20万円多くなる分、同額(20万円)の売上原価は低くなります。その結果、所得金額は20万円増加し、法人税などが課税されます。
在庫は2種類に大別できる
在庫は外部から購入した商品や原材料と自社で製造した製品に大別できます。それぞれの在庫のアウトラインを見ていきましょう。
(1)購入した商品や原材料
購入した商品や原材料はもちろん、次の付随費用が在庫に含まれます。
1. 商品の検収など販売のために直接要した費用
2. 材料の運送費用など消費のために直接要した費用
(2)製造した製品
次のものが在庫の金額に計上されます。
1. 製造のために要した原材料費
2. 製造のために要した工賃など労務費
3. 工場の電力代や家賃などの諸経費
4. 工場から販売所までの運賃など販売のために直接要した付随費用
在庫の金額に含まれる付随費用
前述の通り、付随費用は在庫の金額に含まれます。そこで、付随費用について詳しく見ていきましょう。
(1)購入した商品や原材料
付随費用の範囲は次の通りです。
1. 買入事務、検収、整理、選別、手入れなどに要した費用
2. 販売所から販売所へ移管するために要した運賃、荷造費などの費用
3. 特別の時期に販売するなどのために必要な長期にわたる保管費用
(2)製造した製品
付随費用の範囲は次の通りです。
1. 製造後において要した検査、検定、整理、選別、手入れなどの費用
2. 製造場から販売所へ移管するために要した運賃、荷造費などの費用
3. 特別の時期に販売するなどの理由による長期にわたる保管費用
経費で落とせる付随費用の範囲
経費で落とせる付随費用は次の通りです。
(1)金額の大小に関係なく経費で落とせる付随費用
購入した商品や原材料なら購入に要した税金や借入金利子などが経費で落とせる付随費用です。一方、製造した製品の場合は事業税及び地方法人特別税や借入金利子などが挙げられます。
(2)少額の場合に限り経費で落とせる付随費用
上記の「在庫に含まれる付随費用」のうち、付随費用の金額がその年度の購入金額や製造費用のおおむね3%以内なら経費で落とせます。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/05/05_01_01.htm
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/05/05_01_02.htm
在庫の金額の計算方法について解説
前述の通り、在庫の金額は所得金額や法人の税金に影響を及ぼします。そのため、在庫の金額の計算方法は税法上で定められています。
計算方法は原価法と低価法に大別できる
在庫の金額の計算方法は原価法と低価法に大別できます。それぞれのアウトラインについて説明します。
(1)原価法
商品や原材料なら購入価格、製造した製品なら実際の製造費用に基づいて在庫の金額を計算します。つまり、実際に支払った金額が計算ベースとなります。
(2)低価法
原価法で計算した在庫の金額と在庫の時価のうち、いずれか低い金額を在庫の金額とする計算方法です。時価とは、今期末時点の売却価格のことを指します。
6種類の計算方法を紹介
原価法による在庫の金額の計算方法は6種類あり、在庫の種類ごとに選択できます。そこで、次の例を用いて各種計算方法を説明します。
例)A商品1個を5/29に20円、8/8に25円、10/9に30円と別々に購入し、そのうち2個を11/17に売価50円(売上高100円)で売却したとします。
(1)個別法による原価法
個別法は在庫の金額を厳密に計算する方法です。たとえば、実際に売却したA商品の購入価格が20円、30円の場合、残り1個の25円を在庫の金額として計算します。
(2)先入先出法による原価法
先入先出法は実際の取引に関係なく、先に購入したものを先に売却したものと仮定して在庫の金額を計算する方法です。A商品を2個売却した場合、最後に購入した30円を在庫の金額として計算します。
(3)総平均法による原価法
総平均法はその年度の平均購入単価で在庫の金額を計算する方法です。A商品の場合、「平均購入単価25円×1個=25円」を在庫の金額として計算します。
(4)移動平均法による原価法
移動平均法は売却の都度、平均購入単価を求めて在庫の金額を計算する方法です。A商品の場合、11/9時点の平均購入単価は次の通りになります。
平均購入単価25円=(5/29の20円+8/8の25円+10/9の30円)÷購入数量3個
つまり、残り1個のA商品は平均購入単価の25円を在庫の金額として計算します。
(5)最終仕入原価法による原価法
その年度の最終に購入した購入単価で在庫の金額を計算する方法です。A商品の場合、「10/9の30円×1個=30円」を在庫の金額として計算します。
(6)売価還元法による原価法
売価に原価率を掛けて在庫の金額を計算する方法です。A商品の場合、原価率は次のように計算します。
原価率50%=購入金額75円(20円+25円+30円)÷売価150円(売上高150円+残り1個の売価50円)
A商品の在庫の金額は「残り1個の売価50円×原価率50%=25円」として計算します。
実務上では最終仕入原価法による原価法で計算する
実務上では、その年度の最終に購入した購入単価で在庫を計算する最終仕入原価法を用いることが多いです。計算が簡単であり、税務署に届出をしない場合は自動的に最終仕入原価法が選択されるからです。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/ts066.pdf
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/05/05_02_02.htm
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=340CO0000000097
(法人税法施行令第二十八条の二、第三十一条)
在庫の含み損はどこまで経費で落とせるのか
在庫の含み損は無条件で経費として落とせるわけではありません。そこで、経費で落とせる範囲について説明します。
経費で落とせる含み損を紹介
税法上、在庫の含み損について経費で落とせる範囲は例示されています。
(1)経費で落とせる含み損
・売れ残った季節商品のうち、明らかに通常価格で売れないもの
・在庫の商品のうち、型式、性能、品質等が著しく異なる新商品が開発されたことに伴い、明らかに通常価格で売れないもの
(2)経費で落とせない含み損
おもに次の原因により通常価格で売れない場合
・物価変動
・過剰生産
・建値の変更
在庫処分で確実に経費で落とせる
在庫の含み損を経費で落とせる範囲は限られていますが、在庫処分により含み損が確定すれば、確実に経費で落とせます。たとえば、過剰生産により通常価格で売却できないとします。購入金額よりも安値で売却すれば、差額分の含み損は確定し、経費で落せます。また、在庫を破棄すれば、購入価格と同額の廃棄損が計上できます。
つまり、含み損が経費で落せるかどうかは客観性が求められます。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_01_02.htm
在庫は消費税の計算に影響を及ぼす
在庫の金額は法人税などに限らず、消費税の計算にも影響を及ぼします。そこで、影響を及ぼすケースについて見ていきましょう。
免税事業者から課税事業者になった場合
そもそも課税事業者は「売上に対する消費税-仕入に対する消費税(仕入税額控除)」の残りの消費税を納付します。そのとき、免税事業者から課税事業者になった場合に消費税の計算に影響を及ぼします。具体的には、免税事業者の時に購入した在庫に対する消費税を課税事業者となった年度の仕入税額控除に含めて消費税を計算します。
課税事業者から免除事業者になった場合
課税事業者から免除事業者になった場合、期末の在庫は今期の売上に対応していないため、在庫に対する消費税は仕入税額控除から除いて計算します。そのため、たとえば免税事業者になるのを見越して、課税事業者のうちに多額の仕入税額控除を計上するために在庫を大量購入しても消費税の節税につながりません。
まとめ
在庫に関する税金のポイントは「所得金額や法人税などを正しく計算するために洩れなく計上すること」と「含み損を経費で落とす」の2点です。特に在庫の範囲は工場の経費や付随費用など幅広く、在庫の金額に含めないと税務調査で間違いが指摘される可能性があります。この記事を機に在庫について正しく理解し、税金対策に役立てましょう。
参考文献・URL
- https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/05/05_01_01.htm
- https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/05/05_01_02.htm
- https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/ts066.pdf
- https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/05/05_02_02.htm
- http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=340CO0000000097
- https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_01_02.htm
- https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/6491.htm
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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