どちらが得する?個人事業主と法人の税金・コストの違いを徹底比較
事業が拡大すれば、個人事業主と法人の税金・コストの違いは気になることでしょう。税金の種類が異なることで、税金の計算や経費の計上方法が違ってきます。また、消費税や社会保険も異なり、資金繰りに影響を及ぼします。そこで、個人事業主と法人の税金・コスト面について徹底比較します。
個人事業主と法人に適用される税金
個人事業主と法人は所得金額に対して適用される税金の種類が異なり、コスト面に影響します。それでは、概要を見ていきましょう。
所得金額に対する税金
個人事業主と法人の所得金額に対する税金の種類について紹介します。
(1)個人事業主
すべての個人事業主に所得税と個人住民税が適用されます。さらに、物品販売業やデザイン業など70種類の法定業種には個人事業税も適用されます。累進課税制度を採用しているため、所得税率が所得金額に比例して高くなるのが特徴です。
(2)法人
すべての法人に法人税、法人住民税、法人事業税が適用されます。また、個人事業主の事業所得に相当する法人の利益の一部を分配した役員個人の役員報酬は給与所得として、所得税と個人住民税が適用されます。所得税率はほぼ一律です。
経費の計上方法の違い
個人事業主と法人は経費の計上方法が異なり、所得金額の計算に影響を及ぼします。
(1)個人事業主
経費の計上額は「実際の負担額を実額計算した金額」と「青色申告特別控除額」の合計額になります。
(2)法人
法人自体の経費は実額計算をした金額のみです。一方、役員個人は支給する役員報酬に対して給与所得控除額という概算額での経費の計上が認められます。たとえば、役員報酬を年間1,000万円支給すれば、役員報酬にかかる経費の計上額は「支給額1,000万円+給与所得控除額220万円=1,220万円」になります。
得するのは個人事業主?法人?
個人事業主と法人のうち、税金・コスト面で得するほうはどちらかというのは単純には比較できません。たとえば、利益が多額の場合、法人のほうが役員報酬を支給して給与所得控除額を計上したほうが得する可能性があります。一方、個人事業税の法定業種以外の業種の場合、個人事業主なら法人と違い、事業税が免税になります。
所得税率の違いによる個人事業主と法人の有利不利を検証
同じ所得金額でも所得税率によって、納税額は違ってきます。たとえば、所得金額100万円に対して、所得税率が20%なら20万円、40%なら40万円と納税額の差は倍になります。
事業所得が黒字の場合
事業所得が黒字の場合、個人事業主の所得税率はコントロールできませんが、法人なら役員報酬を利用してコントロールすることが可能です。たとえば、1店舗のみの飲食店業が事業所得を900万円、所得控除100万円を計上したとします。個人事業主の場合、差額の課税所得800万円に対する所得税率は「所得税23%+個人住民税10%+個人事業税5%=38%」になります。
一方、法人の場合、代表者に役員報酬を500万円支給すれば、役員個人は給与所得346万円・課税所得金額246万円になり、会社の所得金額は400万円です。東京23区を例にすると、所得税率は次のようになります。
・法人:法人税15%(軽減税率を適用)+法人住民税12.9%+法人事業税3.4%=31.3%
・役員個人:所得税10%+復興特別所得税0.21%+住民税10%=20.21%
事業所得が僅少・赤字の場合
事業所得が僅少・赤字の場合は法人不利になる可能性が高くなります。赤字でも課税される住民税均等割の金額の違いがおもな理由であり、東京23区の場合は次の通りです。
・個人事業主:6,000円(2024年度以降は5,000円になる予定)
・法人:年7万円以上
たとえば、東京23区の事業者が事業所得100万円、所得控除100万円を計上したとします。個人事業主なら課税所得は0円になり、個人住民税の均等割6,000円のみ課税で済みます。一方、法人なら、最低でも「法人均等割7万円+役員個人に対する個人住民税の均等割6,000円=7万6,000円」が課税されます。
個人事業主と法人の経費を徹底比較
事業主と代表者(家族を含む)との関係により、個人事業主と法人の経費の計上方法に違いが生じます。個人事業主の場合、事業主と代表者は同一人物です。一方、事業主は法人、代表者は個人であり、代表者が会社に勤務する形態を採ります。
代表者の生命保険料・社宅代・通勤手当
代表者の生命保険料・社宅代・通勤手当は法人なら経費に計上できますが、個人事業主は計上できません。法人は会社勤務している役員個人に対する福利厚生費になります。一方、個人事業主は事業主と同一人物であるため、代表者に対する福利厚生という考えがなく、代表者の生命保険料・社宅代・通勤手当は経費として認められません。
役員退職金
法人は役員個人が退職したという形式が採れるため、役員退職金は適正額まで経費に計上することが可能です。一方、個人事業主には代表者が退職するという考えが成り立たないため、たとえ退職金と名目で支給しても経費として認められません。
青申告特別控除と給与所得控除
個人事業主の青色申告特別控除と役員個人の給与所得控除は現金の支出の伴わない経費です。青色申告特別控除は最高65万円、給与所得控除は最低額65万円~最高額220万円になります。
損益通算が認められる年数
損益通算とは、事業所得の赤字額を翌年以降の所得金額から控除できる制度です。しかし、認められる年数は次のように異なります。
- 個人事業主:3年間
- 法人:10年間
たとえば、開業年度の事業所得の赤字額が200万円の場合、個人事業主なら翌年以降3年間で使い切れないと、残額は切り捨てられてしまい、所得控除ができません。しかし、法人の場合は翌年以降10年間まで利用できるため、個人事業主よりも損益通算の有効活用ができます。
合わせて知っておきたい消費税・社会保険の知識
個人事業主と法人は消費税と社会保険にも違いがあります。それぞれの違いについて見ていきましょう。
個人事業主と法人の消費税の違い
そもそも消費税の納税義務者の判断基準は基本的に基準期間の課税売上高が1,000万円超かどうかになります。基準期間とは前々年度のことを指し、個人事業主は前々年、法人は前々事業年度になります。
個人事業主と法人の違いは、基準期間の課税売上高の計算方法です。個人事業主の場合、たとえば年度の途中で開業して事業活動の期間が1年未満でも課税売上高は年換算せず、実額で計算します。一方、法人は事業年度が1年未満なら年換算をします。
また、実績のある個人事業主が法人成りすることで、たとえ過去に年商1,000万円を超えていても、基準期間の課税売上高を0円にすることができます。法人化すれば設立年度に基準期間が存在しないからです。
個人事業主と法人の社会保険の違い
個人事業主と法人では社会保険の加入要件が違います。個人事業主の場合、従業員5人以下の規模や農林漁業・サービス業など特定の業種なら任意加入です。一方、法人は代表者のみであっても強制加入になります。
なお、社会保険料の事業主負担額は支給する給料の約15%になります。特に従業員を雇用する場合は社会保険料を加味して、個人事業主と法人を比較検討する必要があります。
たとえば、従業員に年間300万円の給料と賞与を支給すれば、社会保険料の事業主負担額は「給料300万円×15%=45万円」です。
まとめ
個人事業主と法人の税金・コストは適用する所得税率と経費の計上方法によって違いが生じ、従業員を雇用する場合には、社会保険料も加味する必要があります。税金・コスト面で個人事業主と法人のうち、得するほうの検討にあたっては、事業の状況によって違ってくるため、専門家に相談するのも一つの手です。
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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