離職による損失は深刻!中小企業における離職防止対策と活用できる助成金

従業員の離職に伴い企業が被る損失は、多くの企業で課題となっています。特に、優秀な人材の流出が続く、あるいは深刻な人手不足に陥っている中小企業では離職によるダメージはより深刻となるでしょう。今回は離職を防ぐための取組と離職防止に役立つ助成金について紹介します。

中小企業における離職の現状!助成金を活用して離職を防止

3年以内の早期離職者は3割超

中小企業では大企業に比べて離職率が高く、人手不足に陥る原因の1つといわれています。また、中小企業庁委託事業の平成26年度調査によると、中小企業における3年目の離職率は全体で3割を上回っていました。中途採用者と新卒者に分けると3年以内に辞めた人は中途採用者では約3割、新卒者にいたっては4割超でした。

 

社員が離職することにより、企業は採用コストや教育コスト、退職金などの金銭的な損失、あるいは知識や経験、スキルをもつ社員の流出に伴うダメージなども受ける可能性があります。さらに、労使間のトラブルなど社員の辞め方によっては同僚など在籍する社員のモチベーションなどにも影響を及ぼすことでしょう。引いては、生産性の低下なども起こり得るので離職の影響は深刻です。

労働者が離職を決めた主な理由

中小企業庁委託の調査によると、仕事を辞めた理由は人間関係(上司・経営者)のほかに、労働時間や業務内容、給与への不満、キャリアアップのためなどが上位を占めています。

 

また、家庭と仕事の両立を望む労働者が増えていることが近年の傾向です。経済産業省の発表によると介護をしている労働者は増加傾向にあり、介護を理由とする離職者は年間10万人で推移。介護離職だけでも、経済損失は約6,500億円と試算されています。企業としては、育児や介護など一定の制約がある労働者も働きやすい環境を整えるなどワークライフバランスを実現する取組が欠かせません。

離職防止対策に役立つ助成金

中小企業庁委託事業の調査をみると、人材の確保や定着に有効だった取組として賃金の向上や労働時間の見直し、休暇制度の徹底、さらに継続して働き続けられる人事制度(雇用の安定化)や資格取得支援などが挙げられています。有効とされる取組には助成金を利用できるものもあるので、助成金を上手に使いながら離職防止に取り組みましょう。

離職理由別の対策(1):労働時間が長い、残業が多い

労働時間の削減に向けた取組

労働時間の削減を図るにはITや設備の導入をはじめ、レイアウトの変更やアウトソースの活用などによる効率化、また、会議の削減や年次有給休暇の取得促進といった働き方の改革も必要でしょう。早番と遅番のシフト制を導入、あるいは稼働時間の延長が必要になったとき、早朝業務には高齢者を雇用して在職社員の労働時間を抑えた事例などがあります。

 

労働時間等の設定を改善し、一定の効果がみられた場合には「時間外労働等改善助成金」などを利用できるので、残業時間の削減など労働時間削減に向けて積極的に取り組みましょう。

年次有給休暇の取得促進で労働時間を削減

「時間外労働等改善助成金」のうち、「職場意識改善コース」は所定外労働時間削減だけでなく、年次有給休暇を「年間平均取得日数を4日以上増加」した事業主も対象となります。年休については「申請のしにくさ」が取得率の低迷に影響するといわれていますが、ある企業では雇用管理システムを導入し、電子申請にしたところ年休の取得率向上につながったそうです。他に、誕生日休暇やアニバーサリー休暇といった独自の休暇制度を新設し、労働時間の削減と社員の満足感向上を図っている企業もあります。

離職理由別の対策(2):賃金への不満がある

賃上げの取組と助成金

中小企業庁の平成26年度調査をみると、人材確保や定着に関して「賃金の向上」が有効な取組と答えた企業は62.9%(複数回答)を占めました。離職者を対象とした調査(中小企業庁の平成26年度と28年度調査)でも、「賃金への不満」は離職理由の上位を占める要因の1つです。

 

基本給だけでなく、手厚い福利厚生が離職の歯止めになるといった声も聞かれます。諸手当の支給をはじめ、健康に役立つ施設やサービスの充実、あるいは就労不能保険の保険料を企業が折半で負担するなど従業員のニーズに合った福利厚生を検討するとよいでしょう。

 

助成金には賃金アップに役立つものもあります。そのうち「業務改善助成金」は生産性向上を目的に設備投資を行い、1,000円未満の最低賃金を30円以上増額した場合、設備投資等の費用を一部助成するものです。

賃上げの実現で節税を図る

中小企業では、所得拡大促進税制の見直しに伴い、平均給与等支給額が「対前年度比1.5%以上の増加」等の要件を満たせば給与等の支給増加額について税額控除ができるようになりました。大企業では賃上げのほかに国内設備投資額に関する要件を満たさなければなりませんが、中小企業は賃上げ要件だけで済むのが大きなメリットです。

 

所得拡大促進税制の見直しは、平成26年度改正で行われた適用要件の緩和に加え、平成29年度改正では税額控除の上乗せが行われています。さらに、平成30年度改正では適用要件の改正と上乗せ措置の創設により、税額控除の増額につながる制度となりました。

非正規労働者の処遇改善で離職防止

従来から問題となっていた雇用形態による待遇差は、同一労働同一賃金の視点から企業が取り組むべき重要な課題となっています。非正規労働者の処遇改善を図るときには「キャリアアップ助成金」を利用するとよいでしょう。キャリアアップ助成金のうち、「賃金規定等改定コース」「諸手当制度共通化コース」は非正規労働者に対する賃金アップや諸手当制度の新設などの際に活用できる助成金です。

 

また、有期契約労働者を正規雇用するなどの取組には、キャリアアップ助成金の「正社員化コース」を利用することができます。「正規」にはフルタイムに限らず、短時間正社員や勤務地限定正社員なども含まれるので、多様な正社員化を検討している場合には助成金を上手に活用してください。

離職理由別の対策(3):家庭と仕事の両立が難しい

育児や介護の両立を支援する

育児と仕事の両立を支援するときは女性社員だけでなく、男性社員への支援も重要となります。妊娠休暇のほかに配偶者の出産休暇を設けたり、男性社員の育児休業取得促進を図ったりしている企業では、徐々に男性社員の育児休業取得率が向上したそうです。また、妊娠や育児を理由とした離職者がゼロとなった企業では、1歳未満の子どもを養育中の労働者の場合、短時間勤務であっても給与の全額支給などの取組をしていました。

 

さらに、管理職を対象とする「イクボスセミナー」などを開催して管理職の意識を変え、育児休業を取りやすい職場の風土づくりに取り組む企業の事例なども報告されています。男性社員が育休を取りやすい職場風土づくりに取り組み、一定期間の育休を取得した場合、あるいは介護と仕事の両立に関する職場環境整備に取り組む場合は「両立支援等助成金」を活用するとよいでしょう。

多様な働き方を可能にする取組

離職防止を図るためには従来の方法に固執せず、柔軟に考えていく必要があります。平成29年に改正となった育児・介護休業法では、小学校就学前までの子どもを養育中の労働者(男性も含め)が育児目的でも休暇を取得できるようにすることが事業主の努力義務となりました。例えば、失効した年次有給休暇を積み立てる「失効年次有給休暇の積立制度」を導入し、育児目的でも利用可能にするなどの方法もよいでしょう。

 

また、テレワークの導入など多様な働き方、裁量のある働き方が可能になると労働者の「働きやすさ」につながります。「時間外労働等改善助成金」「テレワークコース」はテレワークを新規に、あるいは継続して活用している中小企業の事業主を対象に助成するものです。

 

支給対象となるのはテレワーク導入に要する備品費のほかに、謝金や旅費、会議費などの経費も含まれます。1人あたりの上限は成果目標を達成した場合は20万円まで、未達成の場合も10万円まで支給されます。

まとめ

離職防止は決して容易ではありませんが、他社の取組事例を参考にしたり、助成金を利用したりしながら取組を始めましょう。新たな取組を始めるときは、経営者や管理監督者の意識が大きく影響します。経営者が従業員全員に基本理念を示すうえで迷いがあるときは、経営者向けの意識啓発を目的とした無料セミナーの開講や無料相談などを利用する方法もあります。さらに、自社の課題を明らかにし、より自社に合った方法で離職防止に取り組むためには専門家による個別支援を検討するとよいでしょう。

*参考URL

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