今こそ賃上げ?所得拡大促進税制見直しによる影響とは

[取材/文責]山田隆裕

所得拡大促進税制という制度を聞いたことがあるでしょうか。簡単に言うと、賃上げをすることによって、法人税がいくらか控除されるという制度です。この制度が改正されるため平成29年度からはさらに法人税を節約できるようになるかもしれません。

所得拡大推進税制の現行制度は?

平成29年度から改正される要件について触れる前に、まずは現行制度について紹介をします。
まず所得拡大促進制度とは、青色申告書を提出している法人(または個人事業主)が、下記の3つの要件全てを満たしていた場合に、給与等支給額の増加額の10%を法人税額(または所得税)から控除できるという制度です。(ただし、控除額は法人税額の10%(中小企業の場合は20%)が上限)

要件① 給与等支給額の総額が平成24年度から一定割合以上増加していること
要件② 給与等支給額の総額が前事業年度を上回っていること
要件③ 平均給与等支給額が前事業年度を上回っていること

この3つの要件を満たしていれば、法人税の控除が受けられるのですが、「雇用促進税制」などによりすでに控除を受けていた場合、この制度は利用できないので注意しましょう。雇用促進税制とは、事業年度中に雇用者数を5人以上(中小企業は2人以上)かつ10%以上増加させるなど一定の要件を満たした事業主に対する税制優遇制度のことを指します。

要件①と②で提示されている給与等支給額とは、国内雇用者の給料の総額から役員報酬、役員の親族やその関係者に対する給料、退職手当などを除いたものを指します。この国内雇用者とは、法人や個人事業主の有する国内の事業所に勤務する雇用者で、国内に所在する事務所につき作成された賃金台帳に記載された者のことをいいます。この中には、パート、アルバイト、日雇い労働者も含みますが、使用人兼務役人を含む役人及び役員の特殊関係者、個人事業主と特殊の関係のある者は該当しません。

要件①

簡単に言うと、役員と役員の親族の給与や、所得税非課税の給与を除く、損金算入された給与総額が一定以上増えているかどうかに関するものです。この割合については下の表を参考にしてください。

大企業 中小企業
H25.4.1以降に開始するもっとも古い事業年度のひとつ前の事業年度  基準事業年度
H25.4.1~H26.3.31に開始する事業年度(平成25年度) 2%
H26.4.1~H27.3.31に開始する事業年度(平成26年度) 2%
H27.4.1~H28.3.31に開始する事業年度(平成27年度) 3%
H28.4.1~H29.3.31に開始する事業年度(平成28年度) 4% 3%
H29.4.1~H30.3.31に開始する事業年度(平成29年度) 5% 3%

要件②

雇用者給与等支給額が、前事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額以上かを確認するものです。

要件③

適用年度の継続雇用者一人あたりの平均給与が、前事業年度の継続雇用者一人当たりの平均給与を上回っているかどうかを確認します。この継続雇用者とは、適用年度及び前事業年度において給与等の支給を受けた国内雇用者のことを指します。適用年度に新しく入社した者や前事業年度中に退職した者は原則として含まれないので注意しましょう。

所得拡大推進税制 改正後の要件

今回の見直しでは、
①平成28年度を上回る賃上げを実現するため、企業の賃上げインセンティブを強化すること
②大企業に関しては、平成29年度に高い賃上げを行うインセンティブを強化させること
③中小企業は、現行制度による賃上げ促進に加え、29年度に高い賃上げを行う企業を強力に支援すること
これらを主な目的にしています。

具体的に変更されるのは、現行制度における要件③に該当する内容です。本税制改正では、中小企業と大企業でそれぞれ要件が異なり、より中小企業が賃上げを実現しやすいようになりました。
ここでいう中小企業とは、資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人でその発行済株式または出資の総額または総額の一定割合(一つの法人により50%または複数の法人合計で3分の2)以上を大規模法人に所有されていない法人、及び資本もしくは出資を有しない法人または個人で常時使用する従業員の数が1000人以下のものをいいます。

大企業の場合

● 賃上げ率2%以上の企業
前年度からの増加額について税額控除を2%上乗せ
● 賃上げ率2%未満の企業
支援対象から除外

(参考:「平成29年度税制改正の概要について」中小企業庁)

中小企業の場合

● 賃上げ率2%以上の企業
前年度からの増加額について税額控除を12%上乗せ
● 賃上げ率2%未満の企業
現行制度と変わらず、10%の税額控除を維持

(参考:「平成29年度税制改正の概要について」中小企業庁)

中小企業の方が賃上げした場合に多く税額控除を受けられることが分かります。つまり、大企業よりも中小企業のほうが今こそ賃上げを進めるときであるということです。

今まで中小企業が賃上げを渋っていた理由の一つとして、法人税等の税負担が挙げられます。日本商工会議所が発表した「平成27年度最低賃金引き上げの影響に関する調査」によれば、最低賃金引き上げに対応するために必要と考える支援策の中で、「法人税等の税負担の軽減」は「社会保険料負担等の軽減」に次いで高い割合の事業者が選択しています。
今回の所得拡大促進税制の見直しにより、法人税負担が軽減される可能性が高まったことにより、多くの中小企業が賃上げに踏み切るのではないでしょうか。

☆ヒント
紹介したとおり、大企業よりも中小企業の方が賃上げのチャンスであることがお分かりいただけたと思います。しかし、そうはいっても、事業の資金繰りや社内状況によっては賃上げが最適解であるとは限りません。本税制改正に乗っかって賃上げをして従業員のモチベーションを高めるのが良いのか、本年度の税制適用は見送るべきなのか―専門家としっかり議論した上で決断を下すと良いでしょう。税理士はそのような悩みを聞いてくれる良きパートナーとなってくれるのではないでしょうか。あなたの会社には経営状況を客観的に判断し、適切なアドバイスをしてくれる税理士はいますか?

まとめ

賃上げを行えば、社員のモチベーションも上がり会社が活性化します。今回紹介した所得拡大促進税制が見直された今こそ、税理士と相談をして賃上げを検討するタイミングだと言えるでしょう。
税理士とのミーティングは、営業先とのミーティングに比べて直接的な利益に結びつかないからと多くの事業主の方は敬遠しがちです。しかしながら今回のような税制見直しについて頻繁に税理士と話し合い、取捨選択しながら判断をすることで結果的に経営状況の改善につながるのではないでしょうか。

慶應大学卒。現、同大学院所属。
大学4年時に公認会計士試験に突破。
自分の知識の定着も兼ねて、会計・財務などに関する知識を解説していきます。

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