財務分析を経営に活かす方法|指標の見方と実践するための基本ステップ

[取材/文責]マネーイズム編集部

「業績を改善したいけど何をすればよいか分からない」「他社と比べてどうなんだろう」と、経営に対する不安は尽きないのではないでしょうか。企業が安定した経営状態を保ちながら成長し続けるには、正しい状態を把握しておかなければなりません。

経営状態が厳しいのであれば、これ以上悪化しないための施策を打つ必要があります。逆に経営を伸ばしたいのであれば、業績を向上させるための予想を立てておいたほうがよいでしょう。

そこで活用しておきたいのが「財務分析」です。今回は、財務分析と企業が成長していく上で知っておきたいポイントを解説します。

基本指標を知る:売上総利益率やROEの理解

企業経営を行う上で分析は欠かせません。とはいえ、ただ単に分析した数値を比較・検討するだけでは、経営状態を正しく把握することは難しいでしょう。

そこで、財務指標の活用をおすすめします。財務指標とは企業の財務状況を評価するための指標で、4分類・23種類に分かれます。

収益性分析

項目 説明
1. 売上高総利益率 売上高に対する売上総利益の比率(粗利率)
2. 売上高営業利益率 売上高に対する営業利益の比率
3. ROA(総資産利益率) 総資産を使ってどれだけ当期純利益を生み出したかを示す指標
4. ROE(自己資本利益率) 自己資本を活用してどれだけ当期純利益を生み出したかを示す指標
5. 総資産回転率 保有する総資産が年間でどれだけ売上を生み出したかを見る指標
6. 売上債権回転期間 売上債権の回収に要する日数(短いほど資金繰りが楽)
7. 損益分岐点 利益が発生する最低限の売上高

成長性分析

項目 説明
1. 売上高成長率 前年と比較して売上高がどれだけ増加したかを示す指標
2. 経常利益成長率 前年と比較して経常利益がどれだけ増加したかを示す指標
3. 総資本成長率 前年と比較して総資本がどれだけ増加したかを示す指標

安全性分析

項目 説明
1. 流動比率 短期的な債務の支払い能力
2. 当座比率 当座資産のうち換金しやすい資産(現金・売掛金等)と
短期の負債を比較した指標
3. 手元流動性比率 手元の資金で何か月分の営業活動を維持できるか
4. 固定比率 自己資本で固定資産をどの程度カバーできているか
5. 固定長期適合率 固定資産が自己資本と長期借入金でどの程度まかなわれているか
6. 負債比率 自己資本に対し負債が何倍あるか
7. 自己資本比率 総資本に占める自己資本の割合

生産性分析

項目 説明
1. 付加価値額 企業が生み出した価値
2. 付加価値率 売上高のうち付加価値が占める割合
3. 労働分配率 付加価値のうち人件費にどれだけ割り当てられているか
4. 労働生産性 従業員一人当たりの付加価値額
5. 一人当たり売上高 従業員一人当たりの売上高
6. 設備生産性 設備投資によってどれだけ付加価値を生み出したか

売上総利益率の計算方法と解釈

売上高総利益率は、企業の大まかな利益率を表す基本的な指標です。
以下の計算式で求められます。

売上総利益率(%)=売上総利益※ ÷ 売上高 × 100
※売上総利益(円)=売上高 – 売上原価(原材料費)

比率が高いと、少ない原価(コスト)で多くの利益を上げられているという根拠になります。売上総利益率の推移を見ると企業の収益構造がどう変化したのかが分かるでしょう。

利益率が下がっている場合はコストの削減や、価格の見直しを行う必要があります。基本的に、利益率は高いことが望ましいですが、業種によって異なるため一概には言えません。

売上総利益率の平均値について
製造業:平均値22.3%(中小企業24.9%、大企業21.0%)
卸売業:平均値11.8%(中小企業15.8%、大企業9.5%)
小売業:平均値27.6%(中小企業28.5%、大企業26.7%)
飲食業:平均値55.9%(中小企業56.8%、大企業54.5%)

なお、単純に多いか少ないかを比較するだけでは、十分ではありません。同業他社との比較が重要です。同じ業界の企業と比較することで、自社の改善点がどこなのかが理解できます。定期的に確認し、改善策を検討していきましょう。

ROE(自己資本利益率)が示す経営効率

ROE(Return On Equity:自己資本利益率)とは、自己資本を用いてどれだけ利益が出せたかを見る指標です。近年、企業の経営効率の高さを見る指標として、使われることが増えています。

計算式は以下の通りです。

ROE=(当期純利益÷自己資本)×100

ROEを改善させるためには、以下のポイントを押さえておく必要があります。

  • 利益を出す
  • 自己資本を減らす
  • 負債を増やしすぎない

まず、利益を出すには、売上の増加、経費の削減を行うことです。次に、自己資本を減らす場合、自社株買いによって引き下げられます。

ただし、ROEを気にするあまり自己資本を減らしすぎると、財務が脆弱になるリスクを伴うことは理解しておきましょう。さらに、負債が増えすぎていないかは確認が必要です。

事業を拡大するために多額の借り入れをした場合、利益は増えるものの同時に負債が増えすぎるケースもあります。そのため、ROEを見る場合は、他の指標である「自己資本比率」「負債比率」など、財務指標の安全性分析も検証しておきましょう。

なお、ROEの目安として10〜20%が優良企業の位置づけです。

財務指標を経営戦略にどう活かすか

財務指標は企業の成長性や、健全性などを示す重要なバロメーターです。単に数値を把握するだけでは十分とは言えません。それぞれの指標を経営に活かすことで、さらに会社の収益性を改善できます。

また、経営戦略を立てる場合、指標を活用することで企業の成長や、リスクを軽減させることも可能です。なお、財務指標は単年度だけではなく、複数のトレンドで見ておきましょう。

少なくとも、3期を比較することで変化が分かります。また、推移を見ることでも、課題が浮き彫りになりやすいでしょう。

収益性改善に向けた指標活用の事例

収益性の改善を行う場合、最初に売上総利益率を見ていきましょう。売上総利益率を活用することで、正しく分析ができるからです。なお、売上総利益率を改善するには、売上の増加、もしくは売上原価を減少させる必要があります。

例えば、売上に課題があれば、取引先の見直しや、価格交渉が必要となってくるでしょう。場合によっては、新商品の開発により、単価の高い商品を販売することで売上の増加が期待できます。

売上原価を見直す場合は、原材料費等の仕入れコストの見直しや、労務費など賃金の見直しも効果的です。売上高総利益率を見ていくことで、真の原因が何かが理解できます。

A社:売上高100万円-売上原価50万円の場合、売上総利益率 50%
B社:売上高110万円-売上原価60万円の場合、売上総利益率 約45%

単純に売上だけを見ると売上が大きいのはBです。しかしながら、仕入価格も同時に上がっているため、正しく価格転嫁できていないことで利益率は5%低いことが分かります。数値だけではなく、指標として見ることの重要性が理解できるでしょう。

また、ROEによる分析も効果的です。

C社:当期純利益10万円÷自己資本100万円の場合、ROE 10%
D社:当期純利益12万円÷自己資本130万円の場合、ROE 約9.2%

両社のケースでは利益だけで見ると、D社の方が良好ですが、自己資本が増えたため効率は逆に悪化しています。

資金調達と投資判断への応用ポイント

資金調達や投資判断を行う際、財務指標を使うことは必須です。例えば、資金調達の場合、金融機関へ相談をする際に決算書の提出を求められます。金融機関は、決算書の「貸借対照表」「損益計算書」を用いて指標の分析をするためです。

「収益面は黒字か」「財務は借り入れが重すぎるなどの問題はないか」など表面的なものから、指標をトレンドで分析しています。トレンドで見た数値をもとに様々なヒアリングを行い、問題なければ融資の決裁が下りるという流れです。

もし、金融機関の担当者からヒアリングされた内容に答えられなければ、安心して融資ができないと判断されてしまうかもしれません。その際に指標を理解して数字で説明できれば、信頼度も増します。

次に、新しいプロジェクトや事業への投資に対して、収益性やリスク構造の評価にROEを活用しましょう。投資の場合、ROEを見れば、収益性や効率性、安全性すべてが分析できます。

しかしながら、安全性の面である財務レバレッジには気をつけなければなりません。借入が大幅に増えて、財務が脆弱となっていたとしてもROEだけでは判定できないからです。ROEだけではなく、財務全体で判断していきましょう。

財務分析を実践するための基本ステップ

財務分析を実践するためにはいくつかのステップがあります。実践的に財務分析を活用するには数値を把握するだけでは十分とは言えません。

数値以外にも気をつけるべき点があります。

  • データ収集
  • 整理
  • 分析
  • 経営に反映

データを収集した場合は、いかに活用するかがポイントです。ここでは財務分析を実践していく上で重要なステップを紹介します。

財務データの収集と整理

財務データを収集するために必要となるのは「損益計算書」と「財務諸表」の2つです。キャッシュフロー計算書はある方が望ましいですが、決算書において必須書類ではないため、なくても分析は可能です。財務データの収集を行う場合、自社でデータ収集する際は決算書から行いましょう。

外部データを収集したい場合は、以下のようなツールがあります。
上場企業:EDINET、企業HPのIR情報、有価証券報告書
未上場企業:帝国データバンクや東京商工リサーチの信用調査

なお、集めたデータはエクセルにして時系列で保存しておくと、他の期との比較ができるため便利です。最低3年以上は入力して比較できる方が望ましいでしょう。

エクセルデータよりも精緻な分析を行いたいのであれば「BIツール」の活用がおすすめです。BIツールは企業が持つデータを分析し、見える化できるソフトウェアのことです。グラフなど、数値以外の分析にも長けているため検討してみましょう。

重要な指標の分析結果を経営に反映させる方法

ここでは、財務指標を経営に反映させるための重要な方法をお伝えします。

  • 経営戦略を立案する
  • 他社との比較による分析
  • 長期の事業計画策定時に使用する

まず、経営戦略を立案する場合、財務指標を活用することによって、客観的な数値による自社の強みと弱みを洗い出せます。

次に、他社と比較する場合も指標を活用して、課題を適切に把握しましょう。大抵の場合、定性的な要因ではなく、定量的な要因によって課題を認識できることがほとんどです。

最後は、長期の事業計画を策定していきましょう。最低、5〜10年の計画を策定しておくことが重要です。なお、事業計画は一度作成して終わりではありません。毎年、計画と実績を対比することで、自社の改善につなげていかなければなりません。

まとめ

企業経営において、財務分析は会社を支える重要なツールであり、単なる数値を現すものではありません。売上総利益率やROEの指標を理解することで、収益性や経営効率を把握できます。

また、財務指標を分析することで、価格の設定やコスト削減、資本の効率化を図ることで、今後の資金調達や投資判断に役立てることも可能です。実践するには、データを正確に収集し、適切な指標を分析することで具体的な経営戦略に活かせます。

これからの安定した企業経営のためにも、財務指標をうまく活用し、さらに経営力の強化に結び付けましょう。

中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。

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