「資産」を「費用」に変えていく「減価償却」のキホンのキを解説します
会計の世界でよく聞くけれど、いまひとつ「意味不明」な用語に、「減価償却」があります。「原価」ではなく「減価」!? いったい何を意味しているのでしょうか? わかりにくいけれど、事業に大きく影響しかねないその会計処理について、基本的な考え方を中心に、1からおさらいしてみることにします。
固定資産の費用を「分割」で計上していく
例えば、個人事業を営むあなたが仕事用に15万円のパソコンを購入したとします。仕事に使うのだから、当然必要経費として認められ、所得税を計算する際には、その購入額を利益から差し引くことができます。ただし、購入した年度の確定申告で、その費用を全額経費にすることは、原則としてできません。そのことが、「減価償却」を考える“入り口”になります。
なぜ、一括で経費計上することができないのでしょうか? パソコンは、通常何年か使うことを前提に購入する、というところがポイントです。その使われる年数(「耐用年数」)の間、収益に寄与することになる。だから、購入費用についても、耐用年数で分割して経費計上(「償却」)してください――、それが、減価償却の基本的な仕組みなのです。実務的には、購入価格をいったん資産に計上したうえで、年度ごとに経費として処理していきます。
もし、そうした費用を一括計上すると、どうなるでしょう? その年度の利益は、大きく減少することになります。企業が高額の機械設備を導入したような場合には、赤字になるかもしれません。ところが、その設備がフル稼働することで、翌年度からは大幅黒字。これでは、事業活動や財務状況の実態と決算数字との間に、大きな乖離が生まれてしまうことにもなるでしょう。
別の側面からみてみましょう。耐用年数4年のパソコンを1年使えば、「使える」のは、あと3年。1年間で、「老朽化」が進みます。新型モデルが登場すれば、市場価格も下がるでしょう。買ったパソコンの価値は、1年間で確実に下がるのです。それが「減価」。「資産に計上された価値を、実態に合わせて減らしていくのが減価償却である」と言うこともできるわけです。
固定資産=減価償却ではない
上の説明でおわかりのように、減価償却の対象になるのは、「事業のために活用され、時間の経過によって価値が減っていく資産=減価償却資産」です。ですから、価値が減少しにくい、あるいは高まる可能性のある資産などは、対象になりません。
例えば
- 土地
- 借地権
- 絵画や骨とう品
- ゴルフ会員権
- 有価証券
といったものです。
当然のことながら、どんなに高額でも1年以内に「使い切る」資産は、一括で経費計上することができます。また、取得価格が10万円未満のものも、減価償却の対象外。同じパソコンでも、基本的に購入額9万円ならば「消耗品」として一括で経費計上し、15万円だったら減価償却を行うことになるわけです。
「耐用年数」はどう決める?
ここで気になるのが、何年かけて償却するのか? 言い方を変えると、固定資産の耐用年数をどうカウントするのか? ということ。単純な話、長い期間をかけて経費にしていけば、各年度の利益に与える影響(利益の減少)は、少なくて済みます。逆に、大幅に利益の出ている時期に、短期間で経費として処理することができれば、大きな節税効果を生むといったケースもあるでしょう。
そもそも、納税する側が耐用年数を自由に決めることができるのか? 答えは「イエス」です。ただし、その場合には、恣意的な「税逃れ」などではないことを、税務署に対してきちんと説明しなくてはなりません。税法では、資産ごとに「法定耐用年数」が定められていて、説明が認められなければ、それに則った方法で計算をやり直さなければならなくなるのです。そうしたこともあって、実際には最初からそれに従って計上する場合がほとんどです。
ただ、この法定耐用年数はあくまでも法律上の概念で、実際の使用年数、耐用年数とは、必ずしも一致しないことに注意が必要です。パソコンを2年で買い替えても、10年使ったとしても、法定耐用年数は4年。仮に実態と違っていても、そこは割り切るしかありません。
具体的な年数に関しては、国税庁のホームページに「耐用年数表」が載っていますから、参考にしてください。
「定額」にするか「定率」にするかは、決められる
減価償却の会計処理の仕方も税法に定められていて、主として次の2つがあります。
◆定額法
減価償却費が、毎年同額になるように配分する方法です。ただし、資産の取得価格を単純に法定耐用年数で割ると端数の出る可能性があるため、計算式は「取得価額×定額法の償却率」となります。
◆定率法
毎年、未償却の資産額に一定の償却率を掛けた金額を、経費として計上していきます。未償却の金額は年々減っていきますから、減価償却費は最初の年ほど多く、徐々に減少することになります。計算式は「期首末償却残高×定率法の償却率」です。
ただし、この定率法には、「償却保証額」、要するに「最低支払わなければならない償却額」が定められていて、上の計算式で求めた償却額がこれを下回ったら、その年からは「改訂取得価額×改訂償却率」で計算される金額を、残る年度で同額ずつ経費計上していくことになります。なお、「改訂取得価額」というのは、初めて償却保証額に満たなくなった年の期首末償却残高のことです。
耐用年数ごとの償却率などについては、やはり国税庁ホームページを参照してみてください。
どちらの方法で減価償却を行っていくのかについては、納税者が選択できます。業績好調で利益が出ているのならば、早めに多くの経費を落とせる「定率法」にして、節税メリットを確実に享受するのが定石でしょう。逆に赤字に近い状態が続いているような場合には、当面経費を多くするメリットはあまりありません。とりあえず「定額法」にしておいたほうが、将来的に有利になる可能性があるのではないでしょうか。
とはいえ、それはあくまで一般論です。具体的にどれだけ違いが出てくるのかも含めて、疑問に感じる点は、税の専門家の知恵を借りるべきでしょう。
まとめ
減価償却の対象になるのは、「それなりの買い物」です。説明してきたように、計算ひとつとっても、誰でも簡単にできるというものではありません。誤解して不利益を被ったりすることのないよう、処理には万全を期したいものです。
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