「人件費」は「給料」だけではない正しい理解が大切なワケ
「人手不足が深刻化して、バイトの人件費が上がっている」。そんな話を耳にします。ここでイメージされている「人件費」は、時給のこと。しかし、「人を雇うコスト」は、それだけではありません。会社経営にとって重要な意味を持つ「人件費」について、ここで整理しておきましょう。
「家族手当」も「福利厚生費」も人件費なのです
「人件費」の代表格が「給与」であることは、間違いありません。ただ、経営者として、それだけに目を奪われていると、思わぬ“コストの落とし穴”にはまる危険性があります。では、人件費に含まれる勘定科目(※)には、どのようなものがあるのでしょうか? 順にみていきましょう。
◆給与手当
その名の通り、従業員に支払われる「給与」(給料)のことです。ここには、「基本給」はもちろん、「歩合給」のほか、残業をした時の「時間外手当」や、対象の扶養家族がいれば支払われる「家族手当」といった手当ても含まれます。さらには、「通勤定期代」などもこれに該当。なお、パートやアルバイトなどの臨時の授業員に支払われる給与は、「雑給」として処理されることもあります。
◆賞与
従業員へのボーナスです。一般的には「賞与」にしますが、給与の後払いと考えて、「給与手当」に含めることもあります。
以上の、従業員の給与手当・賞与は、原則として全額を「損金」(経費)として収益から差し引くことができます。従業員には、パートやアルバイト、嘱託社員なども含みます。彼らに支払った金額が収益から差し引けるということは、そのぶん法人税が安くなることを意味します。
◆役員報酬・役員賞与
他方、取締役や監査役などに対して支払われる「役員報酬」や「役員賞与」は、従業員とは別の勘定科目が用いられます。そして、今説明した「損金」の扱いも、従業員とは違いがあります。
どのように違うのか? 定期的に支払われる「報酬」については、明らかに高すぎる場合などを除き、損金算入が認められますが、「賞与」のほうは、原則としてそれが認められないのです。ですから、「役員賞与」として支出したぶんにも、法人税が課税されることになります。
◆法定福利費
「人を雇った時にかかるコスト」は、給与・賞与以外にも発生します。1つは、健康保険・介護保険、厚生年金保険の「社会保険」と、労災保険、雇用保険の「労働保険」についての費用で、会社がその保険料の一部(労災保険は全額)を負担しなくてはならなりません。これらは、「法律に定められた福利厚生費」=「法定福利費」と呼ばれます。特に規模の小さな会社にとっては、その負担は無視できないものになります。
余談ながら、社会保険については、以前は未上場の中小・零細企業、起業したての会社などについては、未加入でも「スルー」されるケースがありました。しかし、社会保険庁の姿勢が厳格化し、当然のことながら、現在では実態的にもそれが許される環境ではなくなりました。
◆福利厚生費
普通にイメージされる「福利厚生費」は、社員の慰安旅行や健康診断、冠婚葬祭、あるいは従業員との飲食代、忘年会、新年会などに支出される任意の費用でしょう。これも、立派な「人件費」なのです。
◆退職金
そして、忘れてならないのが、従業員や役員が退職する際に、過去の労働に対する慰労、功労という意味合いで支払われる「退職金」です。退職時に一括で支払われる「退職一時金」と、年金方式の「退職年金」があります。従業員は、いつ辞めるかわかりません。特に前者の場合は、退職者が出るたびに多額の現金が必要になりますから、注意が必要です。
簿記における計算のための区分単位。
人件費は、事業の生産性などを測るために必要な数字である
以上が、人件費の主な「構成要素」になります。これを踏まえたうえで、人件費をきちんと把握する意味がどこにあるのかを、「労働分配率」を例に挙げて考えてみましょう。
人手不足だからといって、自社の体力を超えた給与をうたって人を採用したりすれば、経営自体が危うくなってしまうでしょう。「自分の会社の適正な給与レベルは、どのくらいなのか?」は難問です。それに答えを出すための指標の1つが「労働分配率(%)」で、「人件費÷付加価値額」で求めることができます。
「付加価値」は、「会社が事業によって付け加えた価値」のことで、例えば原材料を700円で仕入れて1000円で売ったら、付加価値額は300円。売上額に利益率を掛けた「売上高総利益」とほぼイコールと考えて、OKです。ですから「労働分配率」は、「会社が価値を生むために、どれだけの人件費がかかっているか」を測る指標ということになります。
この比率が低いほど、「少ない人件費で高い価値を生んでいる」すなわち「労働生産性が高い」ことを意味します。例えばこの値を業界水準と比較すれば、自社の生産性が高いのか低いのかが、感覚ではなく数字でわかります。生産性が高ければ、「もう少し給与のレベルを上げられる」といった経営判断も、可能になるのではないでしょうか。
気をつけなければいけないのは、この計算のベースになる「人件費」には、さきほど説明した法定福利費や福利厚生費、退職金などがすべて含まれるということ。ここに不理解があると、経営に役立つどころか、ミスリードする危険もあるわけです。
まとめ
人件費は、給与や賞与だけではない。そうした理解を前提に、自社の人件費を正確に把握することは、会社の実情を知るうえでも、さまざまな経営判断を下す際にも、重要な“武器”になるでしょう。
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