年商いくらから法人化すべき?個人事業主の売上と税金について解説

[取材/文責]阿部正仁

年商が増えれば納める税金も増えて、法人化を考える個人事業主は多いでしょう。しかし、年商だけが法人化すべきタイミングの基準になるとは限らず、さまざま基準があります。そこで、法人化すべきタイミングをテーマに、個人事業主の売上と税金について解説します。

法人化すべきタイミングを考えるポイント

年商は法人化すべきタイミングを考える目安のひとつに過ぎません。そこで、法人化すべきタイミングの具体例について説明します。

所得金額を基準に考えるのが基本

そもそも所得税などの税金は年商でなく、個人事業主のもうけに相当する所得金額に税率をかけて計算します。そのため、たとえ年商が少額でも、所得金額が多額なら税金も多額になります。

 

法人化すべきタイミングは個人事業主の所得金額に対する所得税率が法人税率30%より高くなった場合です。法人化により、個人との税率の差を利用して節税するメリットを得ることができます。

 

所得税率は次の税率の合計税率になります。

課税される所得金額 所得税 住民税 事業税
195万円以下 5% 一律10% 一律3%~5%
195万円を超え 330万円以下 10%
330万円を超え 695万円以下 20%
695万円を超え 900万円以下 23%
900万円を超え 1,800万円以下 33%
1,800万円を超え4,000万円以下 40%
4,000万円超 45%

年商も法人化すべきタイミングの基準になる

年商1,000万円を超えた場合も法人化すべきタイミングの基準になります。年商1,000万円を超えた翌々年に課税事業者となり、消費税を納める義務があるためです。しかし、法人化すれば、設立した年度は免税事業者となり、消費税が免除されます。たとえば、個人事業主として課税事業者になる年に法人を設立すれば、消費税の納税義務を避けることができます。

 

また、消費税の簡易課税を例に、業種別の年商1,080万円(うち消費税80万円)に対する納税額をシミュレーションすると、次の通りになります。

 

業種 みなし仕入率 納付する消費税
卸売業(第一種事業) 90% 8万円
小売業(第二種事業) 80% 16万円
農業、建設業、製造業など(第三種事業) 70% 24万円
飲食業(第四種事業) 60% 32万円
サービス業など(第五種事業) 50% 40万円
不動産業(第六種事業) 40% 48万円

所得金額も年商も基準に考えないケース

所得金額や年商を法人化すべきタイミングの基準に考えないケースもあります。それは個人事業主よりも法人化にしたほうが社会的信用を得られる場合であり、節税よりも優先されます。たとえば、大口の新規取引を受注する条件として、上場企業などの得意先から法人化を求められるケースはあり得ます。

「年商=売上」の具体的な計算方法は?

そもそも年商とは、税法上の売上のことを指し、計算方法について厳格なルールが定められています。そのため、売上の計算方法について知っておく必要があります。

売上の計算方法の基本

売上に計上するタイミングは入金日でなく、「発生主義」という売上代金を受け取る権利が発生したタイミングで計上するのが税法上の特徴です。そこで、販売形態ごとに売上の計算方法を見ていきましょう。

商品を販売した場合

ヤフオクなどでの販売で商品を販売した場合、引き渡し基準により売上計上します。引き渡し基準とは、次のいずれかのタイミングで売上計上することを指し、得意先ごとに選択することができます。ただし、毎年継続的に適用することが必須です。

  • 出荷した日
  • 相手方に着荷した日
  • 相手方が検収した日
  • メルカリなどで売上が確定した日
  • 船積みをした日
  • 相手方において使用収益ができることとなった日(土地などの不動産が商品の場合に適用)

サービスを提供した場合

サービスを提供する場合も引き渡し基準に売上に計上します。具体的には次のいずれかのタイミングで売上に計上します。

  • サービスを提供した日
  • 制作したウェブサイトなどを納品した日
  • 納品したデザインを検収した日
  • クラウドソーシング上で売上が確定した日

回数券を販売した場合

回数券を販売した場合、販売した日に売上に計上します。そのため、サービスを提供する・しないは関係ありません。ただし、サービスを提供した日に売上に計上することができ、事前に税務署へ申請し、税務署長の承認が必要となります。

源泉徴収税額・手数料に注意する

そもそも売上とは、売上総額のことを指し、実際に入金される金額ではありません。そのため、「デザイナーなどが売上入金のときに天引きされる源泉徴収税額」や「ヤフオクやクラウドソーシングで差し引かれる手数料」を差し引いて計算しないように注意しましょう。

入金日で売上に計上することもできる

前述の通り、売上に計上するタイミングは入金日でありません。しかし、個人事業主に限り、例外として入金日のタイミングで売上計上することが認められています。

現金主義が認められる条件

そもそも入金日のタイミングで売上に計上することを「現金主義」といい、青色申告の小規模事業者であることが条件になり、白色申告には認められていません。小規模事業者とは、前々年の不動産所得および事業所得の合計額が300万円以下である個人事業主のことを指します。ただし、家族への給料に相当する事業専従者給与(控除)を差し引く前の金額であるため、判断ミスに注意しましょう。

手続き方法

初めて現金主義を選択する場合は、現金主義を適用したい年の3月15日までに「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を提出する必要があります。ただし、1月16日以降に開業した個人事業主が開業した年から現金主義を適用したい場合、開業した日から2ヵ月以内に提出しなければなりません。

現金主義のメリット・デメリット

現金主義のメリット・デメリットは次の通りです。

(1)メリット

  • 帳簿への記帳が簡単
  • 掛売の業種は売上計上を先延ばしにできる

(2)デメリット

  • 青色申告特別控除の最大額である65万円控除が受けられない
  • 前金を受け取る業種は前倒しで売上計上しなければならない

税理士に新規依頼をする基準となる所得金額・年商

所得金額や年商は法人化すべきタイミングの基準のみでなく、税理士に新規依頼をする基準にもなります。そこで、個人事業主が税理士に依頼すべきタイミングについて見ていましょう。

法人化すべきタイミング

個人事業主が法人化すべきタイミングで税理士に依頼するケースは多い傾向にあります。法人のほうが経理処理や確定申告が複雑になるためです。たとえば、法人の場合、確定申告書の作成をスムーズにするため、接待交際費の経理処理を接待飲食費とその他の項目に区分することが必要になるでしょう。

年商1,000万円を超えた場合

前述の通り、年商1,000万円を超えると、翌々年から消費税の課税事業者になります。たとえば、年商5,000万円以下の個人事業主の場合、「消費税を厳密に計算する本則課税」と「課税売上高をベースに概算額で計算する簡易課税」のいずれか得するほうを選択することができます。しかし、事前にシミュレーションをし、予測する必要があるため、ある程度の専門知識が求められます。

まとめ

法人化すべきタイミングを検討するのも、売上に計上するタイミングを理解するのも、専門知識が必要になります。特に法人化すべきタイミングの選択ミスは今後の事業活動に支障をきたしかねません。少しでも不安に感じたら、税理士に依頼することを検討してはいかがでしょうか。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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