効果絶大!?共済制度で効率的に節税ができるって本当?
不必要なものを経費で購入したり、利益を翌年以降に先送りにしたり……このような節税方法を取っている方はいませんか?このような本質を欠いた節税方法は、短期的には効果はあっても、長期的には効果はあまりありません。今回は、将来の資金を確保しつつ、節税が行える共済制度について紹介します。
そもそも共済って?
共済とは、居住地や職業など一定の共通点を持つ人々が掛け金を出し合い、死亡や病気など万が一の時に共済金を受け取れる仕組みをいいます。
保険との違い
近年、民間の保険ではなく共済を選ぶ人が増えています。ではなぜ人々は共済を選ぶのでしょうか。そもそも保険と共済はどこが違うのでしょうか。まずは2つの違いを説明します。
保険と共済のもっとも大きな違いは、保険は不特定多数の人が加入できるのに対して、共済は特定地域に住む人や、JA(全国農業協同組合連合会)、生協(日本生活協同組合連合会)のような特定の職業・組合に所属している人のみを対象としている点です。ただし、地域同士の共済事業を連携させ、共済に加入すると同時に組合にも所属する仕組みを作って間口を広げているものも多く、保険に比べて大幅に対象者が絞られるというわけでもないようです。
このほか、細かい違いについては以下に表にしてまとめます。
保険 | 共済 | |
---|---|---|
加入者 | 不特定多数 | 特定の地域や団体の組合員 |
運営者 | 保険会社 | 協同組合などの共済団体 |
監督官庁 | 金融庁 | 厚生労働省、農林水産省など共済団体により異なる |
用語の違い | ①保険料 ②保険金 ③契約者 ④配当金 |
①掛け金 ②共済金 ③加入者(共済契約者) ④割戻金 |
特徴 | ●単体保障から総合保障まで幅広い保障内容 ●終身保険と定期保険に分かれる ●保険期間中の保障内容は原則変化しない コスト面で有利なネット保険も登場し、保険料の価格競争が激化 |
●死亡保障と医療保障がセットになった総合保障のタイプの方が多い ●定期保険がメイン ●高齢になると保障が減額されるケースが多い 非営利運営をモットーとし、余剰金は割戻金として還元 |
共済に入るメリット
掛け金が安い
共済は完全に非営利で運営されており、人件費や広告費を最小限に抑えているため、安い掛け金でも民間の保険と同等の保障内容を受けられます。保険も名目上は相互扶助をうたっていますが、実際には営利を追求しています。保険金の不払い問題がたびたび生じているのも、営利追及によるものです。
割戻金が還元される
決算後、余剰分(割戻金)が出れば、加入者に還元されるのも大きな魅力です。そのため、実質負担の掛け金はさらに安くなります。
加入者の職業を問わない
保険の場合、自営業など収入が不安定な職業の人は、保険料が割高にされるなどの不利益を強いられますが、共済は特定の地域や団体の組合員であれば、職業によって不利を被ることはありません。
過去の病歴は医師の診断書が不要
共済は過去の病歴に関しては自己申告制なので医師の診断書が要らず、入院歴が「過去2年以内」、重病は「過去5年以内」に該当しなければ問題はありません。当然、保険では加入不可能です。
資金の積み立てで一石二鳥、小規模企業共済
小規模企業共済制度とは
個人事業をやめたとき、会社等の役員を退職したとき、個人事業の廃業などにより共同経営者を退任したときなどに備えて、生活資金等をあらかじめ積み立てておくための共済制度です。小規模企業共済法に基づき、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しています。
加入資格
常時使用する従業員が20人(宿泊業・娯楽業を除くサービス業、商業では5人)以下の個人事業主やその経営に携わる共同経営者、会社等の役員、一定規模以下の企業組合、協業組合、農業組合法人の役員
掛け金について
掛け金月額は、1,000円~70,000円までの範囲(500円刻み)で自由に選べ、全額が「小規模企業共済等掛け金控除」として課税対象となる所得から控除されます。
契約者貸付制度について
共済契約者は、払い込んだ掛け金合計額の範囲内で、事業資金などの貸付(担保・保証人不要)が受けられます。
掛け金納付月数の通算
共済金の請求事由(個人事業をやめた、会社等の役員を退職した、個人事業の廃業などにより共同経営者を退任した、など)が生じても、一定の条件を満たせば、共済金を請求せずにこれまでの共済契約を継続できます。共済契約者自身が継続する「同一人通算」と、配偶者または子が引き継ぐ「承継通算」があります。
共済資産の運用
払い込まれた掛け金は、将来受け取る共済金(解約手当金)支払いにあてるため、共産資金として他の経理とは区分して管理、運営されています。
節税効果
小規模企業共済制度には、掛け金を払い込むときと、共済金を受け取るときの両方で節税効果を受けられます。
掛け金を払い込むとき
払い込んだ掛け金は、全額が所得控除の対象となります。そのため、掛け金を仮に最大の7万円で設定した場合、年間84万円の所得控除が受けられます。
共済金を受け取るとき
共済金を一括で受け取る場合には退職所得扱いに、分割で受け取る場合には公的年金等の雑所得扱いとなり、受け取るときも退職所得控除が受けられます。
倒産防止共済について
倒産防止共済とは
倒産防止共済(経営セーフティー共済)とは、取引先事業者の倒産の影響を受けて中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防止するために、共済金の貸し付けを行う共済制度です。中小企業者の経営の安定を図ることを目的としており、中小企業倒産防止法に基づき、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しています。
加入条件
「引き続き1年以上事業を行っている中小企業者」かつ、以下の(1)または(2)に該当する方です。
(1)会社または個人の事業者 次の表の各業種において、「資本金の額または出資の総額」、「常時使用する従業員の数」のいずれかに該当する会社、または個人の中小企業者
業種 | 資本金の額または 出資の総額 |
常時使用する従業員数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業、その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万人以下 | 50人以下 |
ゴム製品製造業(自動車・航空機用タイヤおよびチューブ製造業ならびに工業用ベルト製造業を除く) | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業または情報サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
(2)組合 次のいずれかに該当する組合 ・企業組合、協業組合 ・共同生産・共同販売等の共同事業を行っている事業協同組合、事業協同小組合、商工組合 *上記に該当しない法人や組合(医療法人、農業組合法人、NPO法人、森林組合、老業協同組合、外国法人など)は加入できません。 上記(1)または(2)の条件を満たしていても、次のいずれかに該当する方は加入対象から外れます。 ・住所または主たる事業の変更を繰り返し行ったため、継続的な取引の状況の把握が困難な方 ・事業に関わる経理内容が不明な方 ・すでに貸し付けを受けた共済金、一時貸付金、早期償還手当金、解約手当金の返還を怠っている方 ・納付すべき所得税または法人税を滞納している方 ・12か月分以上掛け金の納付を怠ったため、または偽りその他の不正の行為等のため、中小機構によって共済契約を解除され、解除された日から1年を経過していない方 ・偽りその他の不正の行為により共済金もしくは一時貸付金の貸し付け、または早期償還手当金もしくは解除手当金の支給を受け、または受けようとした日から1年を経過していない方 ・現に共済契約者となっている方(重複加入はできません)
掛け金について
月額5,000円~200,000円までの範囲内で自由に選択することができ、掛け金総額800万円まで積み立てることができます。また、12ヶ月以上掛け金を払い込んでいれば、原則解約手当金が支給され、40ヶ月以上払い込んだ後に解約する場合は、掛金総額全額返還されます。
共済金について
加入後6か月以上が経過して、取引先事業者の倒産によって売掛金債権等が回収困難になった場合に、最高8,000万円の共済金の貸付が受けられます。
一時貸付金について
取引先事業者が倒産していなくても、解約手当金の範囲内で臨時に必要な事業資金の貸し付けが受けられます。
解約手当金について
共済契約者は任意に解約することができます。また、12か月以上の掛け金を払い込んだ方には解約手当金が支払われます。
承継について
個人事業の相続や法人の合併や事業の全部譲渡などが発生したときに、一定の要件を満たしていれば、事業を引き継ぐ相手に共済契約者の地位も引き継ぐことができます。
節税効果
倒産防止共済の掛金は、全額が課税対象の所得税から控除されるので、大きな節税効果があります。40ヶ月以上払い込んで任意解約すれば掛金全額が戻ってくることを考えると、倒産防止共済に加入することで、掛け金を経費に計上して節税を図りつつも、合法的に簿外資産を作れるというメリットがあります。 具体的な節税額は以下の通りです。
課税所得金額5,000,000円の場合
掛金月額 | 掛金年額 | 節税金 | 実質負担額 |
---|---|---|---|
10,000円 | 120,000円 | 36,500円 | 83,500円 |
20,000円 | 240,000円 | 73,000円 | 167,000円 |
30,000円 | 360,000円 | 109,500円 | 250,500円 |
40,000円 | 480,000円 | 146,000円 | 334,000円 |
50,000円 | 600,000円 | 182,500円 | 417,500円 |
60,000円 | 720,000円 | 219,100円 | 500,900円 |
70,000円 | 840,000円 | 255,600円 | 584,400円 |
*1「課税所得金額」とは、その年の総所得金額から基礎控除、扶養控除、社会保険料控除等の諸控除を引いた額で、課税の対象になる金額です。
*2税額は、平成26年6月1日の税率に基づき、所得税は復興特別所得税を含めて計算。住民税均等割については、5,000円とします。
資金操りにも役立つ、中小企業退職金共済
中小企業退職金共済とは
中小企業退職金共済法に基づき設けられた中小企業のための退職金制度です。中小企業者の相互共済と国の援助で退職金制度を確立し、これによって中小企業の従業員の福祉の増進と、中小企業の復興に寄与することを目的とし、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営しています。
加入資格
加入できるのは、以下の表にあてはまる企業です。ただし、個人企業や公益法人等の場合は常用従業員数によります。
業種 | 常用従業員数 | 資本金・出資金 | |
---|---|---|---|
一般業種(製造業、建築業等) | 300人以下 | または | 3億円以下 |
卸売業 | 100人以下 | または | 1億円以下 |
サービス業 | 100人以下 | または | 5千万円以下 |
小売業 | 50人以下 | または | 5千万円以下 |
掛け金について
掛け金月額の種類は次の16種類です。事業主はこの中から従業員ごとに任意に選択できます。
5,000円 | 6,000円 | 7,000円 | 8,000円 |
9,000円 | 10,000円 | 12,000円 | 14,000円 |
16,000円 | 18,000円 | 20,000円 | 22,000円 |
24,000円 | 26,000円 | 28,000円 | 30,000円 |
短時間労働者は、上記の掛け金月額のほか、特例として次の掛け金月額でも加入できます。
2,000円 | 3,000円 | 4,000円 |
掛け金月額は、加入後、「月額変更申込書」を事前に提出することで、いつでも増額変更が可能です。ただし掛け金月額の減額は、次のいずれかの場合にのみ行うことができます。 ・掛け金月額の減額をその従業員が同意した場合 ・現在の掛け金月額を継続することが著しく困難であると厚生労働大臣が認めた場合
通算制度について
中小企業退職金共済では、制度加入前の勤務期間を通算したり、企業間を転職した場合に掛け金の納付実績を通算したりすることができます。通算制度の利用でまとまった退職金を受け取ることができます。
退職金
「退職金=基本退職金+付加退職金」となります。基本退職金とは、掛け金月額と納付月数に応じて固定的に決められている金額です。一方付加退職金とは、運用収入の状況等に応じて決められる金額です。退職金の支払い方法は一括払いと分割払いの両方がありますが、一括払いの場合は退職手当として、分割払いの場合は雑所得として、それぞれ課税されます。
節税効果
中小企業退職金共済には、掛け金を払い込むときに節税効果が受けられます。掛け金は、個人事業者・法人ともに全額を所得控除として申告することができるのです。つまり、合法的に経費として計上して、税金を安くすることができます。
国・地方公共団体からの助成制度
正社員が新しく加入する事業主に対して、掛け金月額の2分の1を、加入後4か月目から1年間国が助成します。パート・アルバイトが新しく加入する場合も、助成金が以下の通り出ます。
掛金金額 | 助成金額 |
---|---|
2,000円 | 300円 |
3,000円 | 400円 |
4,000円 | 500円 |
また、掛け金月額の変更の際にも国から助成金が支払われます。掛け金月額が18,000円以下の従業員の掛け金を増額する事業主に、増額分の3分の1を、増額月から1年間国が助成します。ただし、20,000円以上の掛け金から増額する際は助成の対象にはならないので注意が必要です。また、親族のみを雇用する個人事業・法人については、いずれも助成がありません。
このほか、中小企業退職金共済に加入した企業に、独自の補助金制度を設けている地方自治体もあります。
まとめ
以上、中小企業が知っておくと便利な共済について解説しました。むやみに節税をしようとすると、結果的に無駄な支出を増やしてしまうことになりかねません。実際に節税に関してお悩みがある場合は、節税に強い税理士と相談してみると良いでしょう。
東京大学卒。
経理業務で得た知見や、中央官庁時代に得た法律や制度に関するナレッジを分かりやすく解説します。
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