年金の違いで老後はどう変わる?国民年金と厚生年金の違いと備え方

[取材/文責]矢萩あき

会社員からフリーランス・個人事業主になると、年金は厚生年金から国民年金へと切り替わります。国民年金と厚生年金、どんな違いがあるのでしょうか?加入要件や保険料、将来に受け取る年金の違いを説明します。仕事を辞めた後の備えについても考えていきましょう。

転職で厚生年金から国民年金に!違いと注意点

会社員から個人事業主への転身で年金も変わる!

会社員からフリーランス個人事業主になると、社会保険が変わります。会社員の健康保険はそれぞれの会社独自の健康保険組合や協会けんぽだったのに対し、フリーランス・個人事業主は市町村の国民健康保険になります。年金は厚生年金から国民年金に変わり、保険料の金額や支払い方も変わります。

 

会社員時代は毎月の給料から天引きされる形で支払われていた年金保険料は、フリーランス・個人事業主は自分で金融機関やコンビニなどで支払わなければならなくなります。支払いを忘れたり滞らせたりすると未納になり、将来年金が受け取れなくなったり年金額が減ったりしてしまいます。

 

国民年金になる手続きは簡単です。しかし、会社にやってもらうことはできず、自分でしなければなりません。住んでいる役所の国民年金窓口へ出向き、年金手帳を提出する手続きを行います。年金手帳には勤めていた会社の名前や退社日が記載されており、退社日の翌日からは国民年金となります。

厚生年金から国民年金になったら老後の年金はどう変わる?

転職によって厚生年金から国民年金になると、老後は国民年金と、支払った分に応じた厚生年金の両方を受け取れます。国民年金で未納がなければ満額の老齢基礎年金、厚生年金は加入していた年月の長さ、給料額にもとづいて支払ってきた年金保険料から計算される老齢厚生年金が支払われます。

 

転職で会社員を辞めると、受け取る老齢厚生年金は少なくなるケースが一般的です。多くの中途退社の場合、厚生年金に加入していた期間が短くなり、年金保険料もそれほど支払っていないため、定年まで会社員として厚生年金に加入し続けた人とは、受け取る老齢厚生年金の額に大きな差がつきます。

日本の年金制度の基本を知ろう!入らないとどうなる?

そもそも年金はどんな制度?

年金制度は働いて収入のある人が保険料を支払い、高齢になるなど働けなくなった人に年金として給付を行う制度です。支払われた保険料は、現在の年金の支給に使われます。自分が支払った保険料は将来の自分が受け取るのではなく他人の年金として支給され、将来に自分が受け取る年金はそのときに働いている人が支払う保険料から支払われます。この仕組みは賦課方式といい、「世代と世代の支え合い」であるとされています。

 

日本の年金は国民年金をベースにその上に厚生年金が乗っている形になっていて、よく国民年金を1階部分、厚生年金を2階部分とする2階建の建物に例えられます。会社員は厚生年金に入りますが、同時に国民年金にも入ります。国民年金のなかでは国民年金だけに入るフリーランス・個人事業主は第1号被保険者、厚生年金にも入る会社員は第2号被保険者として区別されます。

年金に入らないことはできる?入らないとどうなる?

日本では20才以上、60才未満の国民は全員、年金に入らなければなりません。「国民皆年金(こくみんかいねんきん)」という強制加入の制度になっていて、対象年齢の国民は収入のある・なしに関係なく全員が入ることを義務づけられています。学生であっても20才になったら国民年金に入り、保険料を支払う必要があります。

 

もし国民年金に加入しなかったり保険料を納めなかったりすると、年金を受け取れない場合があります。たとえば、老後の生活に必要な年金が支払われなかったり、保険料を納めなかった未納期間に応じて、受給できる年金額が減ったりします。

会社員と個人事業主の年金の違い

国民年金に入る人と厚生年金に入る人の違い

フリーランス・個人事業主のように国民年金だけに入る人は、他に学生やフリーターなどがいます。20才になったら収入がなくても年金には入らなくてはならず、学生で保険料が払えない場合は、親が代わりに払ったり、特例納付制度で働き出してからの後払いとしたりします。

 

会社員は就職して勤めている間、厚生年金に入ります。国民年金と同じ20才から60才までという年齢要件はあるものの、学校を卒業してすぐに就職した場合は、20才になっていない15才や18才でも厚生年金に入れます。また、60才を過ぎて勤めていても70才まではそのまま厚生年金加入は継続されます。勤めている会社を辞めた場合でも、違う会社に勤める場合は、厚生年金のまま、勤務先が変わる手続きが行われます。

国民年金と厚生年金で受け取る年金の違い

老後の年金を受け取るためには、基本的に20才から60才までの40年間のうち25年以上の保険料納付済期間があることが必要です。保険料納付済期間が足りないと受給権は得られず、年金の支給は行われません。支払った保険料も返ってこないので、国民年金加入手続きが遅れたり未納期間があったりする人は注意が必要です。

 

国民年金から支払われる老齢基礎年金は支給額が一律で定められていて、2019年度は780,096円です。国民年金に加入している40年間のうち、未納なく保険料を納めると満額の老齢基礎年金を受け取れ、未納期間があった場合はその分だけ減額されます。会社員になったことがないフリーランス・個人事業主は、老齢基礎年金のみの給付です。

 

厚生年金から支払われる老齢厚生年金は、老齢基礎年金と一緒に給付される年金です。納めた厚生年金保険料をもとに年金額が計算されるので、厚生年金被保険者としての期間が長かった人、給料が高く厚生年金保険料も多く納めていた人は、それだけ金額が多くなります。

個人事業主が老後に安定した生活を送るためには?

厚生年金から国民年金に変わった人が受け取る年金額

会社員からフリーランス・個人事業主へ転職した人が老齢基礎年金と一緒に受け取れる老齢厚生年金の金額の計算には標準報酬月額が用いられ、会社員として納めていた厚生年金保険料も標準報酬月額で決められています。厚生年金保険料を多く納めてきた人はそれだけ老齢厚生年金も多く受け取れますが、途中で厚生年金から脱退した場合は少ない金額になります。

年金額が少なくて不安な場合の備え方

フリーランス・個人事業主は定年がなく高齢になってからも働き続けられますが、会社員として定年まで働いた人と比べて老後に受け取る年金額は少なく、退職金もありません。リタイアはその後の生活を十分に考え、備えをしてからにする必要があります。老後は何才まで生きるか分からず、準備していた期間を超える長生きでの生活資金不足も考えられます。このような長生きリスクに対する備えとして、年金方式で受け取れる資産を増やす方法があります。

 

フリーランス・個人事業主であれば支払う保険料に400円をプラスする付加年金を利用したり、会社員の厚生年金のように年金を2階建にする国民年金基金に加入したり、個人型確定拠出年金iDeCoを活用したりして、将来の老後に備えるようにしましょう。いずれの方法も税制面での優遇措置があります。

まとめ

フリーランス・個人事業主が加入する国民年金は、会社員が加入する厚生年金と比べて、少ない年金しか受け取れません。リタイア後などに不安のない生活を送るためには、国民年金・厚生年金以外にも安定した生活資金を得る方法を考えておきましょう。

複数の企業で給与計算などの業務を担当したことから社会保険や所得税などの仕組みに興味を持ち、結婚後に社会保険労務士資格とファイナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。現在はライターとして専門知識を活かした記事をはじめ、幅広い分野でさまざまな文章作成を行う。

新着記事

人気記事ランキング

  • banner
  • banner