実は間違えやすい「修繕費」資本的支出との区別を解説!

[取材/文責]永井綾

「損金に算入するつもりで修繕を行ったのに、固定資産になってしまった」というケースを耳にしたことはありませんか。例えば、壊れた箇所の修理や原状回復以外に、資産としての価値が上がるようなプラスアルファ(資本的支出)を施したときなどがこのケースにあたります。しかし状況に応じて修繕費と資本的支出の判別が難しいことも多く、慎重な検討が必要でしょう。この記事では、どのよう費用が修繕費になのか、資本的支出との違いを踏まえて解説します。

修繕費とは

修繕費とは、事業所の建物や事業を営む上で必要な機械などが使用途中に損傷・故障した際、原状回復をするための修理にかかった費用のことをいいます。例えば建物や工場の壁の補修や、壊れた機械の修理などのほか、完全に壊れていない状態でも機能維持のために行う部品交換や保守点検、メンテナンスも修繕費とされています。修繕費は事業を営む上で必要不可欠な費用であるため、経費として損金に計上することが可能です。

資本的支出との違い

修繕費と資本的支出の区別は難しい

たとえば、「事業所の建物の補修をするついでに手すりを設置した」場合は、補修の費用が修繕費、手すりの部分が資本的支出と区別しやすいといえますが、実際にはわかりにくいケースが多くあります。修繕・補修により固定資産の価値が上がったかどうかが判断の基準ですが、その基準が状況によってはっきりしない場合があるのです。例えば蛍光灯をLEDに交換した場合、省エネ効果や耐久性増加など、価値が向上したようににみえます。しかし、建物全体の価値への影響は少ないため修繕費として処理するのが妥当である、と国税庁は判断しています。

 

このように判別し難い修繕費と資本的支出ですが、法人税基本通達において判断基準となる例が示されているので参考にすると良いでしょう。また、判断がつかない場合は専門家の意見を聞いたうえで修繕計画を立てることが好ましいです。

税務上の違い

多くの事業主は、修繕・補修を施す場合に「ここでかかるお金は経費である」という認識で進めるでしょう。経費であれば損金として扱うことができます。

 

ここで気をつけなければならないのは、修繕費として認められるのは、固定資産の価値を維持するため、または元の価値を回復するために行われた補修にかかった費用であるということです。例えば建物を補修する際に新しく手すりや非常階段をつけたり、機械の修理の際に部品を特別性能のいいものに付け替えたりすると、原状回復にとどまらず資産の価値を高める手入れをしたことになるため、修繕費として認められません。この場合は資本的支出として扱う必要があります。

 

例えば、上記のような「事業所の壁の補修と手すりの設置のための工事」を行うとすると、工事の費用として合計で10万円(補修8万円、手すり設置代2万円)かかった場合は、補修にかかった8万円が修繕費、手すり設置代2万円は資本的支出として建物勘定で処理します。このとき、資本的支出となった手すり代は減価償却の処理が行われます。つまり、その年の経費としてまとめて計上することはせずに、手すりの耐用年数が10年ならば、設置した年から10年かけて費用に計上していくことになるのです。このように、事業主は経費として支出したつもりでも経理上は資本的支出となってしまうと、全額を損金に計上することができないばかりか、その年の節税効果を期待していた場合には思わぬ落とし穴になってしまうケースもあります。

修繕費と資本的支出の判別例

ではここで、法人税基本通達の例示をもとに、いくつかの例をみていきましょう。

 

  • 事務所の壁に塗装を施したとき
    塗装の剥がれや汚れ、ひび割れなど、建物の劣化を防ぐために塗装を施した場合は、原状回復や維持管理が目的であり、修繕費と見なすことが可能です。ただし、事務用であった部屋を自宅用に改装するための工事や、建物の機能を高めるために断熱性や防水性のある塗料で塗装を施した場合は、修繕費ではなく資本的支出として扱われます。
  • 地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復したとき
    地盤沈下した土地を沈下前の状態に戻すために地盛りをした場合は、地盛りにかかった費用を修繕費と見なすことができます。ただし、取得したばかりの土地に地盛りを行った場合や、土地の利用目的を変更し効用を著しく上げるために地盛りする場合、また、すでに地盤沈下による評価損を計上してからの地盛りをした場合は資本的支出になります。
  • 機械の部品を取り替えて品質・性能が向上したとき
    部品の取替えによって機械の性能が大きく向上する場合などは、通常の取替えにかかる金額を超えてかかった金額分を資本的支出として処理する必要があります。

修繕費と認められるケース

基本的に、固定資産の価値を上げるような修理や改良などを行った場合は修繕費とは認められず、損金として扱うことはできません。しかし、以下のような場合は例外的に修繕費と認められることになっています。

費用が少額の場合

施した作業内容が資本的支出であっても、かかった費用が少額であれば、修繕費として計上できることがあります。具体的には、1件あたりの修理や改良にかかった費用が20万円未満 である場合です。機械を修理する際、高品質な部品に取替えた際はこの部品代と取替えに要した費用は資本的支出と見なされますが、この部品が20万円未満であれば修繕費として扱って良いとされています。

費用の周期が短い場合

修理や改良が、定期的かつ短い周期で行われている場合も修繕費として認められます。具体的には、法人税基本通達(7-8-3)に、「修理、改良などがおおむね3年以内の周期で行われることがこれまでの実績などからみて明らかである場合」、と定められています。 例えば、機械などで業者から一定期間ごとにメンテナンスをしないと壊れると説明を受けているものについては、定期メンテナンス費用であっても修繕費にあたります。

判断が難しい場合

状況によっては修繕費と資本的支出の判断が難しい場合があるでしょう。このように非常に紛らわしく判断がつかない状況の場合、以下の2つの条件のいずれかが当てはまるならば、修繕費と扱うことも可能です。

 

  • 1件あたりの修理や改良にかかった金額が60万円未満であること
  • 1件あたりの修理や改良にかかった金額が、その固定資産の前事業年度末における取得価格のおおむね10%以下であること

 

上記の条件によって修繕費とされるのは特に判断が難しい場合に限られるため、明確に資本的支出と判断できる場合は、この条件に該当しても修繕費とすることはできないので注意しましょう。

 

☆ヒント
修繕費と資本的支出の判断は難しく、修繕費のつもりで施したものが資本的支出とみなされてしまい、経費として計上できないということがあるかもしれません。修繕の内容や対象物によっても判断基準が違うため、日頃から会社のことを把握しており相談することのできる顧問税理士がいると心強いでしょう。

消耗品費になることも

修繕費と混同しやすい費用に、消耗品費があります。例えば電球が切れたので買ってきて取り替えたり、機械の調子が悪くなったので消耗した部品を交換したら直ったりしたケースでは、修理を伴ったからといって修繕費とするかどうかは迷うところです。

 

このように、消耗品を購入し修理を施した場合には、購入した金額が10万円未満 であれば、消耗品費とすることができます。ただ、消耗品費は物品の購入について処理する勘定項目であるため、電球を交換するだけではなく業者によるメンテナンスなどのサービスを受ける必要があったり、機械の修理を業者に頼んだりした場合は、少額であっても、すべてにかかった費用を修繕費として処理するのが適切だといえるでしょう。

まとめ

この記事では、判別し難い修繕費と資本的支出の区別について解説しました。損金をうまく計上することで節税計画を立てる事業主は多いですが、修繕をする際は資本的支出にならないか注意する必要があります。ただし、資本的支出として扱う場合も、複数年にわたり減価償却費が計上できるため、売上の多い年は経費として計上し、売上げの少ない年は翌年に繰り越すなど、臨機応変な処理が可能な点ではメリットもあるでしょう。かかった費用が修繕費と資本的支出のどちらであるか判断するのは、状況によって難しい場合があり、修繕の目的によっても変わる可能性があります。事業所や機械に修繕を施す際は、このような判別や会計上の処理について専門家の意見を聴くとともに、その年度において節税のための施策が重要かどうかについても確認すると良いでしょう。

慶應大学法学部卒。

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