役員報酬の決め方とは?会社設立前に知りたい役員報酬と税金のルール

[取材/文責]阿部正仁

会社を設立したら「自分の給料を自由に決められる」という醍醐味が味わえます。それが社長になる魅力ですが、一歩間違えば税金面などで損失を被るリスクが潜んでいます。今回は思わぬリスクを回避するために、会社設立前に知るべき役員報酬の決め方について徹底解説します。

役員報酬の決め方のルール

法律上における役員報酬の決め方のルールについて説明します。

役員報酬とは

報酬の支給対象者である役員とは、会社経営を株主(=出資者)から委任された経営陣のことを指します。その経営陣に対する報酬が役員報酬になります。そのため、株主が株主総会の決議によって役員報酬を決めます。

役員報酬の設定額は自由である

設立当初の会社の多くは同族会社であり、株主と役員が一致しているのが一般的です。そのため、自分(役員)の報酬を自分(株主)で決められるため、役員報酬の設定額は自由です。たとえば、オーナー企業(出資者=代表取締役社長)が役員報酬を年間300万円に設定しても年間1,000万円に設定しても反対する人は存在しません。

役員報酬には税法上の縛りがある

オーナー企業のように役員への報酬の設定額が自由である場合、役員報酬を租税回避(税金逃れ)の手段と利用される可能性が高くなります。たとえば、法人がもうけの多い年度には役員報酬を高めに設定したり、もうけが少ない年度には役員報酬を低く設定したりして法人の利益を自由にコントロールすることが可能です。そのため、役員報酬を経費で落とすのに税法上のハードルが設けられています。その制度が「定期同額給与」と「事前確定届出給与」です。

(1)定期同額給与

定期同額給与とは、基本的に次のすべての条件を満たす役員報酬のことを指します。
 

  • 1ヵ月以下の期間 で支給する役員報酬
  • その事業年度の間、支給額が同額である

 

一般的には月額報酬を意味します。

(2)事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、基本的に役員賞与などの定期同額給与以外の報酬のうち、次のすべての条件を満たす役員報酬のことを指します。
 

  • 支給対象者・支給日・支給額を記載した届出書を事前に税務署へ提出している
  • 届出書に記載されている支給対象者・支給日・支給額の通りに支給している

役員報酬の適正額は?

設立当初の役員報酬の適正額はケースバイケースです。ひとり社長、夫婦経営、共同経営といった役員構成によって適正額の考え方も違ってきます。たとえば、共同経営の役員報酬を決める場合、ひとり社長のケースは当てはめるのには無理があります。そのため、役員構成ごとに役員報酬の適正額を検証する必要があります。

ひとり社長の役員報酬の決め方

ひとり社長の場合、事業活動で獲得した所得を法人の利益と社長への役員報酬に分配し、税額を低くすることが決めるポイントになります。

税率を下げる方法

そもそも事業活動で獲得した所得は、法人の利益に対して法人税、役員報酬には所得税などの税金が課されます。特に所得税は累進課税制度により所得に比例して7段階の税率が適用されます。そのため、所得税率を下げることが事業活動で獲得した所得に対する税率を下げることにつながります。

 

たとえば、事業活動で獲得した所得を800万円とします。役員報酬の設定額により、法人税率は15%に対して、所得税率は次の通りになります。
 

  • 役員報酬300万円、法人の利益500万円 :所得税率5%
  • 役員報酬400万円、法人の利益400万円:所得税率10%
  • 役員報酬700万円、法人の利益100円:所得税率20%

社会保険も考慮する

独立起業の場合、社会保険の加入が強制されます。そのため、役員報酬に対する社会保険料率30%(法人負担15%、個人負担15%)がかかります。そのため、事業活動で獲得した所得を分散させる場合、所得税率のみならず、社会保険料率も考慮する必要があります。

社宅家賃の一部を会社負担にする

役員報酬を支給する代わりに社長の社宅家賃の一部を会社が負担することで、会社負担額が税法上の範囲内なら所得税と社会保険料は非課税となります。しかも、経費で落とせるため、法人税などの節税にもなります。

 

たとえば、会社が賃貸物件を借り上げ、社長に貸す形式を採れば、家賃の半額までは非課税枠になります。

夫婦経営の役員報酬の決め方

社長とその配偶者が役員である夫婦経営の会社の場合もひとり社長の会社と同じように節税の視点から役員報酬を決めるのがポイントになります。しかし、ひとり社長の会社とは少し異なり、配偶者への役員報酬の設定額が納税額を左右します。

配偶者を扶養に入れる・入れないを検討する

子育てがメインの妻などを役員に入れる場合、法人の業務に従事する時間などに限りがあるため、役員報酬の設定額を扶養の範囲内にするかどうかが検討事項になります。たとえば、社長の役員報酬が年1,120万円以下の場合、配偶者の役員報酬を年190万円以下に抑えれば、配偶者特別控除は最大額の38万円が受けられます。しかし、社長の役員報酬が配偶者の役員報酬を1万円増額した年191万円の場合、配偶者特別控除は最大額38万円から36万円と2万円減額されてしまいます。

役員報酬を代表者と配偶者に適正分配をする

役員報酬を代表者と配偶者に適正に分配するとは、両者の所得税率を下げることに尽きます。ひとり社長の場合と異なり、事業活動で獲得した所得を分配する対象数が2者(法人と社長)から3者(法人、社長、配偶者)に増加し、所得税率をより下げやすくなります。

 

前述の事業活動で獲得した所得800万円を役員報酬400万円・法人の利益400万円に分配するとします。ひとり社長の場合、役員報酬400万円に対する所得税率は10%ですが、夫婦経営の場合、社長と配偶者に役員報酬を200万円ずつ支給すれば、所得税率を5%まで下げることができます。

配偶者の役員報酬の相場に注意が必要

配偶者への役員報酬は会社への貢献度が税法上の適正額(相場)となります。相場を超える部分については法人の経費で落とせず、しかも役員報酬に対して所得税などが課税されます。

 

会社への貢献度とは法人の業務に従事する時間や仕事内容などが挙げられます。たとえば、年収400万円の従業員と同じ業務時間・同じ仕事内容にもかかわらず、役員報酬だけが1,000万円なら、従業員の年収を根拠に相場を超える部分が税務署に否認されるリスクがあります。

 

そのため、配偶者の役員報酬を決める場合、会社への貢献度を考慮する必要があります。

共同経営の役員報酬の決め方

共同経営の場合、それぞれの役員への役員報酬の設定額で揉めることがあり、経営上のリスクになりかねません。そのため、ひとり社長や夫婦経営と違い、節税とは異なる視点で役員報酬を決める必要があります。

共同経営とは

共同経営とは、1つの事業に対し、2人以上の者が共同代表などの形でほぼ対等の立場により経営するスタイルのことを指します。役員報酬の設定額で揉めるのは夫婦経営ではなく、経営者同士が他人のケースでしょう。

役員報酬は貢献度によって決める

そもそも役員は株主から経営を委任される立場であるため、役員報酬は会社への貢献度で適正額を決めるのが原則です。

役員の役割分担を明確にする

会社への貢献度は数字で測りきれない以上、できるだけ客観的に分かるようにしたほうがいいでしょう。そのためには、営業責任者や財務責任者などの役割分担を明確にするのがポイントになります。また、同じ取締役でも代表取締役のほうが責任は重くなるため、役員報酬を取締役よりも多めに設定することも検討しましょう。

まとめ

役員報酬の決め方は①確実に法人の経費で落とす②節税対策を意識する③会社への貢献度によって適正額を設定する、の3点がポイントです。特に②の場合、事業活動で獲得する利益(所得)を事前に予測する必要があるため、会社設立前に綿密な事業計画を練ることが大切になります。

 

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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