飲食業の“ドンブリ勘定”が招く税金のリスクとは?
ありとあらゆる国の料理が食べられる日本。「自分の腕を試したい」「人気店をつくって儲けたい」という人たちによる、飲食店の開業ブームが続いています。ただし、「料理や飲み物がおいしい」だけでは、経営はうまくいきません。この業界でよく問題になるのが、お金の管理の甘さ=“ドンブリ勘定”です。それは、直接業績に響くだけでなく、税金の上でも問題になることが多々あるのです。あらためて、そのリスクを考えてみましょう。
税務署員は「潜入調査」もする
みなさんには、ランチを食べようと店に入ってふと目をやったら、レジスターが半分開きっぱなしだった、といった経験はありませんか? つまり、レジが単なる「お金の保管場所」になっているわけです。顧客を飲食業に特化している税理士から、「この仕事を始めて、いまだに“ドンブリ勘定”でやられている方の多いのに驚いた」という話を聞いたことがあります。「飲食業は、開業率は高いけれど、廃業率も負けず劣らず高水準。その原因の1つが、そういう“稼いだお金の管理に対するルーズさ”にあるのではないか」というのが、その先生の感想でした。
“ドンブリ”の典型は、「儲かっているし、自分で稼いだお金なのだから」と、軽い気持ちで、そのレジにあるお金の一部を「拝借」すること。とりあえず毎日お金が入ってくる「現金商売」にありがちな誘惑です。「少しぐらいなら、自分の財布に入れてもバレないだろう」、「月末に返しておくから大丈夫」……いろいろな思いはあるのでしょうけれど、当然のことながら、それはNGです。
飲食業にそういう体質があると気づいているのは、担当する税理士さんだけではないのです。やはり「税金のプロ」である税務署も、常に目を光らせていることを忘れてはいけません。
通常、事業者の申告内容について、まず調べられるのは、「期ずれ」。「その年度に計上すべき売上や経費を次年度に持ち越していないか」「その逆はないか」という点が、注目されるわけです。しかし、飲食業の場合は、さきほども述べたように現金商売ですから、基本的にその問題は起こりません。その代わり、「では、日々の売上の数字自体に、おかしなところはないか」というところに視線が向けられます。「“ドンブリ勘定”をしていないのか」は、税務署にとって、まさに飲食店に対する税務調査(※)の本丸ともいえるチェックポイントと言っていいでしょう。
ちなみに、彼らは、「ここは怪しい」と目星をつけた店に、客を装って飲みに行ったりもします。そして、レジまわりに目を凝らす。領収書の渡し方なども観察して、客に渡すだけで店側の控えが残らないような状況だったら、「やっぱりこの店は、会計自体に問題を抱えていそうだ」と、心証は限りなく「クロ」に傾くことでしょう。そういう傍証を固めてから、翌日調査に入ったりもするわけです。
国税局や税務署が、納税者の税務申告が正しいかどうかをチェックするために行う調査。任意調査と、国税局査察部が行う強制調査がある。
問題が見つかれば、ペナルティの税を取られる
税務調査に入ると、調査官は、例えば店の帳簿やレジの売上データと、通帳やレジに残っている現金などとを突き合わせて、きちんと符合するのかを徹底的に調べます。齟齬があれば、「この日は実際の売上と、帳簿の数字が合わないようだが」と追及されることになるでしょう。あとで返すつもりでいたとしても、「ならば、借用書を見せてください」と、追いかけてくる。
もし、申告の際に、「拝借」したお金を除いた金額を売上として計上していたら、税務署に「過少申告」を指摘されることになります。その場合は、不足分の税金に加えて、過少申告加算税などを余分に支払わなくてはならなくなるのです。
あえて言えば、「レジからお金を抜く」のは、店のオーナーとは限りません。昨今は、店内での不法行為をSNSに流す「バイトテロ」が横行していますが、従業員が店のお金に手を伸ばすというのも、決して珍しい話ではないのです。その場合でも、申告に問題があれば、結果は同じです。
そんなことにならないためには、まず店の売上の「公私混同」はやめること。そのうえで、現金の管理を徹底する必要があるでしょう。営業が終わったら、毎日、売上を計算し、伝票などとの整合性をチェックして、現金は銀行に預ける。それが理想です。
付け加えれば、現金管理の徹底は、「税務署の指摘を受けないため」という「防衛的」な意味合いを持つだけのものではありません。さきほど、「現金商売は、毎日お金が入ってくる」と言いましたが、実は材料の仕入れや人件費などとして、「毎日のように出て行くお金」もあるのです。店のお金を気軽に「抜いて」してしまうのは、そういう「そもそも」が十分認識されていないから、と言うこともできます。お金をしっかり管理して、その流れを知れば、自分の店の財務状況を再確認できるはず。経営に対する意識を、さらに高めることができるのではないでしょうか。
実は、レジに残った記録は、経営を改善して、より売上を伸ばすための貴重なデータでもあります。例えば、1日に、あるメニューが何皿出たのか、といったことが一目瞭然でわかるレジと伝導したスマホ、タブレット用のアプリを活用すれば、顧客の獲得に向けたさまざまな分析も可能になるでしょう。勘だけに頼るメニュー開発などとは、差が出るに違いありません。脱“ドンブリ勘定”は、そういう意味でも重要だと思うのです。
とはいえ、料理や接客もこなしながら、会計の隅々まで気を配り、帳簿付けまでするというのは、現実問題として厳しい場合もあるでしょう。そんなときには、数字に詳しい税理士にサポートを頼んでみてはいかがでしょうか。
まとめ
飲食業の場合は、税務署は、特に「日々のお金の出し入れ」に注目しています。レジなどを有効に活用して、現金管理に万全を期すようにしましょう。「公私混同」はもってのほかだと心得てください。
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