法人でオプション取引している場合の処理方法と税金について

[取材/文責]長谷川よう

投資したり、外貨を扱っていたりすると、「オプション取引」という言葉を耳にすることはありませんか。オプション取引は主に個人が行っていると思われがちですが、実は、多くの法人も行っています。オプション取引を行う際、気になるのが経理処理や税金でしょう。ここでは、法人でオプション取引をしている場合の処理方法と税金について解説します。

そもそもオプション取引とは

まず、オプション取引とはどのようなものかを見ていきましょう。オプションと聞くと、最初に依頼したものやサービスに追加で何かを発注する、または付加価値というイメージがあるかもしれません。

 

しかし、オプション取引の「オプション」とは、追加の発注や付加価値のことではなく、「選択権」を意味します。何を選択するのかというと、金融商品をあらかじめ決めておいた価格で売買するかしないかを選びます

 

つまり、オプション取引とは、金融商品をあらかじめ決められた価格で売買する「選択権」を取引するものです。実際の取引では、買う権利を「コールオプション」、売る権利を「プットオプション」といいます。

 

例えば、あらかじめ、約定日に5,000円で株式を購入することを契約しておけば、いくら約定日にその株式が値上がりしていたとしても、5,000円で購入できます。約定日に8,000円に値上がりしていた株式を5,000円で購入できるのであれば、差し引き3,000円を得したことになります。

 

オプション取引は、金融商品の値下がりリスクを回避したい場合や、手持ちの資金が現在、手許にない場合などに有効な取引です。

法人でオプション取引している場合の会計処理方法

個人でオプション取引をしている場合、事業に関係しているケースを除いて、取引内容を帳簿付けする必要はありません。しかし、法人でオプション取引をしている場合は、必ず帳簿に付ける必要があります。ここでは、法人でオプション取引している場合の処理方法について見ていきましょう。

基本的なオプション取引の処理方法

まずは、基本的なオプション取引の流れとともに処理方法を見ていきます。オプション取引の流れは、次のとおりです。

①オプション料の支払い

株式を1万円で購入できる権利(コールオプション)を約定し、オプション料1千円を現金で支払った。

 

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
買建オプション 1千円 現金 1千円 オプション料

 

「買建オプション」科目は、資産科目です。短期の場合は「流動資産」、長期の場合は「投資その他の資産」に作成します。「買建オプション」科目は一例です。そのほかに「デリバティブ取引」や「オプション料」などの科目名でも問題ありません。使いやすい科目で処理してください。

②決算時の処理

決算日のオプションの時価は1,100円だった。そのため100円の評価替益が出た。

 

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
買建オプション 100円 オプション差損益 100円 オプション差益

 

決算時には、オプション料を決算日価格で評価替えする必要があります。「オプション差損益」は、収益科目です。自社の業種や取引頻度に応じて「売上高」や「営業外収益」項目に作成します。「オプション差損益」科目は一例です。そのほかに「トレーディング損益」などの科目名でも問題ありません。

③オプション行使時

約定日になったので、オプションの権利を行使した。該当株式の時価は12,000円だったので、2,000円の利益が出て、普通預金に振り込まれた。

 

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
普通預金 2,000円 買建オプション 1,100円 オプション決済
オプション差損益 900円 オプション差益

 

利益の2,000円のうち、買建オプションの残高1,100円を取崩し、差額の900円をオプション差益として処理します。この処理で、この取引の買建オプションの残高は0円になり、利益のみが計上されることになります。

権利を行使しなかったらどうなる?

オプション取引では、権利を行使しない選択ができます。そこで、大きなマイナスが出そうなときは、権利を行使しない選択をしたほうが得策です。ただし、権利を行使しなくても、支払い済のオプション料は戻ってこないため、損失で処理する必要があります。

 

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
オプション差損益 1,100円 買建オプション 1,100円 オプション差損

 

権利を行使しなかった場合の損失は、「オプション差損益」科目で処理します。

法人でオプション取引している場合の税金とは

個人でオプション取引を行っている場合は、事業や給料と分けて税額を計算し、確定申告をする必要があります。しかし、個人と法人では税金の考え方が異なります。ここでは、法人でオプション取引している場合の税金について見ていきましょう。

オプション取引と法人税の関係とは

法人と個人の税金計算の違いは、収入ごとに税金の計算を分けるのかどうかということです。個人の場合は収入の種類に応じて10の所得に分け、その所得ごとに所得金額の計算を行います。一部の所得については、税金の計算方法もほかの所得と異なります。

 

一方、法人の場合は収入ごとに所得や税金の計算を分けるということはありません。すべての収入とすべての経費を合算し、収入から経費を差し引いた利益(所得)に対して、法人税がかかります。

 

これは、オプション取引の場合も同じです。オプション取引で赤字が出ても、本業の黒字が大きければ税金がかかりますし、逆に、オプション取引で黒字が出ても、本業の赤字が大きければ、税金がかからないこともあります。

オプション取引がある場合の法人税の計算を見てみよう

では、オプション取引がある場合の法人税の計算を見てみましょう。

 

例1)法人で、本業のほかにオプション取引を行っている。本業の損益が300万円の黒字、オプション取引の損益が100万円の利益だった。税率は30%である。税務調整はないものとする。

①課税所得の計算

課税所得=本業の利益300万円+オプション取引の利益100万円=400万円

②納める税金の計算

納める税金=課税所得400万円×税率30%=120万円

 例2)法人で、本業のほかにオプション取引を行っている。本業の損益が100万円の赤字、オプション取引の損益が50万円の利益だった。税率は30%である。税務調整はないものとする。

①課税所得の計算

課税所得=本業の損失△100万円+オプション取引の利益50万円=△50万円

②納める税金の計算
課税所得が赤字のため、税額0円

 

ちなみに、同じ例で個人の場合を見てみましょう。

例1)個人で本業のほかに、オプション取引を行っている。本業の損益が300万円の黒字、オプション取引の損益が100万円の利益だった。税率は本業が10%、オプション取引が20%である。

納める税金の計算

  • ①本業分    利益300万円×10%=30万円
  • ②オプション分 利益100万円×20%=20万円
納める税金=本業分30万円+オプション分20万円=50万円

例2)個人で本業のほかに、オプション取引を行っている。本業の損益が100万円の赤字、オプション取引の損益が50万円の利益だった。税率は本業が10%、オプション取引が20%である。

納める税金の計算

  • ①本業分    赤字のため、税額0円
  • ②オプション分 利益50万円×20%=10万円
納める税金=10万円

 

このように、個人と法人では、同じ利益であっても納める税金の金額が大きく異なります。税率については目安の数字を使っていますが、会社の規模などで異なります。

まとめ

オプション取引は個人だけでなく、法人でも取り扱うことがあります。法人の場合は、帳簿付けが必要になるため、オプション取引をしている場合には、会計処理に気を付ける必要があります。また、個人と法人では税金の計算方法が異なります。オプション取引を法人と経営者個人のどちらで行うかを迷っている場合は、事前に丁寧なシミュレーションを行うことが重要になるでしょう。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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