立ち退き料の税金!もしも個人・法人がお金を受け取ったら?支払ったら?

[取材/文責]阿部正仁

立ち退き料は取り扱う金額が大きくなる傾向にあるため、計算ミスにより納税額が膨れる可能性があります。しかも、その立ち退き料を個人・法人が受け取ったり支払ったりした場合、所得金額の計算方法や経理処理など税金の計算が複雑です。そこで、立ち退き料の受取側と支払側の税金について解説します。

立ち退き料にかかる税金とは

立ち退き料の受取側と支払側にかかる税金について説明します。

立ち退き料とは

借りている土地(借地)または賃貸物件(借家)を貸し手側(賃貸人)の要請により明け渡す際、借り手側に支払う補償金などの金銭のことを指します。たとえば、アパートや店舗などの賃借人が売却目的や建物の改修工事などで、賃借人に立ち退いてもらうときに立ち退き料が発生します。

受取側の税金

立ち退き料を受け取った場合、個人と法人に課税される税金は次の通りです。

(1)所得税=個人

アパートの住人などの個人が立ち退き料を受け取った場合、所得税の課税対象になります。ただ、立ち退き料の性格によって所得の種類が違ってきます。

 

  • ①資産の消滅の対価補償としての性格のもの
    家屋の明渡しによって消滅する借地権の対価の額に相当する金額は譲渡所得の収入金額となります。
  • ②休業補償金の性格のもの
    立ち退きに伴って、その家屋で行っていた事業の休業などによる収入金額または必要経費を補てんする金額は事業所得(不動産所得)になります。
  • ③その他の性格のもの
    上記①および②該当しない場合は一時所得の収入金額となります。

(2)法人税=法人

法人の受け取った立ち退き料はすべて益金となり、他の所得金額と合算します。

(3)消費税

借地権の譲渡や休業補償金などといった性格の立ち退き料を受け取った場合、通常は消費税の不課税です。しかし、賃借人の地位の譲渡(旧賃借人→新賃借人へ賃借権が移転する)は課税対象になります。

支払側の税金

支払側の税金は所得税(=個人)と法人税(=法人)とで取り扱いが違います。

(1)賃貸している建物や土地の売却目的の立ち退き料

①所得税:譲渡費用として譲渡所得から控除します。

②法人税:経費に計上します。

(2)賃貸アパートなど不動産収入を獲得していた建物の賃借人を立ち退かす目的の立ち退き料

  • ①所得税:不動産所得の必要経費になります。
  • ②法人税:経費に計上します。

(3)建物を賃借するために前賃借人を立ち退かすための立ち退き料

所得税と法人税にいずれも建物を賃借するための権利金等として次のように区分されます。

  • 賃借期間など支出の効果がその支出の日以後1年未満または支出額20万円未満:経費
  • 賃借期間など支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの:繰延資産

(4)不動産を取得する目的の立ち退き料

  • ①所得税:建物などの取得費または取得価額になります。
  • ②法人税:建物などの取得価額になります。

(5)敷地のみを賃貸し、建物の所有者が借地人である場合、借地人に立ち退いてもらう目的の立ち退き料

  • ①所得税:通常、借地権の買い戻しの対価となり、土地の取得費になります。
  • ②法人税:①と同じように土地の取得価額になります。

 

なお、消費税は通常、仕入税額控除の対象外ですが、賃借人の地位の譲渡は仕入税額控除の対象になります。

過去の争点になった事例

立ち退き料が発生する原因はさまざまであるため、受取側と支払側の税金で税務当局と争点になりやすい項目です。これから紹介する事例は次の通りです。

 

  • 受取側:受け取った立ち退き料について所得区分が一時所得または不動産所得のどちらになるのかで争われた事例
  • 支払側:建物を取り壊した費用が取り壊し費用として経費ではなく、立ち退き料として繰延資産となった事例

受取側の事例~国税不服審判所 平成24年3月21日裁決~

受け取った立ち退き料の所得区分で争われた事例を紹介します。

裁決の概要

建物を賃貸し、別の第3者に貸していた(転貸)個人が受け取った立ち退き料の所得区分について争われました。具体的には、建物の所有者からの要請により立ち退き、本人が受け取った立ち退き料を一時所得と申告したのに対して、税務当局は不動産所得と判断したのがきっかけです。

立ち退き料にかかる具体的な金銭のやり取りは次の通りです。

(1)所有者から受け取った金銭

  • 明渡し補償金:1億6,000万円
  • 保証金敷金の返還:817万4,000円

(2)賃借人の第3者へ支払った金銭

  • 明渡し補償金:1億3,628万円

(3)所有者から受け取った明渡し補償金1億6,000万円を一時所得の収入金額として申告する

(4)上記(3)について税務当局は不動産所得の収入金額として更正処分・追徴課税をする

国税不服審判所の裁決は所有者から受け取った明渡し補償金1億6,000万円のうち、賃借人の第3者へ支払った金銭に相当する1億3,628万円は不動産所得の収入金額、差額2,372万円は一時所得になりました。

国税不服審判所での争点

国税不服審判所での争点は所有者から受け取った明渡し補償金1億6,000万円が転貸人の地位に基づいて得た収入かどうかです。賃借人の第3者へ支払った金銭に相当する1億3,628万円は、必要経費に計上すべき賃借人の第3者へ支払った明渡し補償金1億3,628万円を補てんする目的のため、不動産所得の収入金額と判断されました。一方、差額2,372万円については営利を目的とする継続的行為から生じた所得でないため、一時所得という本人の主張が認められます。

支払側の事例~国税不服審判所 平成7年7月7日裁決~

建物を賃借する際に支払った取り壊し費用の取り扱いについて争われた事例を紹介します。

裁決の概要

飲食店を営む法人が麻雀店から建物を賃借するための店舗改装に必要な取り壊し費用について全額経費で落とせるかどうかについて争われました。国税不服審判所は全額経費でなく、繰延資産として資産計上すべきと判断します。

 

具体的なやり取りは次の通りです。

 

  • (1) 麻雀店に対して、取り壊し費用に相当する造作等の代金の名目で4,500万円(消費税131万679円を含む)と保証金相当額(麻雀店が建物所有者に差し出している保証金)2,650万円を支払う
  • (2) 麻雀店から造作等及び本件貸室に係る賃借権の引渡しを受ける
  • (3) 賃借権の取得後、直ちに取り壊し、麻雀店仕様から飲食店仕様にするための内装工事を施す
  • (4) 取り壊し費用に相当する造作等の税抜価格4,368万9,321円を特別損失として全額経費に計上する
  • (5) 上記(4)について税務当局は繰延資産として更正処分・追徴課税をする

国税不服審判所での争点

取り壊し費用が「資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ち退き料その他の費用」という税法上の繰延資産に該当するかどうかが争点です。

 

国税不服審判所の判断は取得した直後、取り壊しまたは廃棄したものであるため、繰延資産と判断しました。それに対して、飲食店側は次の2つの理由から特別損失として全額経費にしたと主張します。

(1)麻雀店の内装は改修工事をしなくても使用価値がある

「建物、構築物等でまだ使用に耐え得るものを取り壊し新たにこれに代わる建物、構築物等を取得した場合…(中略)…その取り壊した日の属する事業年度の損金の額に算入する」という法人税法基本通達7-7-1を根拠に取り壊し費用を全額経費と主張しました。この主張に対して国税不服審判所は麻雀店の内装は飲食店にとっては無価値と判断します。

(2)麻雀店の決算書上に繰延資産が計上されていない

麻雀店の決算書上に繰延資産が計上されていないため、取り壊し費用も繰延資産に該当しないと主張しました。これに対して国税不服審判所は前賃借人の決算書の繰延資産勘定の有無に左右されないと主張を退けます。

まとめ

立ち退き料はめったに発生しませんが、やり取り金額が大きくなる傾向にあり、税金の計算にも影響を及ぼします。特に支払側において立ち退き料が全額経費に計上できるかどうかが争点になると、結果次第で納税額が膨れ上がります。そのため、立ち退き料が発生した場合には、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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