日銀(日本銀行)の経営は安定している?日銀の決算内容とは

[取材/文責]長谷川よう

企業は原則として1年に1回以上、決算や申告を行います。これは、銀行などの金融機関も同じです。それでは、日本の中央銀行である日本銀行の決算や申告はどのようになっているのでしょうか。実は、日本銀行も決算を行っています。

 

この記事では、日本銀行の決算内容を確認しながら、日本銀行の経営が安定しているのか、その状況を見ていきます。

日本銀行の概要やその仕事とは

日本銀行の決算内容を見ていく前に、まずは日本銀行の概要や仕事内容について確認していきましょう。

 

日本銀行とは、物価の安定や金融システムの安定を目的としている日本の中央銀行です。日本銀行法では、日本銀行の目的を「銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うこと」「銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り信用秩序の維持に資すること」としています。

 

日本銀行の仕事は多岐に渡りますが、主な仕事は「紙幣の発行」「他の銀行とのやり取り」「日本政府の銀行」です。

 

  • 紙幣の発行
    日本で流通している紙幣は、日本銀行券として日本銀行が発行しています。また、貨幣供給量を調整することで、物価を安定させています。
  • 他の銀行とのやり取り
    日本銀行は、他の一般的な銀行から預金を預かったり、貸し出したりといったやり取りを常に行っています。資金のやり取りをすることで、銀行が資金不足になることを防ぎ、金融システムの安定を行います。
  • 日本政府の銀行
    日本政府は、日本銀行に口座を開いており、その口座で、資金の収支を行います。

日銀の決算状況はどうなっている?

日本銀行は、日本経済や市場に大きな影響を与える仕事をしています。そこで気になるのが、日本銀行の決算状況です。

 

日本銀行は、毎年4月1日から翌年3月31日までを事業年度としています。毎年4月1日から9月30日までの上半期と4月1日から翌年3月31日までの通年の決算を行い、公表しています。そこで、ここでは令和元年度の通年の決算と、令和2年度の上半期の決算について見ていきましょう。

日銀の資産や負債の状況

令和元年度の通年の決算と令和2年度の上半期の決算を見てみると、日本銀行の資産や負債の金額は、どちらも増加しています。

 

  • 総資産残高
    令和元年度の通年の決算では、前年度末より47兆4,602億円も増加(+8.5%)して604兆4,846億円に、令和2年度の上半期の決算では、前年同期末より120兆2,242億円も増加(+21.1%)して690兆269億円になっています。
  • 総負債残高
    令和元年度の通年の決算では、前年度末より46兆7,226億円も増加(+8.4%)して599兆9,372億円に、令和2年度の上半期の決算では、前年同期末より120兆1,521億円も増加(+21.2%)して685兆7,812億円になっています。

 

総資産残高と総負債残高が増加した主な原因は、新型コロナウイルス感染症対策によるものです。総資産残高は、新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペの実施のための資金準備や国債の買い入れなどで残高が増えています。

 

総負債残高は、新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペの実施のための資金調達や米ドル資金供給オペの実施などで残高が増えています。

 

現在は、新型コロナウイルス感染症対策のための動きをしているため、通常の資産や負債の動きとは異なっていることがわかります。

日銀の売上や経費の状況

令和元年度の通年の決算を見てみると、日本銀行の総売上高である経常収益は約2兆2,407億円、総経費の金額である経常費用は約6,031億円となっています。令和2年度の上半期の決算を見てみると、日本銀行の総売上高である経常収益は、約1兆4,075億円、総経費の金額である経常費用は約3,249億円となっています。

 

本業の利益である経常利益を見てみると、令和元年度の通年の決算では、前年度比3,633億円減益の1兆6,375億円でした。これは為替円高に伴い、外国為替関係損益で損が増えたためです。一方、令和2年度の上半期の決算では、経常利益が前年同期比516億円増益の1兆826億円と持ち直しています。これは、金銭の信託運用益が増加となったことなどが要因となっています。

 

また、税引き後の剰余金についても、令和元年度の通年の決算、令和2年度の上半期の決算ともに前年比よりも増加していました。経常損益の一定の利益を計上しているため、日本銀行の経営は堅調といえるでしょう。

日銀の決算のポイント

ここまでは、令和元年度の通年の決算と令和2年度の上半期の決算の数字について見てきました。ここでは、財務諸表から見た日本銀行の決算のポイントについて見ていきましょう。

 

まず目立ったのが、資産である保有有価証券です。主な保有有価証券の数と含み益のポイントは、次のようになります。

 

・保有有価証券の数
令和2年9月末時点で、国債の保有残高は約529兆9,563億円、ETF(信託財産指数連動型上場投資信託)の保有残高は約34兆6,264億円(どちらも取得価格ベース)となっています。

 

令和2年3月末時点では、国債の保有残高が約485兆9,181億円、ETF(信託財産指数連動型上場投資信託)の保有残高が約30兆9,122億円(どちらも取得価格ベース)だったので、令和2年3月末時点に比べて、令和2年9月末時点では、国債の保有残高が約44兆0,382億円、ETFの保有残高が約3兆7,142億円増加していることになります。

 

このことにより、日本銀行が積極的に、国債などの有価証券の買い入れを進めていることが分かります。

 

・保有有価証券の含み益
また、時価ベースで見ると、令和2年9月末時点で保有国債の時価は約541兆5,931億円、ETFの時価は約40兆4,733億円となっています。それぞれ、国債では約11兆6,367億円の含み益が、ETFでは約5兆8,469億円の含み益がでています。

 

現在は、株価が上昇しているため問題ありませんが、今後、株価の急激な下落が起こると、含み損を抱えてしまうリスクがあります。

 

次に、経常収益のポイントです。実は、日本銀行の経常収益のうち、大きな割合を占めているのが、上述した保有している国債とETFからもたらされるものです。令和2年度の上半期の決算を見てみると、日本銀行の総売上高である経常収益は、約1兆4,075億円ですが、そのうち、国債利息が約5,524億円、ETFの運用益が約6,759億円となっとおり、2つ合計すると全体の約87%を占めています。

 

日本銀行は預かった資産を運用することで収益を得ますが、気がかりなのが、国債とETFに偏りすぎていることです。急激な相場の変動の影響を受けたり、運用に失敗したりした場合は、一気に収益の減少を招くリスクがあるでしょう。

 

自己資本比率を見てみると、平成30年度末が8.71%、令和元年末が8.79%、令和2年度上半期末が8.59%となっています。令和2年度上半期の比率が少し下がっていますが、これは、銀行券平均発行残高が増えたためです。日本銀行の自己資本比率が比較的安定している理由は、自己資本比率8%以上の銀行しか国際業務を行うことはできないことを意識しているためです。

まとめ

日本銀行の決算内容を確認する機会は、なかなかありません。実際に確認してみると、日本銀行がどのように収益をあげているのかなどがわかります。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、資産や負債は平時よりも増加傾向にありますが、収益面を見てみると株価の上昇や運用益の増加などで、日本銀行は安定した経営を行っています。

 

ただし、国債やETFなど、収益を得る資産に偏りが見られるため、リーマンショックのような緊急事態があれば、収益が傾く恐れもあります。

 

日本銀行は日本の中央銀行として、物価の安定や金融システムの安定を行う役割があります。今後も安定した経営を続け、日本の中央銀行としての役割をしっかりと果たしていくためにも、私たちが日本銀行の動きを注視していくことは、ますます重要となるでしょう。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

新着記事

人気記事ランキング

  • banner
  • banner