その費用は固定資産?経費?固定資産購入時に発生する費用の経理処理を解説!

[取材/文責]奥谷佳子

会社の支出の中でも特に金額が大きくなるのが「固定資産」の購入です。それだけに支出時の経理処理を一歩間違えれば損益に大きな影響を与えます。そこで、この記事では固定資産を購入した際の支出が資産・費用のいずれに該当するのか?などの疑問について解説していきます。

固定資産の購入時に発生する付随費用

固定資産とは何か?

固定資産とは「販売目的ではなく、自社において使用するために取得し保有する資産」を指します。具体的には土地や建物、車両や機械装置などです。

 

例えば不動産業者が購入する土地や建物は販売商品ですので「棚卸資産」となります。しかし、一般の企業で土地や建物を販売目的で購入することはまずないでしょう。したがって自社で保有する目的で購入した「固定資産」として処理することになります。

 

固定資産を購入した際の会計処理は金額に応じていくつかの選択肢があり、「10万円」「20万円」「30万円」のラインで処理を選択することが可能となります。

 

1.「10万円」ライン
購入金額が10万円未満であれば全額を費用とすることが可能です。10万円以上の固定資産については全額を固定資産とするのが原則です。

 

2.「20万円」ライン
上記1.の固定資産のうち、20万円未満のものについては「一括償却資産」や「少額減価償却資産」とできます。「一括償却資産」にすれば固定資産税が課税されません。「少額減価償却資産」にすれば全額費用にできるメリットがあります。

 

3.「30万円」ライン
上記1.の固定資産が20万円以上30万円未満の場合は「少額減価償却資産」にする選択肢が残ります。上記2.でも述べましたが、「少額減価償却資産」とすれば全額費用とすることが可能です。
ただし「少額減価償却資産」は法人税の時限立法です。特例期間が終了すれば将来的には適用できなくなる可能性があることに注意してください。

 

4.「30万円以上」
固定資産の取得価額が30万円以上になった場合は、全額を資産計上しなければなりません。

固定資産購入時に発生する費用とは

固定資産の取得時には本体価額のほかにも付随して発生する費用(付随費用)があります。代表的な付随費用を取得資産別に列挙してみましょう。

 

1.土地、建物

  • 売買にかかる仲介手数料
  • 所有権移転にかかる登記費用
  • 登録免許税
  • 不動産取得税
  • 土地の土留め費用や造成費用
  • 土地に付随して購入した建物の取り壊し費用
  • 土地建物取得後の未経過固定資産税
  • アスファルト舗装やフェンスの設置費用

 

2.機械装置、工具器具備品

  • 搬入費用
  • 設置費用
  • 機械装置や工具器具備品を入れ替える際の旧資産の撤去費用

 

3.車両

  • 自動車取得税
  • 自賠責保険
  • リサイクル料
  • 車両取得後の未経過自動車税
  • ディーラーに支払う取得手続きの代行料

 

これらの付随費用を「固定資産と一体として見るか」「固定資産とは別なものとして見るか」によって会計処理が大きく変わってきます。

固定資産経理と費用経理の違いとは何か?

同じ支出でも費用になるケースとならないケースがある

例えば自社で使用する目的で土地を購入したとしましょう。

 

例)土地500万円を購入し、以下の付随費用を支払った。

  • 登記費用 5万円
  • 登録免許税 10万円
  • 不動産取得税 15万円
  • 土地の上に建っていた古い建物の取り壊し費用 50万円

 

付随費用を固定資産と一体として見た場合「全額資産計上」となりますので、土地の取得価額は「500万円+5万円+10万円+15万円+50万円=580万円」となります。資産計上するため取得時に費用となる金額は「0円」です。

 

これに対し、付随費用のうち費用とすることが認められている支出を固定資産に含めなかった場合、土地の取得価額「500万円+50万円=550万円」は資産計上、付随費用の「5万円+10万円+15万円=30万円」は費用となります。同じ資産を購入しても会計処理の違いだけで取得時に30万円もの費用の差が出てきます。

 

しかし、固定資産は時間の経過とともに劣化していくものです。仮に付随費用を全額資産計上したとしても固定資産の価値が減少にしたがって少しずつ費用化(減価償却)されるため最終的に付随費用の全てが費用化されていきます。

 

ここで注意したいのが土地の取得にかかる付随費用です。土地はたとえ時間が経過してもその価値は減少しない資産ですから「減価償却」はできません。したがって土地にかかる付随費用は取得時に費用に落とせないだけではなく、将来的にも費用化することができない支出です。

 

このように、付随費用は「固定資産に含めるか含めないか」「どの固定資産に付随して発生したものか」によって費用として落とせるかどうかが変わってくるのです。

会社にとってプラスとなる会計処理とは何か?

黒字企業にとっては、固定資産取得時の付随費用を全額費用とすることができれば節税効果が期待できます。逆に赤字企業であれば付随費用を資産計上すれば、必要以上の費用を落とさずに済みますので助かります。しかし、法人税法では付随費用について固定資産に含めなければならないものが詳細に決められており、企業が自分勝手な判断で資産費用の区分を決定することはできません。

 

ここでは「固定資産に含めなくてもよい費用」を列挙してみましょう。

 

  • 不動産取得税、車取得税
  • 登録免許税
  • 登録に要する費用
  • 新増設にかかる事業所税
  • 取得後1年以上経過した後の建物取り壊し費用
    (取得当初から土地利用のために取り壊す予定であった場合を除く)

 

費用とすることができる付随費用は非常に少ないことがわかります。また、列挙した付随費用については「固定資産に含めないことができる」規定です。固定資産に含めてしまっても問題ありません。

判断基準は会社の損益状況

費用とすることができる付随費用は限られていますが、それでも軽視することはできません。
例えば10億円の土地を取得した場合の登録免許税・不動産取得税はトータル5,000万円です。黒字企業であれば、この5,000万円を全額資産計上するか費用処理するかで、法人税額が1,000万円以上変わってきます。また赤字企業であれば、全額費用処理してしまうとマイナスが5,000万円上乗せされるので赤字が拡大します。資産費用の選択肢がある付随費用については、会社の損益を把握した上で会計処理を判断すべきです。

 

黒字企業であれば税法が許すかぎりの付随費用を全額費用とすることで節税にも繋がります。赤字企業であれば費用とせず全額資産計上することで赤字拡大を抑えることが出来ます。

短期的だけではなく長期的な視点で判断を

固定資産は減価償却によって将来的に費用化されていきますが、前述したとおり土地については減価償却をすることができません。仮に土地にかかる付随費用を資産計上してしまうと、当該土地を売却しない限り付随費用を費用化するチャンスを失います。

 

そこで利用したいのが「繰越欠損金」制度です。青色申告をしている法人は、赤字(繰越欠損金)を10年間繰越すことが税法上認められています。将来的に黒字が出た場合、繰越した赤字(繰越欠損金)と黒字を相殺して所得を減算することができるものです。

 

この制度を利用して固定資産取得時に発生した付随費用を敢えて費用で落とし、赤字(繰越欠損金)を出して将来の黒字に備えるのも一つの選択肢です。

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まとめ

固定資産の取得時に発生する付随費用は実際には、そのほとんどが取得価額に含めなければならないものばかりです。会計処理を間違えれば費用の過大計上となり税務調査で否認されます。まずは費用にできるもの、できないものを正しく理解したうえで、会社にとって最も有利になる判断をしていきましょう。

Webライター/ライター
フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。

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