「G7が法人税の最低税率15%で合意」は海外進出の足かせに?

[取材/文責]マネーイズム編集部

6月5日、ロンドンで開かれていたG7(先進7ヵ国)財務相会議は、世界各国で課税されている法人税の税率に、「15%以上」という最低基準を設定することで合意しました。今後、国際的な合意を目指していくとしています。実現すれば、低税率の恩恵を受けているアマゾン、フェイスブックなどの巨大企業は、特に大きなダメージを被るものといわれていますが、同時に東南アジアなどに進出、ないし進出を目指す国内企業への影響を心配する声も出ています。法人税率引き下げの背景と、今後の可能性についてまとめました。

「法人税引き下げ競争」は一段落

世界では、長く法人税の引き下げがトレンドでした。OECD(経済協力開発機構)の「法人税統計」によれば、比較可能な世界の約100ヵ国の平均法定法人税率は、2000年の28.6%から2018年には21.4%まで下落しています。国内企業の税負担を軽減して国際競争力を高めるだけでなく、少なくない国において、有利な税率を売り物に海外企業を誘致し、自国の雇用拡大や経済発展に結びつけたい、という意図が働いた結果でした。

 

主要国を例にとると、アメリカはトランプ政権だった18年に、法人税を35%から21%まで、一気に引き下げました。また、英国は、10年に28%だったものを段階的に引き下げ、現在は、19%という先進国で最も低い水準にあります。日本も例外ではなく、かつて40%を超えていた実効税率(法人税に法人地方税などを加えた、実質的な税負担)は、最新(2018年度以降)で29.74%となっています。

 

しかし、特に今年に入って、法人税率に対する“潮目”は変わりました。政権交代となったアメリカでは、バイデン政権が企業への課税強化の方針を明らかにしました。英国も、23年4月に、現在の19%から25%へ税率を引き上げる、と発表しています。同国の法人税率アップは、1974年以来およそ半世紀ぶりのことだそうです。

背景に新型コロナとGAFA

こうした流れの中、4月に開かれたG20(主要20ヵ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議で、法人税に世界共通の最低税率を導入する、という新たな国際課税ルールについての協議が行われ、21年半ばまでに結論を出すことで、各国が合意しました。そして今回のG7で、15%という具体的な税率が打ち出されたのです。

 

最低税率に関しては、OECDで12.5%を目標に議論が行われる一方、アメリカ・バイデン政権は、21%といういっそう「厳しい」数字を主張する、という経緯もありました。今回、バイデン政権が大幅に譲歩することで合意に至った、とも報じられています。

 

では、そもそもなぜここにきて、法人税は引き下げにストップがかけられようとしているのでしょう? 理由の1つは、新型コロナです。各国とも、感染症対策には大きな出費を強いられました。痛んだ国の財政を立て直すために、儲けた企業からの税収アップを図ろう、というわけです。税率を下げてみたものの、企業誘致などの面で期待したほどの効果が上がらなかった、という事情もあるようです。いずれにしても、一定の税収を確保したいという点で、各国の利害は一致しました。

 

もう1つ、各国が表向き強調しているのが、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)をはじめとする巨大多国籍企業への対抗措置です。国境をまたいで事業を展開するこれらの企業は、低税率の国やタックスヘイブン(租税回避地)に現地法人を設立し、そこを「納税地」とすることなどにより、課税を免れている(国家の側からすると課税できない)実態があります。そこに抜本的なメスを入れよう、ということです。

 

この間の議論では、最低税率の設定と同時に、こうしたグローバル企業をターゲットにした課税強化策も検討されました。具体的には、最終的に利益を申告する場所ではなく、実際に利益を上げている国の税率に従って法人税を払ってもらおうというもので、新たなルールの導入を目指すことで合意しました。

日本への影響は?

今後は、G20や約140の国と地域が加盟するOECDなど、より多くの国々が参加する場に議論が移ることになります。ただ、15%よりも低い税率を設定している国などからの反発も予想され、このまま世界的な合意が形成できるのかは、まだ予断を許しません。

 

例えば、法人税率12.5%のアイルランドは、財務相が「いかなる合意も大国と小国の要求を共に満たす必要がある」と、G7の合意を批判しました。仮に最低税率が決まっても、各国がそれより低い税率を維持することは認められます。しかし、「差額」分は他国で徴収されることになるため、企業側から見ると、低税率国に進出する意味は薄れることになるでしょう。ちなみに、アイルランドには、GAFAやスターバックス、シリコンバレーの新興企業などから納税地として選ばれた実績があります。

 

では、仮にこのまま議論が進み、15%の最低税率が決定された場合、日本にはどのような影響があるのでしょうか? さきほども触れたように、日本の法人実効税率は約30%で、15%を大きく上回っていますから、国内の法人税率に影響を与えることは考えられません。

 

問題は、企業が低い法人税率の国に進出している場合です。例えば、シンガポールの法人税率は17%ですが、企業向けの軽減税率などの優遇措置を加味すると、実効税率はこれより大幅に下がり、軽く15%を下回ります。日本企業が多く進出する東南アジアには、このように海外企業に対して税の優遇を行う国が、数多くあります。

 

報道によれば、今回のG7合意では、こうした優遇税制についての扱いが明確にされていません。実効税率のモノサシで15%に線を引かれると、企業にとって増税となる可能性が出てくるわけです。これからこれらの地域に進出しようとする場合にも、以前に比べ節税メリットが限定されるかもしれないことを、頭に入れておく必要があるかもしれません。

まとめ

G7などを舞台に、国際的な法人税改革の議論が進み、最低税率15%の導入が、現実味を帯びてきました。そうなった場合、東南アジアなど法人税率の低い国々への進出企業の税負担が増加する可能性がある、と指摘されています。海外進出を検討する場合などには、今後の議論の行方に注意を払うべきでしょう。

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