OECD新ルールの合意へ機運で国際課税が変わる?新ルールと現在の制度とは

[取材/文責]長谷川よう

巨大なIT企業の出現など、世界的に今までの税制度では対応できない事案が多くなっています。そこで新しい課税ルールを決めようという機運が高まりを見せ、OECD新ルールの合意のもと、国際課税のルールが変わる可能性も高くなってきました。

 

ここでは国際課税の現在のルールと新ルールについて解説します。

国際課税におけるOECD新ルールとは

はじめに、国際課税において議論が進んでいるOECDの新ルールについて見ていきましょう。

OECD新ルールの議論の背景

OECD(経済協力開発機構)とは「経済成長」「開発」「貿易」の3つを目的とした国際機関です。2021年5月現在、日本、アメリカをはじめ38か国が加盟しています。加盟国はもちろん、世界経済の発展に貢献しています。

 

OECDは、経済・社会の幅広い分野において多岐にわたる活動を行っていますが、国際課税など、各国間における税金についても議論しています。各国間で、平等な税制度が適用できるようにルール作りを行っていますが、現在、税制度についてのOECD新ルールに策定に向けての議論も進んでいます。

 

こうした議論の発端となったのは、巨大なIT企業の出現です。もともと企業はどこかの国に拠点を置き、その国を中心として経済活動を行い、得た利益について税金を納めていました。しかし、巨大IT企業はインターネットを通じ、拠点を置いていない地域でサービスを行うことで、利益を得ています。

 

どこに拠点を置いても経済活動ができるため、法人税率が低いところに拠点を置き利益を得、税金逃れをしてるのです。一方、拠点のない国では、巨大IT企業がその国でインターネットを使って得た利益について、課税できない問題がありました。

 

これらの問題を解決するために、OECD加盟国が協力して新たな課税ルールの策定が必要不可欠となっています。

策定を目指すOECD新ルールとは

では、OECDが策定を目指している新ルールとは、どのようなものでしょうか。OECDが策定を目指している新ルールは、主に「物理的拠点のない国に配分する法人税課税権の設定」と「世界共通の法人税実効率の最低水準の設定」です。

 

物理的拠点のない国に配分する法人税課税権の設定をすることで、IT企業が拠点のない国でインターネットを使って得た利益について、拠点のない国でも課税できるようになります。また世界共通の法人税実効率の最低水準の設定をすることで、税率の低い国に拠点を移して課税逃れをすることを防ぐことができます。これらのルールを策定するためには、次のことをどう決めるかが焦点となります。

 

  • 新ルールの対象となる企業の線引き
  • 利益の配分割合
  • 法人税の国際的な最低水準

 

このうち、2021年6月4日からロンドンで始まっている先進7か国(G7)の財務相会合で、法人税の国際的な最低水準を15%以上にすると明記された共同声明が出されました。これにより、OECD新ルールの策定の合意に向けて、また1歩進んだことになります。

国際課税制度を理解するうえで重要な2つのこと

OECD新ルールは、国際課税制度についてのルールです。そこで、ここからは国際課税制度を理解するうえで重要な2つのことについて見ていきましょう。

そもそも国際課税制度とは

国際課税制度とは、簡単に言うと、国をまたいで国際的に活動する企業や個人の課税について調整をする仕組みのことです。

 

どの国にいくらの税金を支払わないといけないのかといった、ルールをあらかじめ決めておかないと、企業や個人が安心して国際的な経済活動が行えません。そこで、国際的に課税関係におけるルールを統一化・明確化しておく必要があります。

 

日本を含む諸外国は、これまで継続的にさまざまな国際課税の問題について議論を行い、1953年に制定された外国税額控除の創設など、国際課税にかかわる制度を整えてきました。

 

国際的な取り組みは現在も続いており、2015年10月にはOECDが中心となって、多国籍企業の国際的な課税逃れの防止策などを整備する「BEPS(財源浸食と利益移転)プロジェクト」が発足。現在、日本を含む110を超える国や地域がこのプロジェクトに参加しています。

国際課税で重要な租税条約

国際課税で重要なものが、租税条約です。租税条約とは、国と国の間で結んだ税金の課税に関する取り決めのことです。租税条約を結び、2国間でルールを決めることで、各国における二重課税を排除できます。

 

例えば、企業が外国で所得を得た場合、その所得に日本でも外国でも法人税を課すと、2重で法人税を支払うことになります。これを避けるために、企業が外国で得た所得には、日本では法人税を課さないなどのルールが定められているのです。

 

租税条約は、二重課税を排除することや二国間の健全な投資・経済交流の促進を図ることだけが目的ではありません。国際的な租税回避や徴収回避に対抗するために、2国間で情報交換などの税務当局間の協力のための枠組みを規定することも行っています。

 

日本では、2018年の時点で70の租税条約等を123か国・地域との間で適用しています。企業や個人が海外の企業と取引をする際には、租税条約の確認が必須となります。

日本における主な国際課税の制度

ここまでは、国際課税制度の概要について見てきました。ここからは、我が国の企業や個人が国際取引を行った際に、適用される日本の国際課税の制度の代表的なものを見ていきましょう。

所得の海外移転を防ぐ移転価格税制

日本における国際課税制度の代表的なものが、移転価格税制です。移転価格とは、海外の関連企業との取引価格のことです。

 

税率の低い海外の関連企業に商品を売却する場合、移転価格を調整すると税金逃れができます。国内の企業と海外の関連企業に商品を売却した例で、移転価格税制を見てみましょう。

 

・国内の企業にのみ販売した場合
100万円で仕入れた商品を国内の別の企業に210万円で販売します。この場合日本で課税対象となる利益は210万円-100万円=110万円です。日本の国の税率が30%と仮定した場合、利益110万円×30%=33万円の税金が課されます。

 

・海外の関連企業に販売した場合
例えば、Aという会社が自社の関連企業B社を外国に作ったとします。100万円で仕入れた商品を関連企業B社に180万円で販売します。関連企業B社は、外国でこの商品を210万円で販売します。

 

この場合、日本で課税対象となる利益は180万円-100万円=80万円です。外国で課税対象となる利益は210万円-180万円=30万円です。利益合計は、80万円+30万円=110万円となるため、国内の企業にのみ販売した場合と同じです。しかし、販売した外国の税率が0%だった場合、日本の利益にのみ税金がかかります。具体的には日本での利益80万円×30%=24万円が税金となります。

 

このように、移転価格を調整することで、税金逃れをすることが可能です。そこで、海外の関連企業との取引であっても、国内の一般的な企業と取引する際の価格で行われたものとして所得を計算し、課税するのが移転価格税制です。

 

独立企業間価格の算定方法には、独立価格批准法、再販売価格基準、原価基準法などがあります。

二重課税排除も国際課税制度のひとつ

国際課税制度は、税金を課すものだけではありません。二重課税排除も国際課税制度のひとつです。二重課税排除の制度には主に「外国税額控除制度」と「外国税額損金算入方式」「外国子会社配当益金不算入制度」があります。

 

外国税額控除制度とは、国外の所得で日本の税金がかかるものがあった場合に、外国で納付した税金(外国税額)を一定額、日本の税金から控除する制度のことです。また、外国で納付した税金を税額控除せず、損金に算入する「外国税額損金算入方式」も選択可能です。

 

外国子会社配当益金不算入制度とは、外国子会社から受け取る配当については、外国で税金を支払っているため、日本の益金にしないで良いという制度です。

 

いずれも、二重課税を排除する役割を担っています。

まとめ

巨大IT企業の登場などにより、国際課税制度の新たなルールが策定されようとしています。
OECDが策定を目指している新ルールは、主に巨大IT企業の課税逃れを認めないためのものですが、これに対抗してGAFA(グーグル(Google)、アマゾン(Amazon)、フェイスブック(Facebook)、アップル(Apple)の4社)ではITサービスの利用料をあげるなどの対抗措置をとろうとしています。

 

こうした新ルールやデジタル課税が要因となって、GAFAがサービスの値上げを行うなど、私たちの生活においても影響が出る可能性もあります。国際課税制度の新たなルールについて、注視しておきましょう。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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