【完全解説】給与計算とは?その考え方から計算方法まで全てを解説
給与計算は、従業員に労働の対価としての給与を正しく支給するだけでなく、所得税などの納税や社会保険料の納付を行ったり、会社経営の指標として活用したりするために欠かせない業務で、ミスも許されません。担当者が知っておくべきその流れを、わかりやすく解説します。
給与計算は「足し算」と「引き算」である=まずはざっくり理解
給与計算は、その名の通り「従業員に支給する給与の額を、毎月計算する業務」のことで、大枠は「①総支給額-②控除額=③差引支給額」となります。①には基本給のほかに各種手当など、また②には税金や保険料が該当しますから、忘れずにカウントしなくてはなりません。
種類 | 内容 |
---|---|
総支給額 | 基本給に残業代や各種手当を合算した支給するすべての金額 |
控除額 | 総支給額から差し引く税金や社会保険料などの金額 会費など会社によって異なる項目もある |
差引支給額 | 総支給額から控除額を差し引いた手取額 基本、この金額が従業員の口座に振り込まれる |
①総支給額
- 基本給
- 残業代(法に定められた時間外手当)
- 通勤手当などの各種手当
②控除額
「控除」とは、「金額を差し引く」という意味です。①から差し引くものには、次のような項目があります。保険料や税額を正確に計算し、納付します。
- 所得税
- 住民税
- 健康保険などの社会保険料
③差引支給額
①総支給額から②控除額を差し引いた金額、いわゆる手取りのことです。この金額が実際の振込額になります。
④計算前の準備
「給与規定」の確認
従業員の給与は、労働条件を定めた「就業規則」の中に、「給与規定」として定められているのが普通です。
従業員情報の把握
各種手当を含む支給額は、勤続年数、職種、役職、勤務地、家族構成などによって決まります。給与に関連する従業員情報は、毎月の給与計算前に収集し、変動があればその都度更新します。
勤務状況の把握
タイムカードなどで、実際の勤務時間などを把握します。
保険料額や税額の把握
社会保険の納付書(日本年金機構から届く)、源泉徴収税額表(国税庁ホームページ)、住民税特別徴収税額の通知書(市町村から届く)を入手し、確認しておきます。
就業規則の把握
給与規定とともに、把握しておくべき就業規則には、次のものがあります。
・労働時間の情報
始業時間や終業時間、休憩時間などの出勤日の情報
休日や休暇の情報
シフト制の場合の労働時間に関する情報 など
・賃金に関する情報
給与の決定・昇給の情報
給与の計算・支払方法、締め日や支払日の情報 など
・退職に関する情報
退職金について(基準など)情報
解雇の事由に関する情報 など
給与計算の方法=ここから詳しく説明
では、具体的な計算の仕方について、項目ごとに説明します。
総支給額を求める
(1)勤務時間の集計(時間外手当の計算)
タイムカードを基に集計します。ポイントは、残業(時間外労働)時間があるか、あればどれくらいなのかを正確につかむことです。法定休日に出勤した場合には、勤務した全ての時間が時間外労働にカウントされます。
時間外労働が発生している場合には、時間外手当を計算します。計算式は以下の通りです。
「1時間あたりの賃金」は、「月給÷1ヵ月あたりの平均所定労働時間」で計算します。
また、「割増率」は、労働基準法で、原則次のように定められています。
- 残業(1日8時間・週40時間を超えた労働時間):25%以上
- 深夜労働(22時~5時までの間の労働時間):25%以上
- 休日出勤(法定休日の労働時間):35%以上
これは、労働基準法で定められている最低限の数値ですので、会社が就業規則でこれを超える割増率を定めている場合には、その規定に従って計算します。
では、時間外手当の計算について、具体例で見ていきましょう。
ただし、深夜労働や休日出勤はないものとし、割増率は25%とする
(2)各種手当の計算
会社が定める通勤手当、家族手当、住宅手当といった各種手当の額を計算します。計算の基準は、就業規則を確認してください。
一点注意すべきは、手当に関連する課税関係です。基本給のほか、残業手当、家族手当、住宅手当などは所得税の課税対象になりますが、通勤手当は、公共交通機関の場合は、月15万円までは所得税の課税対象になりません。ちなみに、出張旅費、残業の際の食事代、結婚祝い金なども非課税です。
(3)総支給額の計算
以上を合算し、基本給にプラスします。
となります。
控除額を求める
次に、(3)から差し引く金額の計算です。具体的には、税金(所得税、住民税)と社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料など)になります。これらは、毎月の給与から天引きし、税務署や年金事務所などに納付します。
(4)社会保険料の計算
社会保険から説明します。
健康保険料、厚生年金保険料
日本年金機構から届く「社会保険料の納入通知書」を基に、記載された金額を毎月天引きし、毎月納めます。
社会保険料の納入通知書に記載された健康保険料や厚生年金保険料は、標準報酬に健康保険料率(都道府県や加盟する保険組合などで異なる)や厚生年金保険料率を乗じて計算されています。
また、原則、保険料は会社と従業員で折半ですが、加盟する保険組合などで負担割合は異なります。どれぐらいの保険料になるのかは、月額表で確認できます。
従業員が負担する保険料は、健康保険料14,715円、厚生年金保険料27,450円となります。
雇用保険料
保険料は、1年分を一括して7月に納付します。健康保険などと同じく、保険料を労使が折半するのですが、そのうち従業員分は、毎月天引きしておきます。
給与から天引きする雇用保険料の計算式は、以下の通りです。
なお、天引きが必要な従業員の「雇用保険料率」は2022年4月1日~9月30日については、3/1000、2022年10月1日~2023年3月31日については、5/1000です。
(5)所得税(源泉所得税)の計算
従業員の所得にかかる税金です。今説明したように、毎月給与から天引き(源泉徴収)するのですが、それは「おおよその金額」になります。正確な所得税額は、年末調整で計算し、従業員の払い過ぎがあれば還付(税務署から返還)されます。
税額は、国税庁ホームページの「源泉徴収税額表」に、「社会保険料を天引きしたのちの給与額」、「扶養家族の数」を当てはめて計算します。
社会保険料を天引きしたのちの給与額は、次のようになります。
この金額を、源泉徴収税額表(扶養家族0人)にあてはめると、源泉徴収税額は、6,750円になります。
(6)住民税の計算
これについては、会社側で計算する必要はありません。毎年5月31日までに、従業員の居住する自治体から会社に「住民税の決定通知書」が届きますから、そこに記載の「住民税特別徴収額」を天引きし、納付すればOKです。
(7)控除額の計算
以上のほか、就業規則に会社独自の項目(親睦会費など)を定めている場合には、それも控除に加えます。
となります。
(8)差引支給額の計算
最初に説明したように、(3)の総支給額から(7)の控除額を除いた金額が、差引支給額(従業員に実際に渡される給与)になります。毎月決まった日に、その金額を従業員個々の口座に振り込み、以上の計算結果を明示した給与明細を発行して、1ヵ月の業務は終了です。
給与計算作業のリスクとは?
ところで、実はこうした給与計算の作業には、大変なだけでなく会社経営に打撃を与えかねないリスクも潜んでいます。担当者は、次のような具体的なリスクについて、しっかり認識しておくべきでしょう。
◆税額計算をミスした
従業員から源泉徴収する所得税の計算などにミスがあった場合、税務署の税務調査(※1)を受けたり、その結果、追徴課税(※2)などのペナルティの対象になったりする可能性があります。
◆残業代をミスした
時間外労働時間の集計を誤って、「未払い」が生じたりすると、従業員の不信を招くだけでなく、訴訟を起こされるリスクがあります。
◆個人情報が流出した
給与計算のために収集する従業員の資料は、まさに個人情報の塊です。きちんとした管理が行われずに外部に漏れた場合、漏洩させた本人のみならず、雇用していた会社にも、個人情報保護法違反が問われる可能性があります。
国税局や税務署が、納税者の税務申告が正しいかどうかをチェックするために行う調査。税務署が行う任意調査と、国税局査察部が行う強制調査がある。
※2追徴課税
申告漏れや脱税の目的で、本来支払うべき税金よりも納税した金額が少なかった場合に、追加で税金を支払うこと。過少申告加算税などの「加算税」、「延滞税」がある。
給与計算はアウトソーシングできる!
説明してきたように、毎月の給与計算には、かなりの労力を必要とします。従業員が増えたからと経理担当者を増やせば、そのぶんのコストも覚悟しなくてはなりません。そうした問題を解決する手段の1つが、給与計算のアウトソーシングです。
給与計算を外部に任せてしまえば、その作業に忙殺されていた人材の有効活用も可能になります。専門業者であれば、関連する税率や保険料率の改定、法改正などにも機敏に対応してくれるはずです。
税理士や社会保険労務士のほか、給与計算を専門とする業者もありますが、気になるのは、さきほどの情報漏洩リスクです。外部に依頼する場合には、コストだけでなく、そうした点の信頼度なども考慮する必要があるでしょう。
まとめ
給与計算の流れをまとめました。特に所得税などの税金や社会保険料、時間外手当の計算には、注意が必要です。負担が重ければ、税理士などにアウトソーシングするのも選択肢になるでしょう。
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