コロナ禍で会社が倒産したときも利用できる未払賃金立替払制度とは

[取材/文責]サガアサコ

長く続くコロナ禍のために、倒産を余儀なくされる会社も増え、失業者も増加しています。
場合によっては、労働者がきちんと給与を受け取れないまま、会社が倒産してしまうということも考えられます。

 

この記事では、会社が倒産し、未払の賃金があるときに利用できる、未払賃金立替払制度について解説します。

未払賃金立替払制度とは何か

未払賃金立替払制度とは具体的にどういう制度か

未払賃金立替払制度とは、会社が倒産し、退職した労働者に対して未払いになっている賃金がある場合に、政府が事業主に代わって、未払賃金の一部を立替払する制度です。

 

「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づく制度であり、労働者とその家族の生活の安定を図ることを目的としています。

 

「労働者」には、正社員だけでなくパートやアルバイトなども含まれますし、外国人も含まれます。つまり、未払賃金立替払制度を利用して立替払を受けるうえで、非正規かどうかといった雇用形態も、国籍も問われることはありません。

 

全国の労働基準監督署と独立行政法人労働者健康安全機構が、この制度を実施しています。各都道府県にある労働基準監督署の所在地は、厚生労働省のホームページに掲載されています。

 

労働基準監督署や、労働者健康安全機構の「未払賃金立替払相談コーナー」で、未払賃金立替払制度に関する問い合わせや相談をすることができます。

未払賃金立替払制度で立替払を受けるための要件

会社が倒産し、未払いの賃金があったとしても、すべての労働者が未払賃金立替払制度で立替払を受けられるわけではありません。

 

未払賃金立替払制度で立替払を受けるためには、労働者が下記の要件をすべて満たしていなくてはなりません。

 

  • 事業主(法人、個人を問いません)が行っていた事業が労災保険の適用事業であり、1年以上事業活動を行っていたこと
  • 会社が倒産したこと
    倒産には、大きくわけて以下の2つがあります。

    • 法律上の倒産(破産、特別清算、民事再生、会社更生)
      破産管財人などによる証明が必要です。
    • 事実上の倒産(中小企業が事業活動を停止し、再開する見込みも賃金支払能力もない)
      労働基準監督署長による認定が必要です。
  • 倒産の申立日(法律上の倒産の場合)、または倒産の認定日(事実上の倒産の場合)の、6か月前の日から2年の間に退職したこと
    退職の理由が、自己都合か事業主都合(解雇)かは問いません。

未払賃金立替払制度で立替払を受けられる賃金と限度額

未払賃金立替払制度で立替払を受けられる賃金

未払賃金立替払制度では、立替払の対象になる賃金と、対象にならない賃金が定められています。

 

未払賃金立替払制度で立替払を受けられる賃金は、退職日の6か月前の日から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している「定期賃金」と「退職手当」のみです。

 

定期賃金とは、労働基準法第24条第2項に規程されている、毎月1回以上、定期的に支払われる賃金を指します。

 

簡単に言えば、正社員の月給であり、基本給に加え、家族手当などの固定手当、残業手当も含みます。ちなみに、立替払の対象となる賃金は、所得税や社会保険料などが控除される前の金額です。

 

退職手当とは、会社の就業規則などに基づいて支払われる退職金を指します。もし、中小企業退職金共済制度などの社外積立の退職金制度から退職金が支払われる場合は、その支給額を差し引いた金額が、立替払の対象となります。

 

賞与(ボーナス)や臨時的に支払われる賃金、解雇予告手当、恩恵的あるいは福利厚生上の給付(慰労金・祝金など)は、未払賃金立替払制度の対象外なので、立替払を受けることはできません。

 

また、総額が2万円に満たない未払賃金も、未払賃金立替払制度の対象外です。

未払賃金立替払制度における立替払の限度額

前述したとおり、未払賃金立替払制度で立替払を受けられるのは、未払賃金の一部のみです。立替払で受け取れる金額は、未払賃金の総額の100分の80、つまり80パーセントが限度です。

 

また、退職日時点の年齢によって、上限額が定められています。

 

  • 労働者の退職日時点の年齢が、45歳以上の場合
    未払賃金総額の上限額は 370万円、立替払の上限額は296万円
  • 労働者の退職日時点の年齢が、30歳以上45歳未満の場合
    未払賃金総額の上限額は 220万円、立替払の上限額は176万円
  • 労働者の退職日時点の年齢が、30歳未満の場合
    未払賃金総額の上限額は 110万円、立替払の上限額は88万円

 

未払賃金の総額が同じでも、退職日時点の年齢が異なるために、立替払で受け取れる金額が異なるということもあり得ます。もし、労働者自身で退職のタイミングを選べるのであれば、この点にも留意して、退職日を決めることがおすすめです。

 

ちなみに、この未払賃金総額とは、未払いの定期賃金と退職手当を合計した金額です。定期賃金と退職手当それぞれに、未払賃金の上限額が定められているわけではありません。

未払賃金立替払制度の具体的な利用方法

未払賃金立替払制度における立替払の請求方法

未払賃金立替払制度の立替払は、労働者本人が請求の手続きを行う必要があります。会社が未払いの責任を取って、代わりに請求をしてくれるわけではありませんので、注意してください。

 

未払賃金立替払制度における立替払の請求方法は、法律上の倒産と事実上の倒産とで異なります。

 
●法律上の倒産の場合

  • 法律上の倒産について、証明者に「証明書」を記入してもらいます。証明者は倒産の区分に応じて、下記のとおり定められています。
    • 破産:破産管財人
    • 特別清算:清算人
    • 民事再生:再生債務者(管財人)
    • 会社更生:管財人
  • 証明書を記入してもらったら、「未払賃金の立替払請求書」と「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に必要事項を記入します。証明書と切り離さずに、添付書類も付けて、労働者健康安全機構に送付します。
  • 証明者から立替払請求に必要な証明の一部、または全部をもらえなかったときは、その事項について、労働基準監督所長に確認申請をすることが可能です。

 

証明書、未払賃金の立替払請求書、退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書は、労働者健康安全機構のホームページからダウンロードすることができます。記入については、パンフレットや記入例も掲載されています。

 

●事実上の倒産の場合

  • 事実上の倒産について、労働基準監督署長に「認定申請書」を提出し、「認定通知書」を交付してもらいます。
    この認定の申請は、該当する事業場を退職した1人の労働者が一度行い、認定を受ければ、その効果は他の退職労働者にもおよぶとされています。
  • 立替払請求の必要事項について、労働基準監督署長に「確認申請書」を提出し、「確認通知書」を交付してもらいます。
  • 未払賃金の「立替払請求書」、「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に必要事項を記入します。確認通知書と切り離さずに、添付書類も付けて、労働者健康安全機構に送付します。

 

「認定申請書」、「確認申請書」は、労働基準監督署で入手できます。また、「電子政府の総合窓口」のホームページからダウンロードすることもできます。

未払賃金立替払制度における立替払の請求期間

未払賃金立替払制度で未払賃金の立替払の請求ができる期間は、限られています。

 
●法律上の倒産の場合
裁判所の破産手続の開始などの決定日または命令日の翌日から起算して2年以内です。

 
●事実上の倒産の場合
労働基準監督署長が倒産の認定をした日の翌日から起算して2年以内です。

 

上記の期間内に未払賃金の立替払請求書を、労働者健康安全機構に提出していなくてはなりません。この期間を過ぎてしまうと、未払賃金立替払制度を利用して立替払を受けることができませんので、注意してください。

 

さて、未払賃金の立替払請求書などの必要書類を送ったあと、どれくらいの日数で立替払金が振り込こまれるのか、気になるところでしょう。

 

労働者健康安全機構のホームページによれば、書類に誤りや記入漏れがなければ、請求書を受け付けてから、30日以内に支払うよう努めているとのことです。

まとめ

未払賃金立替払制度は、コロナ禍に限らず、会社が倒産して、労働の対価である賃金が受け取れなかった場合に労働者が利用できる制度です。

 

未払賃金を、一部とはいえ立替て支払ってくれるのですから、利用しない手はありません。未払賃金をもらえるせっかくのチャンスを無駄にしないよう、ぜひ未払賃金立替払制度を知っておいてください。

長年のキャリアのなかで、総務・労務関係の実務経験は15年以上に。
社会保険労務士の資格取得済み。現在は、知識と経験を活かして、フリーランスのWebライターとして活動中。

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