日本の年金制度と企業型・個人型確定拠出年金の概要

[取材/文責]長谷川よう

老後の生活資金を確保する方法として、確定拠出年金の存在がクローズアップされています。国民年金や厚生年金、退職金だけでは不安に感じ、自身で掛け金を運用して資産を増やそうと考えている人が増えているからと考えられます。そこで、この記事では年金制度の概要と確定拠出年金について解説します。

確定拠出年金加入者が延べ約941万人突破

日本経済新聞6月26日付けの記事によると、個人が自分で運用する確定拠出年金の加入者が2021年3月末時点で延べ約941万人 となりました。1年前よりも約61万人増え、 企業が運用する確定給付企業年金を初めて上回りました。

 

確定拠出年金には、個人が勤務先と掛金を折半する「企業型」と、掛金すべてを個人が出す「個人型」があり、加入者の内訳は企業型が746万9,000万人、個人型が193万9,044人 です。合計が「延べ約941万人」となっているのは、企業型に加入している人の中に、個人型にも加入している人がいるからです。

 

一方、確定給付企業年金は企業が掛け金を出して運用し、従業員に給付する企業年金です。2021年3月末時点での加入者は約933万人となっており、1年前に比べて7万人減少しました。

 

確定給付企業年金は従業員に給付額を約束しており、運用結果が悪ければ企業が穴埋めして従業員に給付しなければなりません。負担の大きさを理由に、確定給付企業年金から確定拠出年金に移行する企業が増えています。また、あとで触れるように、確定拠出年金には税制的な優遇措置があることも、確定拠出年金加入者増加の背景とみられます。

日本の年金制度は3階建て

確定拠出年金について、あまりよくわからない人もいるのではないでしょうか。そこで、ここでは日本の年金制度の概要をおさらいしておきます。「日本の年金制度は3階建て」と表現されます。その理由は年金の種類を見ていくと理解できます。

加入する公的年金は働き方で変わる

日本の年金制度は、日本に住むすべての20歳以上60歳未満の人が加入している「国民年金」が1階、会社員や公務員が国民年金に加えて加入する「厚生年金」が2階、1・2階に加えて任意で加入する確定給付企業年金や確定拠出年金などが3階といわれます。

 

国民年金と厚生年金は国が運営する制度なので「公的年金」とよばれています。公的年金は働き方などによって、加入する年金の種類が異なります。

 

3階  
国民年金基金
 
個人型確定拠出年金   個人型確定拠出年金 個人型確定拠出年金      
企業型確定拠出年金 企業型確定拠出年金 個人型確定拠出年金 個人型確定拠出年金  
個人型確定拠出年金 ・確定給付企業年金
・厚生年金基金
年金払い退職給付  
2階 厚生年金 個人型確定拠出年金
1階 国民年金
  自営業者など
(第1号被保険者)
会社員など
(第2号被保険者)
公務員など
(第2号被保険者)
専業主婦(夫)など
(第3号被保険者)

 

●国民年金
日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する年金です。国民年金は働き方などによって3つの制度に分かれます。

  • 第1号被保険者…自営業者、フリーランス、学生など
  • 第2号被保険者…厚生年金保険(公務員は共済組合制度)の適用を受けている事務所などに勤務する人。会社員や公務員が相当します。
  • 第3号被保険者…第2号被保険者の配偶者で、20歳以上60歳未満の人。

 

●厚生年金
厚生年金保険の適用を受けている事務所で働く会社員が加入する年金です。厚生年金保険料には国民年金保険料も含まれているため、第2号被保険者は国民年金と厚生年金に同時に加入することになります。また、第3号被保険者の国民年金の保険料は、配偶者が加入している年金制度が負担します。

※公務員や私立学校の教員などは、共済年金の組合員となる。

 

ちなみに、国民年金と厚生年金の年金額(2021年4月分以降)は以下のとおりです。

 

  • 国民年金 月額6万5,075円
  • 厚生年金(夫婦2人分の国民年金を含む標準的な年金額)月額22万496円

公的年金を補完する私的年金

上記の表の3階部分は任意で加入する年金で「私的年金」とよばれています。私的年金には、企業が私的に設けているものと、個人が任意で加入するものがあります。

 

●企業が私的に設けているもの

  • 確定給付企業年金
    先述したように、企業が掛け金を積み立てて運用し、従業員に給付する年金です。
  • 厚生年金基金
    この基金に加入すると、厚生年金の一部分に対して支払い時に上乗せされます。ただし、2014年4月以降は新たに基金等を設立できなくなっています。
  • 企業型確定拠出年金(企業型DC)
    後で詳しく説明します。

 

●個人が任意で加入するもの

  • 国民年金基金
    国民年金に上乗せし、老後の生活に備えるために任意で加入するものです。
  • 個人型確定拠出年金(iDeCo=イデコ)
    後で詳しく説明します。

確定拠出年金には企業型と個人型がある

日本の年金制度の概要を踏まえて、確定拠出年金について説明していきます。

 

「確定拠出年金」は加入者が資産運用を行い、運用の成果によって将来受け取れる年金額が決まる年金で、企業型(企業型DC)と個人型(iDeCo)があります。

企業型確定拠出年金(企業型DC)とは

●掛け金と受け取り方法
企業型DCは企業が掛け金を出し、その企業に勤める従業員が金融商品を選んで運用する制度です。運用成果により、退職金や年金の額が変わります。勤務先によって、企業型DCに自動的に加入する場合と、加入するかしないかを選択できる場合があります。

 

企業型DCの掛け金の金額は法令で上限が定められており、確定給付企業年金など他の企業年金がある場合は月額2万7,500円となっています。実際は、会社の役職に応じて掛け金の額を設定している企業が多いです。

 

掛け金は勤務先が負担しますが、「マッチング拠出」という制度を取り入れている企業に勤めていれば、従業員自身も掛け金を上乗せすることができます。マッチング拠出の掛け金にも上限があります。

 

積み立て運用したお金を受け取ることができるのは、原則60歳からです。お金は退職金の形で一度に全額を受け取るか、年金の形式で月々決まった額を受け取るかを決めることができます。

 

●税制優遇措置
企業型DCには税制面での優遇措置が3つあります。

 

  • (1)従業員が出した掛け金は全額所得控除の対象となり、税が軽減される
  • (2)お金を受け取る際、退職金(一時金)の形で受け取る場合は退職所得控除、年金の形で受け取る場合は公的年金等控除の対象となり、税が軽減される
  • (3)運用で得た利益は全額非課税になる

 

●転職先に年金資産を移せる
加入者が転職した場合、転職先に企業型DCがあれば、これまで積み立てた年金資産を移して継続することができます。

個人型確定拠出年金(iDeCo)とは

●掛け金と受け取り方法
iDeCoは加入者が掛け金を出し、金融商品を選んで運用を行う制度です。国民年金の第1号被保険者だけでなく、会社員や公務員も加入できます。ただし、国民年金保険料を払っていない場合や、勤務先が企業型DCを導入していてiDeCoとの併用が認められていない場合など、状況によっては加入できないこともあります。

 

掛け金の最低額は月額5,000円(年額6万円)、上限額は働き方や勤務先の状況によって異なります。第1号被保険者の上限額は月額6万8,000円(国民年金基金や国民年金付加保険料との合算)、第2号は勤務先の状況によって以下の表のようになっています。掛け金の上限額について、詳細はiDeCoの公式サイトでご確認ください。

 

【第2号被保険者の上限額】

勤務先の年金加入状況 上限額(月額)
企業年金なしの会社員 2万3,000円
企業型DCに加入している会社員 2万円
企業型DCと確定給付企業年金・厚生年金基金の両方に加入している会社員 月額1.2万円
確定給付企業年金・厚生年金基金に加入している会社員
公務員等

 

積み立てた年金資産の受け取りは60歳以降です。退職金のように一括か、年金のように分割で受け取ります。

 

●税制優遇措置
iDeCoにも3つの税制優遇措置があります。

 

  • (1) 掛け金全額に所得控除が適用されるので、税が軽減されます。たとえば、毎月の掛け金が2万円、所得税率10%、住民税率10%とすると、単純計算で4.8万円の軽減となります(所得税額は所得に応じて異なります)。
  • (2) 積み立てたお金を受け取る際、一括で受け取る場合は退職所得控除、分割で受け取る場合は公的年金等控除が適用されるので、税が軽減されます。

 

公的年金等控除額は年金を受け取る人の年齢や公的年金等の合計額に応じて、60万円から195万5,000円の控除額が設定されています(令和2年分以降は、これらに加えて公的年金等以外の所得金額によっても控除額が設定されています)。
また、退職所得控除額は下記のように勤続年数に応じて計算します。
詳しくは国税庁のホームページで確認してください。

 

【退職所得控除額の計算方法】

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数
(80万円に満たない場合、控除額は80万円)
20年超 800万円+70万円(退職所得ー20年)

 

たとえば、勤続年数40年の場合、退職所得控除額は以下のようになります。

800万円+70万円(40年ー20年)=800万円+70万円×20年=2,200万円

 

  • (3) 運用で得た利益が全額非課税になります。
    通常、金融商品の運用で得た利益には、20.315%(上場株式等の利子等・配当等に対し、所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税金が課税されます。しかし、iDeCoで運用しているものに関しては課税されません。

確定拠出年金で運用する商品

企業型・個人型とも、確定拠出年金の運営管理機関(確定拠出年金の制度を運営する金融機関)は「元本確保型」と「元本変動型」の運用商品を用意しています。

 

元本確保型には定期預金や保険があり、元本割れのリスクがありません。一方、元本変動型の商品は投資信託があります。運用実績によって、資産が大きく増えることがある反面、減るリスクもあります。

 

掛け金の範囲内で、運営管理機関が用意している商品のなかから自由に組み合わせて運用します。たとえば、定期預金Aに掛け金の10%、投資信託Bを掛け金の20%、投資信託Cに掛け金の15%…などと振り分けます。運用商品や配分割合はその都度見直すことができます。

まとめ

企業型DCを導入する企業は今後も増えていくと考えられます。また、自営業者や、勤務先が企業型DCを導入していない会社員などを中心にiDeCoの加入者も増加が見込まれます。いずれも、自己責任のもとで掛け金を運用していくことになります。運用商品や運用方法についての知識をつけながら、うまく資産形成を行いましょう。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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