コロナ禍でニーズが高まる自転車通勤通勤手当を支給したら課税される?

[取材/文責]マネーイズム編集部

新型コロナの影響が長期化する中、通勤時の公共交通機関の“密”状態を敬遠し、自転車に「乗り換える」人が増えています。従業員がストレスなく通勤できるのは、会社にとってもメリットだと言えるでしょう。ただ、その場合、もし通勤手当を支払ったら、電車やバス通勤とは違って、課税対象になるのでしょうか? 課税関係を中心に、「自転車通勤とマネー」を解説します。

増える自転車通勤だが

販売額は過去最高に

信用調査機関の帝国データバンクは、8月27日、2020年度の国内自転車販売市場が2,100億円(事業者売上高ベース)を超える過去最高に達した、という調査結果を発表しました。コロナ禍の拡大・長期化により、感染リスクの少ない移動手段として見直され、電動アシストタイプを中心に、通勤・通学用として人気が高まったことなどを理由に挙げています。

 

自転車通勤に関しては、ある損害保険会社の調査で、「コロナ禍以降に開始した」と答えた人が2割を占めた、というデータもあります。

「黙って乗り換え」も増えている

ただし、通勤中の事故や駐輪場確保の問題などから、自転車通勤を禁止していたり、制度化していなかったりする会社は少なくありません。そのため、会社には黙って自転車通勤に切り替え、結果的に支給されている定期代相当分の通勤手当を「浮かせて」いるようなケースも多いようです。

 

一方、国は、自転車通勤を推進する企業や団体を認定する制度を設けるなど、それを後押しする方針を明確にしています。個々の会社にとっても、社内にきちんとした自転車通勤の制度を作ることは、従業員の健康増進や意欲向上につながり、人材採用などにおいても有利に働く可能性があるでしょう。

自転車通勤の手当にも非課税枠がある

手当を支給する意味

では、そうした考え方に立って、自転車通勤の制度を作り、インセンティブとして通勤手当を支給しようとした場合、課税関係はどうなるのでしょうか?

 

そもそも論を言えば、労働の対価としての賃金や有給休暇などと違い、通勤費の支払いは会社の義務ではありません。にもかかわらず、支給する会社が多いのは、一定額まで非課税となるため、会社の節税+従業員の手取り額アップというメリットがあるからにほかなりません。もし課税対象となってしまうと、このメリットは半減することになります。

距離に応じた限度額を設定

結論を言えば、自転車通勤にも支給される手当の非課税枠が設定されています(マイカー通勤と同じ扱いです)。つまり、電車・バス通勤と違い、次の表のように、通勤距離によって非課税の限度額が定められているのです。なお、片道2㎞未満の通勤に関しては、非課税にはなりません。

 

片道の通勤距離 1か月当たりの限度額
2キロメートル未満 (全額課税)
2キロメートル以上10キロメートル未満 4,200円
2キロメートル以上15キロメートル未満 7,100円
2キロメートル以上25キロメートル未満 12,900円
2キロメートル以上35キロメートル未満 18,700円
2キロメートル以上45キロメートル未満 24,400円
2キロメートル以上55キロメートル未満 28,000円
55キロメートル以上 31,600円

電車・バスと併用の場合は

例えば、自宅から最寄り駅まで自転車を使い、そこから電車で通勤するような場合には、両者の非課税限度額を合計した金額まで、課税はされません。

 

ちなみに、電車・バスを利用して通勤している場合の非課税となる限度額は、「通勤のための運賃・時間・距離等の事情に照らして、最も経済的かつ合理的な経路及び方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額」とされています。

 

これと、さきほどの表に示された限度額の合計金額まで、非課税となるということです。ただし、1ヵ月当たり15万円が上限で、それを超えた分には課税されます(電車やバスだけを利用して通勤する場合も同様です)。

従業員が自転車通勤に切り換えたときの対処

定期代を支給しているのに自転車に

繰り返しになりますが、通勤手当の支払いについては、会社の裁量に任されています。仮に従業員から「新型コロナの感染が怖いので、自転車通勤にしたい」と申し出があった場合には、それを認めるのかどうかに加え、認める場合に通勤手当を支給するのか否かについて、それぞれの会社が判断できるわけです。

 

他方、最初に触れたように、従業員が会社には黙って自転車通勤を始め、変更後も従来通りの手当を受け取っていた場合には、どう対処すべきなのでしょうか?

 

このケースでは、まず就業規則が問題になります。「公共交通機関を利用した場合に相当する額を支給する」のような定めがある場合には、手当は通勤という行為に対して支払われる「賃金」とみなされるため、通勤手段に関わりなく同額と考えるのが一般的でしょう。通勤手当の受け取りに関しては、「お咎めなし」でいいわけです。

 

しかし、実際には、通勤区間の定期代などの実費を支払うことが多いのではないでしょうか。そうなると、公共交通機関を利用する前提で支払われる手当を受け取るのは、「不当」です。原則として、会社は従業員に対して、過払い分を返還するよう求めることができます。

自転車通勤にはリスクもある

会社の考えるべきことについて説明してきましたが、自転車通勤をする側も、メリットだけでなく、そのリスクやデメリットについてもしっかり頭に入れておく必要があります。

 

言わずもがなのことですが、交通事故をはじめとするアクシデントの可能性から逃れることはできません。運転者として、自分が加害者になることもありえます。そうしたことに備えて保険に加入すれば、そのコストを覚悟しなくてはなりません。

 

労働災害(労災)の対象になるかどうかという点にも、留意を払うべきでしょう。通勤中に事故に遭った場合には、「通勤災害」が認められますが、それには、「住居と就業の場所との間の往復」などにおいて、「合理的な経路及び方法により行うこと」が要件とされています。例えば、健康のためにとわざと大回りして帰宅途中にアクシデントに見舞われた場合、労災が認められるのは困難になるかもしれません。

 

従業員に自転車通勤を認める際には、こうしたリスクがあることも十分周知しておくことが求められるでしょう。

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まとめ

自転車通勤に通勤手当を支給した場合にも、距離に応じて一定額までは非課税となります。公共交通機関と併用する場合には、非課税限度額は両者の合算となります。

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