独立して起業したい!そのとき「会計知識」はゼロでも大丈夫なのか?

[取材/文責]マネーイズム編集部

起業を考えるときには、事業の中身や利益を上げるためのノウハウについて、ある程度の心得があるはずです。では、「会計の知識」はどうでしょう? 当然のことながら、きちんとお金が回らなければ、会社も個人事業であっても、維持することはできません。そこは、税理士に“丸投げ”すれば大丈夫なのか、それともこと細かに自ら把握する必要があるのでしょうか? 基本的な考え方をまとめました。

会計については「最低限知っておく」

起業に必要な知識とは?

サラリーマンなら、「自分の仕事」をきちんとこなし、成果を挙げれば評価してもらえます。しかし、独立して「一国一城の主」になったら、そうはいきません。「城」を守り発展させていくためには、本業以外にもやるべきこと、考えなくてはならないことがあります。

 

例えば、

 

  • 事業計画の策定
  • 資金の確保(融資など)
  • マーケティングのノウハウ
  • 人材の確保(従業員を雇う場合)
  • マネジメントのノウハウ(同上)

 

といったものが必須であることは、起業前にしっかり認識して、準備を進めておくことが大事になります。

 

そして、「会計や税金の基礎知識を持つ」ことも、そこに加える必要があるでしょう。

「専門家頼み」「会計ソフト任せ」ではダメ?

起業のサポートをしている税理士に話を聞くと、「会計知識ゼロでも大丈夫ですか?」と相談に来る人は、少なくないようです。「すべてをわかる必要はありませんが、最低限の知識は身につけておきましょう」というのが、その先生の答え。

 

個人事業主も含めて、経営者は、事業を維持、成長させていくのが務めです。そのために、できるだけ本業に時間とエネルギーを割き、会計まわりに関しては、帳簿付け(記帳)から税務申告まで担当者や専門家に“丸投げ”するというやり方は、決して間違ってはいません。しかし、その結果出てきた数字や、決算書の中身がちんぷんかんぷんでは、やはり経営者として問題です。

 

また、「そんなに売上規模も大きくないし、外注のコストを減らしたいので、会計ソフトを使って申告まで自分でやりたい」という場合もあるでしょう。ただ、ソフトは、あくまでも「ツール」です。それを使いこなすためには、やはりある程度会計(例えば「勘定科目」とは何か?)について理解しておくことが必要になると考えてください。

知っておくべき4つのキーワード

では、起業家に必要な会計知識とは、具体的にどのようなものなのでしょうか? 4つのキーワードを挙げておきたいと思います。

「複式簿記」と「仕訳」

個人事業主が青色申告(※)を行う場合には、「複式簿記」による記帳が必須とされています。決算書の作成も、このやり方で行われます。これから起業しようという場合には、この複式簿記の概念は押さえておきましょう。

 

簿記には、「単式簿記」もあります。これは、家計簿をイメージしてもらえばいいでしょう。単純にお金の出入りを記載したものです。

 

例えば、業務に使うパソコンを現金5万円で買ったら、

 

「〇月○日 支出 パソコン購入費 50,000円」

 

のように記帳します。
収入も同じように記入していきます。収支を知りたければ、「収入-支出」で簡単に求めることができます。

 

大変簡便な方法なのですが、現金の増減はわかるものの、事業の財政状態(手持ちの現金、借金など)を一目で把握することができない、という弱点があります。例えば、同じ支出でも、消耗品と資産になるものの購入とでは意味合いが違うわけですが、そうした違いを反映させることができないのです。

 

複式簿記は、この弱点を補ったもので、その名の通り1つの取引を複数(2つ)の側面からとらえて記帳していきます。

 

さきほどの例では、

 

「〇月○日 パソコン購入費 50,000円 / 現金 50,000円」

 

というふうになります。

 

単式簿記のように「なるほど」とはいかないと思いますが、突き詰めて簿記のプロになる必要はありません。起業家として最低限頭に入れておきたいのは、以下のことです。

 

今の例の/の左側を「借方(かりかた)」(=財政が変化した原因)、右側を「貸方(かしかた)」(=もたらされた結果)と呼びます。この記帳は、「5万円の費用が発生したために、5万円資産が減った」ことを表しているのです。この貸方と借方の数字が常に一致するのも、複式簿記のポイントです。そして、このように、個々の取引を複式簿記によって記帳していく作業を「仕訳」と言います。

 

※青色申告
複式簿記の手法に基づいて帳簿を記載し、その記帳を基に所得税を計算して申告すること。特別控除(65万円)などの特典がある。

「勘定科目」

仕訳の際には、「その取引は何なのか」が客観的にわかる「見出し」を付けて記帳を行うことも知っておきましょう。それを「勘定科目」と言い、例えば次のようなものがあります。

 

  • 売上高
  • 売上原価
  • 地代・家賃
  • 減価償却費
  • 外注工賃
  • 水道光熱費
  • 旅費交通費
  • 通信費
  • 広告宣伝費
  • 接待交際費
  • 修繕費
  • 消耗品費
  • 雑費

「決算書」

さきほども述べたように、複式簿記を用いた記帳を基に作成されるのが「決算書」です。代表的な決算書が「賃借対照表」と「損益計算書」で、それぞれ次のような内容が記されます。

 

  • 賃借対照表
    事業年度末日時点の資産・負債・資本を表したもの。資産の残高がわかる
  • 損益計算書
    その事業年度にどれだけの利益を上げたのか、あるいは赤字になったのかがわかる

 

特に重要なのが、賃借対照表です。今の説明をもう少し噛み砕くと、そこには、「現時点でどのくらいの資産と借金があって、自由に使える現金はこれくらいある」という、事業の推進にとって不可欠の情報が記されています。事業計画の立案にも、金融機関から融資を受ける際にも当然必要になるもので、経営者がそれを「わかっていない」というのは、大問題なのです。

 

「賃借対照表を読めないのはまずい」という認識は、ぜひ持っておいてほしいと思います。

「会計を役立てる」スタンスが大事

「起業するのならば、これくらいの会計知識は身につけておくべき」という“マスト”の観点から述べてきましたが、会計は、さまざまな経営判断に役立つ羅針盤でもあります。単なる「正確な帳簿の作成」「税務申告のためのもの」ではなく、積極的に事業に活用していくという姿勢を持つことが重要ではないでしょうか。

 

実は会計にも、「財務会計」と「管理会計」があります。前者は、「決算書」のように外部に対して説明したり、税務申告をしたりするためのものです。

 

これに対して、管理会計は、ひとことで言えば自分(自社)のための会計です。自らの事業の現状を評価したり、意思決定の資料にするために、必要な事項、数字(例えば、資金繰りの予測)をピックアップしたりするのです。

 

起業してすぐにそこまでやる必要はないかもしれませんが、会計を使いこなすという「攻め」の発想は、持っておいて損はないでしょう。必要性を感じたら、専門家に頼んで管理会計的なデータを作成してもらうことも可能です。

 

会計を武器に事業運営を行うというのは、起業家ならではの醍醐味とも言えます。そのためにも、「基礎学力」の大切さを認識してほしいと思います。

まとめ

起業には、複式簿記や勘定科目の概要など、ある程度の会計知識が必要だと考えてください。起業に詳しい税理士に相談すれば、「何をどう学べばいいのか」のアドバイスをもらえるはずです。

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