【法人・個人】起業の際に必要な資金はどれくらい?金額の目安と調達方法を解説
ひと口に起業と言っても、法人を設立する場合と個人事業でスタートさせる場合があり、それぞれで必要とされる開業資金も異なります。どのくらいを目安と考えればいいのでしょうか? 資金調達の方法も併せて解説します。
開業時に準備すべき金額
開業資金=初期費用ではない
独立・起業の資金というと、新たに事務所を借りるために必要なお金や、机や椅子、パソコンなどの仕事に欠かせない事務用品の購入費といった「初期費用(イニシャルコスト)」に頭が行きがちです。でも、それで事業が立ち上げられたとしても、すぐに発生する月々の支払(例えば事務所の家賃や光熱費、仕入のコスト、開業に際して借りたお金の返済)が滞れば、維持していくことはできません。
開業直後から、それらをカバーできるだけの利益が上がるのならば問題ないのですが、計画通りに行くとは限らないでしょう。起業に際しては、そうしたことを見越して、当面の「運転資金(ランニングコスト)」も確保しておく必要があるのです。
「開業資金=初期費用+当面の運転資金」と考えてください。その際、事業と生活が密接不可分なことも、忘れないように。自分の生活費が底をつけば、やはり事業を維持することはできません。
個人で開業するのに必要なのは、最低200万円
まず、個人事業として開業する場合の資金について考えてみます。業種や業態によって差はありますが、例えば自宅ですでに使っているパソコンを使い、ネット系の仕事を始めるのならば、初期費用はゼロでも起業できます。
問題は、運転資金をどれくらい確保すべきなのか? 個人の貯蓄金額などにもよりますが、最悪「売上なし」が続いた場合を想定して、「3ヵ月分」は用意しておくべきでしょう。
仮に家賃7万円程度の事務所を新たに借り、机やパソコンなどの購入費に15万円必要だとすると、事務所の礼金、仲介手数料などを含む初期費用は50万円程度になります。
運転資金として、
個人事業で開業する場合にも、最低200万円程度は、手元に確保しておくのがベターと言えます。
法人で開業するのに必要なのは、最低400万円
一方、会社を設立するためには、初期費用として必ず次のコストが発生します。
- 定款(※)認証
- 公証人の手数料 5万円
- 謄本代 約2,000円
- 印紙代 紙の定款の場合4万円(電子認証の場合は不要)
- 登録免許税
- 15万円(ただし、資本金の7/1,000がこれを上回る場合には、その金額)
これらを合わせて20万円程度になります(電子認証の場合)。
これは、手続を自分で行う場合で、税理士や司法書士に依頼すればさらに10万円~20万円の報酬が発生します。
また、会社には「資本金」が必要です。これは「1円でも可」なのですが、社会的な信用なども考えると、ある程度の金額を積んでおくことが求められます。実はこの資本金は、「運転資金」の意味も持っていて、設立時の平均額は約300万円と言われています。
個人事業とは異なり、法人になれば税務申告などのために顧問税理士と契約することになるでしょう。そうしたコスト(+α)も加味して、
が、開業時に確保していくべき金額の1つの目安になるでしょう。
会社を運営していく上での基本的規則を定めたもの。会社の商号(名称)や目的(事業内容)、本店所在地、株式や機関設計の内容、事業年度などを規定する。会社の本店所在地を管轄する公証役場に提出して、認証の手続きを受ける必要がある。
開業資金は業種などによって異なる
ただし、開業時に必要な資金は、業種や、初めから人を雇うのか否かなどによって大きく違ってきます。特に飲食業や理美容業など店舗型の事業の場合には、広いスペースを借りるための家賃に加え、厨房機器などの設備投資や、内装工事費といった高額の初期費用が必要になります。
一般的には、
- 居酒屋などの飲食店 500万円~2,000万円
- 美容院 1,000万円~3,000万円
- 雑貨店などの店舗 300万円~1,000万円
- 学習塾 200万円~1,000万円
程度の初期費用が発生します。
次の融資の話にも出てくる日本政策金融公庫の「新規開業実態調査」によると、2020年度の開業費用の平均額は、989万円でした。規模の大きな事業も含めた平均なので、1,000万円近い数字になっています。
資金調達を成功させるために準備しておきたいこと
準備をしっかりしておくと、資金調達も成功しやすくなるものです。後述する資金調達の方法に向けて、必要な準備を紹介します。
事業計画書を整える
起業するときは、事業計画書を作成するのが一般的です。事業内容・目的を、自分や仲間が確認する意味でも必要な書類です。資金調達の際、金融機関などからこの事業計画書の提出を求められます。そもそも金融機関などからお金を借りる融資は、返済が前提です。返済できるような実現性のある事業計画書でないと、融資を受けられません。理想を盛り込むことも大切ですが、資金調達を考えるのなら、実現性のある事業計画書に整えてください。具体的で客観性のある内容にしておきましょう。事業計画書のプロである税理士などに依頼するのもおすすめです。より資金調達が成功しやすくなります。
自己資金比率を考慮する
確かに200万や400万にもなる開業資金は高額です。自分で大半を用意するのは、難しいものがあるでしょう。しかし、なるべく多く自己資金を用意することをおすすめします。自己資金が多く担保に余裕があると、資金調達の交渉もしやすくなります。返済の負担も小さくなるわけですから、気持ちの面でもゆとりが生まれます。起業となると経営判断をする機会が多くありますが、ゆとりがあると適切な判断も下しやすくなるものです。資金調達の成功だけでなく、事業継続という意味でも、自己資金をなるべく多く用意するようにしましょう。
資金調達で相談できる機関
ここで、資金調達で相談できる機関をいくつか紹介します。悩んだ時は相談してみてください。
東京都創業ネット
東京都創業ネットとは、東京都で起業する人を応援するプラットフォームです。事業計画の段階から相談に乗ってくれます。開業支援も行っており、資金調達の相談も可能です。東京都の人は、ぜひ利用してみてください。創業者同士の交流もありますから、人脈も広がります。支えとなるような起業仲間に出会えることもあるでしょう。
独立行政法人中小企業基盤整備機構
中小企業基盤整備機構とは、中小企業を総合的に支援する組織です。会社の成長ステージや経営課題に応じて、さまざまな支援を行っています。すでに事業を始めている人だけでなく、起業するタイミングでも相談可能です。アイデアの段階から事業化までを、資金調達の相談をしながら支援してもらえます。
しんくみ創業塾
信用組合がセミナーなどを通して起業のノウハウを教えてくれたり相談に乗ったりしてくれるのが、しんくみ創業塾です。起業に必要な知識が習得できるのも魅力です。個別の相談会で補助金や助成金の相談も受け付けていますから、そこで資金調達について相談するのも1つでしょう。
資金調達の方法
開業資金が高額になる場合、それをすべて自己資金でまかなうのには無理があります。同じ日本政策金融公庫の調査では、開業時の資金調達額の平均は1,194万円で、調達先は「金融機関からの借り入れ」が825万円と7割近くを占めました。次いで「自己資金」が266万円(22.2%)、「配偶者・親戚など」「友人・知人」(ともに借入、出資計)が合わせて78万円(6.5%)などとなっています。
資金調達方法〈1〉 融資
日本政策金融公庫の「新創業融資制度」
そこで開業時に活用されるのが、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」です。起業促進などを目的とした政府系金融機関のため、無担保・無保証人で融資を受けることができ、限度額も3,000万円(うち運転資金1,500万円)に設定されています。ただし、「新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると認められる方」が要件となっており、公庫のフォーマットに沿った「創業計画書」を提出する必要があります。
このほか、創業時に融資を受けるには、次のような方法があります。
制度融資
制度融資とは、都道府県、市区町村などが創業支援などのために、独自に設けている制度のことをいいます。直接、銀行などの金融機関などに申し込むのに比べると、融資実行のハードルは低いと言えるでしょう。自治体によって内容の違いはありますが、金利の固定や、金利の一部または全部補助(利子補給)、ある程度の据え置き期間が認められている、など融資を受ける側にとって利用しやすい条件が整っているのは、大きなメリットです。
ちなみに、東京都の制度融資の「創業」では、3,500万円(創業前の場合には、⾃⼰資⾦に2,000万円を加えた額の範囲内)まで、やはり無担保・無保証人で融資を受けることができます。
ただし、制度融資は、多くの場合、「信用保証協会」の利用が条件となっています。信用保証協会は、公的な性質を持つ保証機関で、融資にはその審査に通る必要があり、保証料もかかります(自治体によっては、保証料の一部または全額補助の制度があります)。行政・保証協会・金融機関(実際に融資を行うのは金融機関)と連携した取り組みとなるため、入金までの時間が長くかかることにも注意が必要です。
マル経融資
小規模事業者の経営をバックアップするために商工会議所の推薦にもとづき無担保・保証人不要で融資を受けることができる日本政策金融公庫の融資制度です。無担保・無保証人で、運転資金・設備資金として2,000万円まで借りることができます。
ただし、このマル経融資に申し込むには、1年以上の事業実績があること、商工会議所の経営指導を6カ月以上受けていること、という要件があります。そのため、創業前や、創業したばかりの人は、申し込むことができません。
銀行からの融資
まとまった資金を比較的スピーディーに融資してくれるのが、銀行を利用するメリットです。ただし、創業融資に限らず、営利を目的とする民間の銀行が融資の際に最も重視するのが、きちんと返済がされるか、つまり「貸し倒れ」などが発生しないか、ということです。当然、審査は厳格。十分な担保などがあれば別ですが、起業資金を調達したり、創業間もない企業が融資を受けたりするのは、信用力の面からかなりハードルが高いといえます。
信用金庫
信用金庫は「信用金庫法」という法律に基づいて運営されている金融機関で、例えば企業に対する融資先は、原則として信用金庫の所在地域の中小企業(従業員数300人以下または資本金9億円以下)に制限されています。つまり、地域密着型で、小規模事業者に寄り添う金融機関といえるのですが、やはりいきなり窓口に行って開業資金を融資してもらうというのは、かなり難しいでしょう。
実際には、制度融資のところで説明した「信用保証協会」の保証を付けて融資を受ける、というのが現実的です。ちなみに、普通の銀行にも、保証協会の保証付きで融資を申し込むことはもちろんできますが、中小事業者を顧客にする信用金庫に比べると、OKが出る可能性は低くなります。なお、これも説明したように、金融機関のほか保証協会の審査も必要になるため、融資の実行までには時間がかかります。
資金調達方法〈2〉 ベンチャーキャピタル
開業資金を借りる(融資を受ける)のではなく、ベンチャーキャピタルから出資してもらう、という資金調達の方法があります。ベンチャーキャピタルとは、将来性のあるベンチャー企業などにお金を出す国内外の投資会社や投資組合のことです。融資とは違って、自己資金や保証人などは不問。資金を返済する必要はなく、使い道も自由なのは、大きなメリットです。
ただし、出資が受けられるケースは、限られます。ベンチャーキャピタルの主な目的は、出資した企業の成長に伴う配当や、上場益の獲得にあります。ですから、早い時期に株式上場を果たせるくらいの有望なビジネスでなければ、そもそも相手にしてもらうのは、難しいでしょう。また、出資と引き替えに自社株を渡すことになりますから、その比率によっては、経営に介入されたり、経営権自体を奪われたりするリスクも頭に入れておく必要があります。
資金調達方法〈3〉 エンジェル投資家
ベンチャーキャピタルが会社などの組織であるのに対して、同様の出資を行う個人をエンジェル投資家といいます。前者が銀行同様明確な審査基準を持つのに対して、エンジェル投資家の場合は、基本的にその個人がOKだと思えば、出資してもらえます。経済産業省が、条件を満たすエンジェル投資家とベンチャー企業に向けて減税措置(エンジェル税制)をスタートさせたこともあり、近年、投資家の数は増加傾向にあります。
「エンジェル」とはいっても、慈善事業ではありませんから、出資を受けられる可能性や、デメリットについては、基本的にベンチャーキャピタルの場合と変わりません。また、出資金額は、ベンチャーキャピタルに比べると少額になる傾向があります。他方、出資に当たって、経済的なリターンだけではなく、「この事業を応援したい」という「人情」が加味される可能性はあるでしょう。エンジェル投資家は、マッチングサイトなどで探すことができます。
資金調達方法〈4〉 補助金・助成金
自治体などの補助金や助成金も、融資と違って返済の必要がありません。ただ、基本的にすでに支払ったものに対する「援助」(すなわち後払い)で、起業に当たってすぐに調達できるという性格のものでないことは、頭に入れておきましょう。
資金調達方法〈5〉 親戚や知人
金利や返済期間などが自由に設定でき、人間関係を「担保」にお金を借りたり、出資してもらったりできるのが、身近な人に頼むメリットです。ただし、約束通りに返済ができなかったりすると、その人間関係にヒビが入る「怖さ」があることも、認識しておかなくてはなりません。
資金調達方法〈6〉 クラウドファンディング
開業資金や開発資金を集める方法として、近年注目されているのが、クラウドファンディングです。インターネットを通じて、立ち上げたプロジェクトへの支援を呼びかけ、賛同した支援者から資金を募るという仕組みで、「クラウド=群衆」と、「ファンディング=資金調達」の造語です。
クラウドファンディングを利用するためには、運営会社に登録し、その審査に合格する必要があります。出資者からすると、「いいな」と思ったプロジェクトに少額でも投資できるというメリットがあるため、幅広く資金を募ることができます。半面、出資者は基本的に投資家ではありませんから、数百万円、数千万円といったまとまった資金を集めるのは至難の業。個人事業に近い「スモールビジネス」のスタートに適した方法といえるでしょう。支援者には、事前に公開した「リターン」を届ける必要があります(目標額に達さなかったことなどにより返金する場合を除く)。
資金調達の具体例
ざっと説明しましたが、実際に融資をはじめとする資金調達を思い通りに実現させるためには、注意すべきポイントがあります。具体例でみてみましょう。
■例1 居酒屋開店資金に800万円の資金を調達
居酒屋を開店したいと考えていたAさんは、開業資金として日本政策金融公庫から800万円という高額の融資を受けることができました。
Aさんには、大手居酒屋チェーンで7年間店長を務めたという経歴があり、その点が「事業は軌道に乗りそう=この人に融資してもOK」という評価につながりました。起業時に250万円の自己資金を用意していたことも、決め手になりました。逆に言えば、自己資金がほとんどないのに融資を受けるのは、困難だと考えてください。自己資金が足りない人をフォローする、というのが金融機関の基本的な立場なのです。
■例2 ネット通販の起業で400万円の融資に成功
高級バッグなどのブランド品の買取・販売業の経験が10年以上あるBさんは、独立して専門のネット通販会社を設立しようと考え、日本政策金融公庫に400万円の融資を申し込みました。「同業多数」のネット通販業は、融資のハードルが高いと言われる中、融資は認められました。
Bさんの場合、決め手になったのは、ブランド品に特化するという販売戦略、さらにはそれを裏打ちするだけの技能、ノウハウを持っていたこと。その点が、やはり「事業性あり」と評価されたわけです。
■例3 建築業で独立・起業し、500万円を調達
高校卒業後、長く建築業の現場に従事し、左官業の資格も持つCさんが独立を決め、日本政策金融公庫から500万円の融資に成功しました。
ポイントは、独立後の仕入れルートや実際の仕事の依頼が契約の形で明確になっていたこと。これだと、貸すほうも安心できます。また、自己資金は150万円ほどでしたが、口座に計画的に蓄えられていたこともプラスになりました。自己資金に関しては、金額はもとより、計画性が重視されます。ちなみに、親にもらったお金やタンス預金は、自己資金とみなされませんから、注意しましょう。
まとめ
開業に必要な資金は、法人で400万円、個人事業で200万円が1つの目安になるでしょう。ただし、業種などによって、特に初期費用には大きな違いがありますので、調達方法も含めて、起業前にしっかりシミュレーションしておく必要があります。多くの資金が必要になる場合には、起業に詳しい税理士などの専門家に相談して、万全を期すようにしましょう。
中小企業オーナー、個人事業主、フリーランス向けのお金に関する情報を発信しています。
新着記事
人気記事ランキング
-
「新型コロナ」10万円給付申請に必要な書類は?~申請・給付早わかり~
-
売上半減の個人事業主に、100万円の現金給付!中小企業も対象の「持続化給付金」を解説します
-
「新型コロナ」対策で、中小企業の家賃を2/3補助へ世帯向けの「住居確保給付金」も対象を拡充
-
「新型コロナ」対策でもらえる10万円の給付金には課税されるのか?高所得者対策は?
-
法人にかかる税金はどれぐらい?法人税の計算方法をわかりやすく解説
-
新型コロナで会社を休んでも傷病手当金がもらえる!傷病手当金の税金とは
-
増税前、駆け込んでも買うべきものあわてなくてもいいものとは?
-
法人が配当金を受け取った場合の処理方法税金や仕訳はどうなる?
-
【2024年最新版】確定申告と年末調整の両方が必要なケースとは?
-
もしも個人事業主がバイトをしたら?副収入がある場合は確定申告が必要