雇用保険料の引き上げ議論が始まる引き上げ議論の内容や原因とは

[取材/文責]長谷川よう

厚生労働省の諮問機関である労働政策審議会では、雇用保険料の引き上げ議論が始まっています。これは、新型コロナの影響により、雇用保険の資金が少なくなっていることなどが原因です。

 

そこで、ここでは雇用保険料の引き上げ議論の内容や原因や、そもそもの雇用保険料や雇用調整助成金の制度などを詳しく解説します。

そもそも雇用保険制度とは

はじめに、雇用保険料制度の内容や加入の要件などを見ていきましょう。

雇用保険とは雇用に関する総合的機能を有する制度のこと

企業が従業員を雇用した場合に、加入しなければならないもののひとつに雇用保険があります。

 

雇用保険制度とは、雇用に関する総合的機能を有する制度のことです。雇用保険の主な目的は2つあります。主な目的の1つが、従業員が失業した場合や子供の育児のために休暇をとった場合の失業等給付や育児休業給付などの給付です。もうひとつの目的は、失業の予防や雇用状態の是正、能力の開発などを行うことです。このように、雇用保険は従業員の生活や雇用を守り、万が一失業した場合に再就職の援助を行うことを目的とした制度です。

 

雇用保険は従業員を守るための制度であるため、一部の人のみが対象になるということではなく、原則として会社が従業員全員に対して掛ける義務のある保険です。ただし、保険料の負担は、会社だけが負うのではなく会社と従業員で負担します。

雇用保険の適用事業所と加入範囲

次に、具体的な雇用保険の加入範囲について見ていきましょう。雇用保険の加入範囲には、会社側(適用事業所)と従業員それぞれに加入範囲が決まっています。

 

・会社側の加入範囲(適用事業所)
適用事業所とは、簡単にいうと雇用保険に加入しなければならない企業や個人事業主の事務所のことです。原則として、一人でも従業員がいる場合は適用事業所となるため、会社として雇用保険に加入する必要があります。

※ただし、従業員5人未満の個人経営の農林水産業の場合は、事業主の意思や従業員の過半数の意思で、雇用保険に加入しなくても良いこととなっています。

 

・従業員の加入範囲
従業員の労働保険の加入範囲は、次の1.2.のどちらにも該当する従業員となっています。正社員はもちろんのこと、正社員以外であっても下記条件に当てはまる場合は雇用保険の対象となります。

 

1.継続して31日以上雇用されることが見込まれる従業員
例えば、次の条件に該当する従業員です。

  • 雇用に期間の定めがない
  • 雇用期間が31日以上
  • 雇用契約に更新の規定があり、31日未満で雇止めされることが明示されていない
  • 雇用契約に更新規定はないが、過去に同様の雇用契約で31日以上雇用された実績がある

 

2.1週間の所定労働時間が 20 時間以上

雇用保険料の引き上げ議論が始まる

雇用保険は、従業員を守るためにとても重要な保険です。しかし、雇用保険料は会社と従業員の両方が負担する必要があるため、保険料が高くなりすぎると会社と従業員のどちらも負担が大きくなります。

 

そこで注目したいのが、雇用保険料の引き上げ議論が始まったというニュースです。2021年9月に厚生労働省の諮問機関である労働政策審議会で、雇用保険料引き上げの議論が開始されました。これは、新型コロナの影響で、雇用調整助成金の支給がかさんだことが原因となっています。

 

労働政策審議会では、雇用保険料の引き上げについて、年末までに結論を出し、来年の通常国会での改正案提出を目指しているとのことです。しかし、労使側からの反対意見もでているため、議論の結果がどうなるのか注目されるところです。

問題となっている雇用調整助成金とは

雇用保険料の引き上げ議論が始まる要因となったのが、新型コロナの影響で雇用調整助成金の支給がかさんだことです。

 

では、雇用調整助成金とはどのようなものなのでしょうか。ここでは、雇用調整助成金について詳しく見ていきましょう。

雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)とは

雇用調整助成金とは、事業者が従業員の雇用維持を務めるために国が助成をする制度です。

新型コロナウイルスの影響拡大により「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例」が時限的に設けられています。

 

「雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)」とは「新型コロナウイルス感染症の影響」により、「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合に、会社が従業員に支払う休業手当などの一部を国が助成するという制度です。令和2年4月1日から令和3年11月30日までは緊急対応期間として、助成率や上限額の引き上げが行われています。

 

雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)の対象となる事業主、労働者、支給額は、次のようになっています。

 

・対象となる事業主
雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)の対象となるのは、次の条件を満たす事業主(会社、個人事業主)です。

※業種に指定はなく、全ての業種の事業主が対象です。

 

  • 新型コロナウイルス感染症の影響で経営環境が悪化し、事業活動が縮小していること
  • 最近1か月間の売上高(または生産量など)が前年同月比5%以上減少していること
  • 労使間の協定に基づいて休業を実施、休業手当を支払っていること

 

※比較対象とする月など、柔軟な取り扱いをする特例措置もあります。

 

・対象となる労働者
雇用保険被保険者であれば、だれでも雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)の対象となります。

※雇用保険被保険者以外の労働者については、別で「緊急雇用安定助成金」があります。

 

・支給額
雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)の支給額は、次の計算式で求めます。

 

支給額=平均賃金額×休業手当等の支払率×助成率
※1人1日あたり15,000円もしくは13,500円の上限があります。

 

助成率は、次の表から算出します。

 

・助成率

期間 4月末まで 5月~11月
中小企業 原則的な措置【全国】 4/5(10/10)
15,000円
4/5(9/10)
13,500円
業況特例【全国】 4/5(10/10)
15,000円
地域に係る特例 緊急事態宣言 4/5(10/10)
15,000円
まん延防止等重点措置 4/5(10/10)
15,000円
大企業 原則的な措置【全国】 2/3(3/4)
15,000円
2/3(3/4)
13,500円
業況特例【全国】 4/5(10/10)
15,000円
4/5(10/10)
15,000円
地域に係る特例 緊急事態宣言 4/5(10/10)
15,000円
4/5(10/10)
15,000円
まん延防止等重点措置 4/5(10/10)
15,000円

 

※括弧書きの助成率は解雇等を行わない場合です。

雇用調整助成金の手続きの流れ

次に、雇用調整助成金の手続きの流れについて見ていきましょう。雇用調整助成金の手続きの流れは、次のようになります。

 

・労使協定
雇用調整助成金の支給を受けるためには、労使協定に基づいた休業が必要です。そこで、まずは休業の具体的な内容について労使間で話し合い、労使協定を締結します。

 

・休業
労使間で話し合い、労使協定を締結したら、計画に基づいて休業を行います。

 

・申請
休業を行ったら、厚生労働省のホームページなどから申請書を入手し、必要事項の記載を行います。申請書が完成した後に、添付書類と一緒に労働局やハローワークに提出します。

 

・審査
申請書が提出されたら、労働局でその内容を審査します。

 

・決定・支給
申請した内容に問題がなければ、雇用調整助成金の支給を決定し、支給額が指定した口座に振り込まれます。

まとめ

雇用保険は、従業員を守るためにとても重要な保険です。しかし、雇用保険料は会社と従業員の両方が負担しなければならないため、保険料には気を付ける必要があります。

 

2021年9月に厚生労働省の諮問機関である労働政策審議会で、雇用保険料引き上げの議論が開始されました。これは、新型コロナの影響で、雇用調整助成金の支給がかさんだことが原因となっています。まだ、引き上げが決定したわけではありませんが、年末までに結論を出し、来年の通常国会での改正案提出を目指しているとのことです。

 

事業主は、雇用保険料引き上げのこれからの動きを注視しておく必要があるでしょう。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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