株主資本とは?決算書を読み解くための基礎知識と自己資本・純資産との違いを解説

[取材/文責]剣先あやめ

決算書を作ったり確認をしたりするときに理解しておくべきことの1つに「株主資本」「自己資本」「純資産」があります。この3つは経理に関わる人や会社の経営者でも混同しがちです。また、時に「同じもの」として扱われることもあります。しかし、この3つには明確な違いがあり、その違いを知っておくことが大切です。

この記事では、株主資本の基礎知識と、混同しやすい「自己資本」や「純資産」との違い、また株主資本等変動計算書について解説します。

 

株主資本とは

株主資本の定義

株主資本とは、企業の資産や負債、資本などの状況を説明するための書類、「貸借対照表」に記される区分の1つです。

貸借対照表の「純資産の部」

記されるのは「純資産の部」であり、株主が保有する資産を指します。株式会社は、会社を経営するための資金を集めるために「株式」を発行し、出資を受けます。株主資本とは、この出資金額に事業で得た金額を足したものです。この内訳は、詳しくは後述します。株主資本は会社の資産ではありますが、持ち分が株主であることが特徴です。

自己資本と株式資本の違い

自己資本とは、株主資本に「その他の包括利益累計額」を加えたものです。その他の包括利益累計額とは、「評価・換算差額等」を読み替えたものであり、繰延ヘッジ損益や為替換算調整勘定等、その他有価証券評価差額金などが該当します。これらは、返済の義務がなく、時期によって額が変化します。

自己資本は会社が持っている資産の「含み損益」と理解するといいでしょう。会社が順調だと増え、経営が不安定だと減っていきます。株式資本が株主にとって確定した持ち分であるのに対し、自己資本は決算時期によって価値が流動する「暫定持ち分」といえます。

純資産と株式資本の違い

純資産とは、会社が保有する自己資本のことです。貸借対照表の資産の総額から負債の総額を引いた差額であり、返済不要の資産と言い換えることができます。純資産を見れば、会社が返済不要の資産をどのくらい持っているかが一目瞭然です。純資産の内訳は以下のとおりです。

  • 株主資本
  • その他の包括利益累計額
  • 新株予約権
  • 非支配株主持分(連結決算の場合にのみ発生)

つまり、株主資本も自己資本も大きく括れば純資産の一部と解釈することができます。

ただし、純資産に含まれる新株予約権とは、会社が発行する新しい株を購入する権利です。非支配株主持ち分とは、連結子会社の資本のうち、支配会社である親会社の部分に属さない持ち分です。この2つは、株主の持ち分とは異なります。そのため、純資産の中に株主資本は含まれますが、純資産と株主資本はイコールではないのです。

 

株主資本の構成要素

株主資本は以下の4つから構成されます。

  1. 資本金
  2. 資本剰余金
  3. 利益剰余金
  4. 自己株式

それぞれの詳細について以下で解説していきます。

資本金

資本金とは、会社が円滑に事業を行うことを目的として株主が出資したお金です。この出資は株券を購入することで行います。また、会社は株式を発行したことにより、株主より払い込まれる金額の2分の1以上を資本金とする必要があります。つまり、株式の発行をすることで得たお金の最低でも半額は資本金にしか使うことはできません。残りは「資本準備金」として計上します。

この資本金は、銀行などから借りる融資とは異なり返済義務はありません。そのため、資本金は会社の信用度を測る物差しとしても用いられることがあります。

資本剰余金

資本剰余金とは、資本準備金と株式の発行・増資・減資・社債の発行や償還・借入金の借入・返済などといった「資本取引」から発生する資金のことです。資本取引から発生した資金を、「その他資本剰余金」といいます。その他資本剰余金の中には、返済が必要な資金も含まれるので覚えておきましょう。

利益剰余金

一般的な利益剰余金とは、企業が生み出した利益を積み立てたお金全般を指しますが、株主資本における利益剰余金とは、「会社が生み出した利益の中から、配当などによって支出されなかった残額」を指します。会社が行う取引には、「資本取引」と「事業運営の損益取引」があり、この2つは明確に区別しなければなりません。そのため、「利益剰余金」という項目が独立しており、「利益準備金」と「その他利益剰余金」の2つの項目があります。

この利益余剰金は、会社の利益が増えれば増加し、赤字決済や過剰配当などがあれば目減りしていきます。利益余剰金は一般家庭でいう「貯蓄」のようなものなので、これが目減りしていき、マイナスになると会社が危ないと判断されてしまいます。

自己株式

自己株式とは、会社が買取った自社の株を指します。金庫株という別名もあります。2001年以前は、インサイダー取引や株価操縦といった犯罪を防ぐために、自社の株を保有することは原則として法律で禁止されていました。認められていたのは、消却・ストックオプションといった特別な理由があったときのみです。しかし、2001年の法改正により、自己株式の無制限・無期限の保有が認められるようになりました。ただし、インサイダー取引などを防ぐために、一日に注文できる数量、及び値段などに制限が設けられています。

項目としては、純資産の部の株主資本から控除して表示する「株主資本のマイナス項目」です。

 

株主資本等変動計算書とは

株主資本等変動計算書とは決算書の一種であり、2006年度より財務諸表の一つとして導入されました。貸借対照表から、純資産を抜き出してその変動を分かりやすくまとめたものです。これにより、年度事業におけるお金の動きやその理由が分かりやすくなりました。なお、株主資本等変動計画書の導入によって、2006年以前に用いられていた「利益・損失処分案」の作成はなくなっています。ちなみに、株主資本等変動計画書はすべての会社に作成義務があり、株式会社以外では、「社員資本等変動計算書」という名前です。

株主資本に該当する部分

株主資本に該当する部分は、株主資本を構成する要素の「前期末残高」「当期変動額」「変動事由」「当期末残高」が該当します。前期末残高が、前期の決算後に残った金額、当期末残高が今期の決算後に残った金額です。前期期末残高から当期変動額を足したり引いたりして算出します。

株主資本以外の部分

株主資本以外の部分は、新株の発行などが該当します。純資産に含まれるもののうち、株主の取り分以外ものと理解しておくと良いでしょう。

株主資本等変動計算書から分かること

株主資本等変動計算書を見れば、会社がどのくらいの利益や損失を出したか、また、利益余剰金がどれだけ積み立てられたかが分かります。つまり、会社が儲かっているのか損をしているのかが分かるということです。また、「剰余金の配当」という項目を見れば、会計期間中に「実際に株主に支払われた金額」も分かります。会社が利益を得た場合、その利益をどのように使ったかも分かるということです。

これにより、粉飾決済など決済の不正を防ぐのと同時に、株主に対してどのくらい適正に会社が運営されているか示すことができます。もちろん、会社が安定しているのか不安定かを判断する材料にもなるでしょう。

 

☆ヒント
資産のうち、株主資本は株主の持ち分を指します。自己資本や純資産との違いが複雑ですが、2006年の「新会社法」によってそれぞれの違いが明確に定義されました。「新会社法」により、株主が投資を検討する際に参考にする決算書がより正確になったため、株主資本について理解しておくことは経営を行う上でも重要です。決算書の書き方や株主資本についての知識が不安な方は、気軽に相談できる顧問税理士がいると安心です。

 

まとめ

株主資本は純資産の一部とみなされてきた時代が長かったのですが、法改正により純資産と一部分離されました。ゆえに、株主資本の内容をよく理解しておくことで、会社の運営や経理の健全化に役立つでしょう。

法律・金融に詳しいフリーライター。フリーランスのための税に関する記事を多数執筆。
税以外のさまざまなメディア媒体への執筆経験、及び自分自身の納税経験も活かし、初心者でも分かりやすい解説をしていきます。

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