個人の“申告漏れ”業種別1位はプログラマー!国税当局の「重点分野の“狙い撃ち”」が加速しているって本当?
国税庁が昨年公表した「令和2事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」では、1件当たりの申告漏れ所得金額で「プログラマー」が初めて1位にランクインしました。これ以外にも上位の顔ぶれに大きな変動があり、1件当たりの申告漏れ所得が例年に比べ高額だったのも特徴です。背景にどんな事情があったのでしょうか?
大きく入れ替わったTOP10
国税庁は毎年、個人事業者を対象に行った所得税・消費税の税務調査(※)の結果を公表しています。最新の2020事務年度(2020年7月~21年6月)分の発表では、1件当たりの申告漏れ所得が大きかった業種がガラリと変わりました。具体的に見てみましょう。
●事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得⾦額が⾼額な上位10業種(「追徴税額」は、不足している税額+「加算税」など)
順位 | 業種 | 1件当たりの申告漏れ所得金額(万円)/追徴税額(万円) |
---|---|---|
1位 | プログラマー | 4,927万円/716万円 |
2位 | 畜産農業(肉用牛) | 3,515万円/503万円 |
3位 | 内科医 | 3,339万円/805万円 |
4位 | キャバクラ | 2,834万円/864万円 |
5位 | 太陽光発電 | 2,603万円/825万円 |
6位 | 建築士 | 2,325万円/624万円 |
7位 | 経営コンサルタント | 2,268万円/477万円 |
8位 | 小売業・犬 | 2,051万円/456万円 |
9位 | 不動産代理仲介 | 1,804万円/614万円 |
10位 | 商工業デザイナー | 1,759万円/389万円 |
ちなみに、前19事務年度(19年7月~20年6月)の順位は、次の通りでした。
順位 | 業種 | 1件当たりの申告漏れ所得金額(万円)/追徴税額(万円) |
---|---|---|
1位 | 風俗業 | 3,373万円/1,053万円 |
2位 | 経営コンサルタント | 3,321万円/1,354万円 |
3位 | キャバクラ | 2,873万円/822万円 |
4位 | 太陽光発電 | 1,718万円/294万円 |
5位 | システムエンジニア | 1,280万円/190万円 |
6位 | 土木⼯事 | 1,225万円/185万円 |
7位 | ダンプ運送 | 1,212万円/179万円 |
8位 | タイル⼯事 | 1,197万円/177万円 |
9位 | 冷暖房設備⼯事 | 1,187万円/199万円 |
10位 | 清掃業 | 1,182万円/158万円 |
プログラマー、内科医などはランクアップ、風俗業はランクダウン
最新の20事務年度のTOP10のうち、前年度に20位以内に入っていたのは、4位のキャバクラ(前年度3位)・5位の太陽光発電(4位)・7位の経営コンサルタント(2位)の3業種のみでした。他の業種は、21位以下からのランクアップということになり、いかに大きな順位の変動があったのかが分かります。
1位はプログラマーで、1件当たりの申告漏れ所得は5,000万円近くに上っています。報道によれば、福岡国税局の調査で、暗号資産などの自動売買プログラムといったソフト開発を手掛けたプログラマーが、販売益を申告していなかったとして約2億円の所得隠しを指摘されたケースもあったそうです。国税当局は、近年こういったシェアリングエコノミー関連分野の取り引きに目を光らせているため(後述)、その過程で高額な申告漏れが多く見つかったのかもしれません。
2位以下は、畜産農業や内科医などですが、前年までに比べ、1件当たりの金額が高額になっていることも目立ちます。
逆に、例年1位か2位に顔を出していた風俗業は、今回はランク外となりました。新型コロナの影響を受けて所得が激減したことから、そもそも調査対象にならないケースが増えたためだとされます。
順位変動の理由は3つ
こうした順位変動や1件当たりの申告漏れ所得のアップについて、国税当局は詳細を明らかにはしていません。ただ、主な理由としては、次のようなことが考えられるのではないでしょうか。
(1)経済環境の変化が所得に影響した
長期化する新型コロナの影響で所得隠しどころではなくなった風俗業が典型といえますが、当然その時代の経済環境は、業種の収益に反映します。プログラマーが上位になったのも、世の中のDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展と無関係ではないはずです。
(2)コロナが国税当局の調査にも影響した
公表された調査が行われたのは、新型コロナに伴う緊急事態宣言などが繰り返されていた時期に重なります。税務調査の柱である対面の「実地調査」が制限されたため、国税局や税務署は、”高額の所得隠しなどが疑われるターゲット”により集中して調査を行ったものとみられ、それが1件当たりの申告漏れ所得などに表れたと考えられます。
実際に実地調査全体でみると、調査件数(前年度比60.1%減)・申告漏れ所得金額(47.0%減)・追徴税額(46.3%減)は前年度に比べ大幅に減っているものの、1件当たりにすると、申告漏れ所得が33.0%・追徴税額は34.9%増加しました。
(3)「新分野の経済活動」などが“狙い撃ち”された
先ほどの(2)とも関連するのですが、国税当局は、コロナ以前から「富裕層」「海外投資等を行っている個人」「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引を行っている個人」をターゲットにした調査に力を入れています。その成果が表れた結果だともいえるでしょう。
“ターゲット”に対する調査の実態は?
“狙い撃ち”にした個人への調査が具体的にどう行われたのか、公表文書から見ていきましょう。
「富裕層」の1件当たり申告漏れは過去最高
「富裕層」の定義は、「有価証券・不動産等の⼤⼝所有者、経常的な所得が特に⾼額な個人、海外投資等を積極的に⾏っている個人など」とされています。
20事務年度は、2,158件(前年比51.6%減)の実地調査が行われ、申告漏れ所得は総額で487億円(前年度比38.3%減)でした。ただ、1件当たりにするとやはり金額がはね上がり、申告漏れ所得は2,259万円(27.8%増)で、過去最高でした。調査全体では1,480万円でしたので、富裕層はその1.5倍近くに上ることになります。1件当たり追徴税額は、543万円(6.5%減)でした。
「海外投資等を⾏っている個人」の申告漏れはやや減少
国税庁は、
経済社会の国際化に適切に対応していくため、有効な資料情報の収集に努めるとともに、海外投資を⾏っている個人や海外資産を保有している個人などに対して、国外送⾦等調書、国外財産調書、租税条約等に基づく情報交換制度のほか、CRS情報(共通報告基準に基づく⾮居住者⾦融⼝座情報)などを効果的に活用し、積極的に調査を実施しています
という説明をしています。
20事務年度は、調査件数2,172件(前年比44.9%減)、申告漏れ所得金額は486億円(44.7%減)でした。1件当たりの申告漏れ所得も2,239万円で6.9%減、追徴税額も527万円と15.9%減っています。新型コロナの影響で海外取引などが停滞した可能性が指摘されていますが、1件当たりの申告漏れ所得・追徴税額は共に、調査全体に比べるとかなり高額です。
「新分野の経済活動に係る取引」も1件当たりの追徴は高水準
「インターネット上のプラットフォームを介して行うシェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引を⾏っている個人」も主要なターゲットです。なお、「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動」は、「シェアリングビジネス・サービス、暗号資産(仮想通貨)取引、ネット広告(アフィリエイト等)、デジタルコンテンツ、ネット通販、ネットオークションその他新たな経済活動を総称した経済活動」と定義されています。
この分野に関しては、1,071件(前年度比42.9%減)の調査が行われ、1件当たりの申告漏れ所得は1,872万円(48.1%増)、追徴税額は494万円(41.5%増)となりました。申告漏れ所得を見ると、特にFX(外国為替証拠金取引)や暗号資産などに関連するネットトレード(1件当たり2,456万円)、ネット広告(2,253万円)などの金額が大きくなっています。
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まとめ
個人事業者の1件当たり申告漏れ所得金額で、プログラマーが初の1位になりました。新型コロナの状況下で税務調査が制限されるなか、国税当局は今後も“的を絞った”調査を行うものと思われます。特にネットトレードや海外投資を行っている人や、高額の所得がありながら無申告が疑われるケースなどには、今後も「取り組みの強化」が予想されます。
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