創業融資はどこから受けるべき?選定の仕方から審査基準までを解説
どんなに素晴らしい事業プランや熱意があっても、必要なお金が手元になければ、創業の夢を現実のものにすることはできません。資金調達にもいくつかの方法がありますが、ここでは最も一般的な「創業融資」について、必要な準備や注意点を中心に解説します。
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融資と自己資金の関係を理解する
起業して会社を設立する場合、自己資金の一部を「資本金」にするのが基本です。その金額も含めて、当座の設備投資の資金や運転資金などが不足すると考えられる場合には、融資を検討する必要があります。ただし、融資は申請すれば必ず受けられるものではありません。起業家の置かれた状況などによって、融資の可否判断や融資枠が変わることを、まず理解しておきましょう。
融資を申請する前のチェックポイント
金融事故がないか
会社の創業融資に際しては、社長個人の「金融履歴」が詳しくチェックされます。具体的には、融資の申請を受けた金融機関が、クレジット会社の共同出資でつくられたCIC(Credit Information Center)という信用情報機関に照会し、過去・現在の金融事故について調べます。そのため、自己破産歴がある/消費者金融からの借り入れを完済していない/クレジットカードを止められたことがある…といった事実がある場合には、残念ながら大きなマイナスになってしまいます。
事業計画書がしっかり作れているか
金融機関は、融資したお金+利子をきちんと返済してもらうのが“商売”です。それが実行できる相手には喜んで融資してくれますが、創業して間もない会社にはその裏付けとなる実績がありません。そこで重要になるのが「事業計画書」です。
もちろん、”夢物語“を書き連ねても、金融機関の担当者を説得することはできません。「いつまでに、これだけの利益を上げられる」といった点を、客観的に述べたものを作成する必要があるのです。例えば競合他社との違いといった自社のアピールポイントを、できるだけ具体的に記載するようにしましょう。
今までの経歴や経験
新たに始める事業に今までやってきた仕事が生きるのかどうかにも、金融機関は目を向けます。脱サラして全く畑違いの事業を始めようという人への融資は、やはり二の足を踏むでしょう。逆に言えば、ある業種で経験を積んだ人が、同じ業種で新たなアイデアを基に事業を立ち上げるような場合には、融資が受けやすいはずです。
どのくらいの経験が評価されるのかについて明確な基準はありませんが、少なくとも3年は同業で働いた経歴が欲しいところです。自分にそうしたベースがない場合には、業種に経験のある人を役員に置くという方法もあります。
なお、独立起業後は、“経営者としての能力”が問われます。従来の仕事でマネージャー的な経歴を持つ場合には、大いにアピールすべきでしょう。
必要書類をそろえることができるか
融資の申請に際しては、先述の事業計画書のほか、印鑑証明書や使途明細といった数多くの書類の提出が求められます。創業で忙しい中、そうした必要書類を迅速に集められるかは、スムーズな融資を受けられるかどうかのポイントになります。
自己資金がどれくらいあるか
実は、述べてきたような条件を満たしたとしても、手持ちの自己資金が少ないと、融資は厳しくなります。「自己資金では足りないから融資を受けたい」という状況とは矛盾しかねないのですが、金融機関にしてみれば、実績のない融資先が資金ショートを起こす=「貸し倒れ」が起こることを、やはり恐れるわけです。
後述する日本政策金融公庫の「新創業融資制度」では、申請額の1/10の自己資本」を基準に掲げていますが、よほど事業の将来性が豊かと判断されない限り、自己資金の10倍の融資を受けるのは困難です。現実には、希望額の1/2、最低でも1/3の資金を蓄えている必要があると考えてください。自己資金は、融資の大きなポイントなのです。
知人から借りたお金は自己資金になる?
そもそも、「自己資金」とはどういうものなのかにも、注意が必要です。
自己資金に当てはまるもの
金融機関の通帳で確認できる資金、出所が明確な資金が、自己資金に当てはまります。
- 自分名義の通帳に貯めたお金
- 親族から贈与されたお金
- 退職金
- 資産を売却したお金
- みなし自己資金(すでに設備や事業に投資した資金)
- 第三者割当増資
- 解約返戻金がある保険
自己資金に当てはまらないもの
- 自身の預金通帳に入れていないお金・タンス預金(出所が不明確なため)
- 親族から借用したお金
- 他人から借りたお金(返済が発生するため)
- 通帳に記帳されていても、出所が明確でないお金
- 一気に大量に口座へ入れられたお金(出所が不明確な場合、すぐに「回収」される「見せ金」の可能性があるため)
自己資金を増やす方法は?
起業まで時間がある場合には、必要であれば副業やアルバイトなどにも精を出して、通帳にお金を積むのが「王道」です。夢を叶えるためにコツコツお金を貯めたという実績は、二重の意味で金融機関の高評価につながるでしょう。
ブランド品など換金性のある身の回りのモノを売却して自己資金に充てるのも、1つの方法です。不動産や株券などの資産は、売却することも現物出資として評価してもらうことも可能です。
また、親族や知人に出資してもらう(自社株を買ってもらう)のも有効です。ただし、出資金がすぐに戻されると、さきほどの「見せ金」と判断される可能性がありますから、注意しましょう。高成長が期待されるビジネスであれば、ベンチャーキャピタルやエンジェル(個人)投資家から出資を受けられるかもしれません。
自己資金がなくても融資を受けることはできる?
では、自己資金がなければ、創業融資は無理なのでしょうか? 結論を言えば、「融資の可能性はあるが、制約もデメリットもある」ということになるでしょう。
例えば、日本政策金融公庫の「新創業融資制度の概要」には、
『現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方』、『産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方』等に該当する場合は、本要件を満たすものとします
という記載があります。
「本要件」とは、「自己資金の要件」で、簡単に言えば、さきほど説明した1/10の自己資金がなくてもOKですよ、ということです。他にも、「民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方」「技術・ノウハウ等に新規性が見られる方」といった要件が挙げられており、これらに該当する場合には、自己資金に関わりなく審査の対象になります。
これも後述する地方自治体による「制度融資」でも、自己資金なしで融資を受けられる場合があります。例えば、東京都の「創業融資」では、「現在事業を営んでいない個人で、創業しようとする具体的な計画を有するもの」については、「自己資金に2,000万円を加えた額の範囲内で融資が可能」となっており、自己資金がなくても2,000万円まで融資を受けられる可能性があります。
自己資金なしで融資を受けるデメリット
ただし、これらはあくまでも融資の審査対象となるということで、確実にそれが実行される保証はありません。自己資金がない、あるいは少ない場合は、十分用意されている場合に比べ、申請が認められる可能性は低くなります。また、融資が実行されたとしても、少額にとどまる、金利が高くなる、といったデメリットも覚悟しなくてはなりません。
どうしても融資を受けたいからと、さきほどの「見せ金」で申請したりすると、融資が不可になるだけでなく「公正証書原本不実記載罪」で刑事責任を問われる可能性もありますので、絶対にやめましょう。
反対に、自己資金が不足気味なのを認識しながらダメもとで申請するのも、おすすめできません。一度審査に落ちると、再び申請しても“門前払い”になる確率が非常に高くなってしまいます。
融資はどこから受けられるのか
それでは、起業しようという場合に、具体的にどこから融資を受けることができるのかをみていきましょう。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、100%政府系の金融機関で、「新たな事業の創出、事業再生などをサポートし経済成長・発展に貢献する」といった公の目的のもとに運営されているため、実績のない創業したての企業でも、比較的融資が受けやすくなっています。中でも起業時の助けになるのが、「新創業融資制度」で、無担保・無保証のうえ融資限度額は3,000万円(うち運転資金1,500万円)となっています。
融資を受けるまでの流れ
- 申し込み前にオンラインや窓口で相談可能
- オンラインで申し込む
- 融資担当者と事業計画などについての面談を行う
- 担当者が店舗、工場などを訪問する
- 融資審査
- 結果(融資実行or融資不可)
必要書類
- 創業計画書(公庫ホームページからダウンロード可)
- 設備資金お申込の場合は見積書
- 履歴事項全部証明書または登記簿謄本(法人の場合)
- 担保を希望の場合は、不動産の登記簿謄本または登記事項証明書
- 生活衛生関係の事業を営む人は、都道府県知事の「推せん書」(借入申込金額が500万円以下の場合は不要)または、生活衛生同業組合の「振興事業に係る資金証明書」(公庫ホームページからダウンロード可)
- 運転免許証またはパスポートのコピー
- 許認可証のコピー(飲食店などの許可・届出等が必要な事業を営んでいる人)
審査のポイント
比較的創業融資が受けやすい政府系金融機関とはいえ、前に述べたように自己資金の要件を満たすことや、説得力のある事業計画書(創業計画書)の作成が不可欠です。創業者個人が申し込んだ場合、実際に融資が実行されるのは50%以下、といわれる実情があることは、頭に入れておきましょう。
銀行
銀行などの民間金融機関は営利を目的としていますので、融資に際しては「貸し倒れ」などが発生しないよう厳格な審査が行われます。十分な担保などがない限り、起業資金を調達したり、創業間もない企業が融資を受けたりするのは、信用力の面からかなりハードルが高いといえます。
融資を受けるまでの流れ(金融機関によって異なります)
- 銀行の相談窓口に問い合わせないし、税理士などに担当者を紹介してもらう
- 融資申し込み
- 金融機関の審査
- 結果(融資実行or融資不可)
必要書類(金融機関によって異なります)
- 登記簿謄本
- 印鑑証明書
- 納税証明書
- 事業計画書
- 決算書(損益計算書、貸借対照表)
- 確定申告書
- 資金繰り表
- 試算表
- 借入状況一覧
- 手持工事明細表(建設業の場合) など
すでに起業している場合には、下記の書類も必要です。
審査のポイント
最初に述べたように、創業資金の調達を銀行からの融資に期待しても、「不可」となる可能性がかなりあると考えてください。ちなみに、一般の銀行は、次のような「信用格付け」に基づいて、融資の可否や条件(利息など)を決定します。
- 正常先:財務内容に問題なく、経営状況も良好と判断された企業
- 要注意先:経営状況が低調、財務状況が不健全で今後注意を要する企業
- 要管理先:3カ月以上の延滞や貸出条件緩和債権として管理される企業
- 破綻懸念先:経営難の状況にあり経営破綻に至る可能性が高いとされる企業
- 実質破綻先:実質的な債務超過に陥り事業好転、再建の見通しがない企業
- 破綻先:法的・形式的な経営破綻の事実が発生している企業
これらは、債務者の財政状況、資金繰り、収益力などにより判断されます。創業後は、①を目指す経営を追求する必要があるでしょう。
地方自治体が運用する「制度融資」
創業時に有効な融資としては、都道府県や市町村による「制度融資」があります。といっても、自治体が直接お金を貸してくれるわけではなく、自治体・信用保証協会・金融機関が協調して資金提供を行う、という仕組みです。
通常、銀行から借り受ける際には担保や保証人を求められるのですが、信用保証協会がその保証人の役目を果たします。また、自治体は、融資のあっせんや金利・保証料の補助を行ってくれます。
この「制度融資」は、自治体によって内容が異なります。詳細は対象となる自治体に問い合わせてください。今回は、一例として「東京都中小企業制度融資『創業』」の概要を述べておきます。
東京都の「創業融資」 融資までの流れ
- 金融機関に申し込み
- 金融機関から東京信用保証協会に保証申し込み
- 保証協会による保証審査
- 保証承諾であれば、融資実行
東京都の「創業融資」 必要書類
- 信用保証委託申込書
- 信用保証委託契約書
- 個人情報の取扱いに関する同意書
- 印鑑証明書
- 所得税の確定申告書の写し(原則直近2期分)
- 所得税又は事業税の納税の確認ができる書類
- 見積書又は契約書の写し(設備資金の場合のみ必要)
- 創業計画書 など
東京都の「創業融資」 融資の内容
- 限度額:3500万円(自己資金に2,000万円を加えた額の範囲内)
- 返却期限:設備資金10年以内(据置期間1年以内を含む)、運転資金7年以内(据置期間1年以内を含む)
市区町村の「制度融資」もある
都道府県単位とは別に、市区町村が同じ仕組みの融資を行っていることがあります。ただ、小規模事業者支援法に規定する経営指導員の指導を要件としている場合もあり、融資までの時間を要することもあるようです。融資の内容も含め、やはり自治体ごとの違いがありますので、融資を考える場合には、問い合わせて確認するようにしてください。
資金調達には出資を受ける方法もある
融資と出資の違い
融資の話をしてきましたが、創業時の資金調達には、出資を受けるという方法もあります。
「融資」は、金融機関などから資金を借りることをいいます。借金ですから、期限までに利子を上乗せして返済しなくてはなりません。
一方で「出資」は、投資家などに株券を渡し、それと引き換えに資金を得ることを指します。投資家は、企業の成長に伴う配当金や、株主総会で経営に参加できる権利を得ます。お金を出す側にとっては、出資だけでなく融資も、広い意味での「投資」ということになります。
出資を受けるメリット・デメリット
出資を受けるメリット
融資と違い、出資してもらったお金は返済の必要がありません。万が一倒産したりしても、多額の負債を抱えずに済みます。
出資を受けるデメリット
投資家は、出資比率によって経営に対する影響力を持つことになります。創業者が思い通りの経営をできなくなったり、最悪経営権を奪われたり、といったリスクがあります。
融資を受けるメリット、デメリット
融資を受けるメリット
元金や利息をきちんと支払っていれば、経営に干渉されるような心配はありません。信用力が付いていけば、必要なときにスピーディーに資金を調達することができ、企業の成長を実現することができます。
融資を受けるデメリット
業績が悪化した場合、返済義務のある借金は重荷になります。経営が厳しいときほど借りるのが難しく、逆に強く返済を迫られるというリスクもあります。
まとめ
創業時の融資について、ポイントをまとめました。金融機関の審査には、それぞれ独自のルールがあり、一度落ちてしまうと再チャレンジが難しくなってしまいます。金融機関の選定、事業計画書の作成なども含め、申し込み前に実績のある税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
中小企業オーナー、個人事業主、フリーランス向けのお金に関する情報を発信しています。
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