厚生労働省、男性の育児休業取得率の公表を義務付ける対象企業の拡大を検討

[取材/文責]福井俊保

厚生労働省は7月25日に男性の育児休業取得率の公表を義務付ける企業に関し、現行の従業員「1000人以上」から「300人以上」の規模に対象を広げる方向で検討していることを明らかにしました。

男性の育児休業取得率の公表義務化はいつから始まる?対象の企業は?

男性の育児休業取得率の公表義務化は、2023年4月1日よりスタートしており、対象となる企業は年に1回公表しなければなりません。そもそもなぜ男性の育児休業取得率を公表することになったかというと、男性の育児休業取得率の低さがあげられます。

厚生労働省の資料によれば、女性の育児休業取得率が85.1%で推移しているのに対して、男性は令和3年度で13.97%と女性に比べてかなり低いです。もちろんそれでも令和元年の7.48%に比べれば格段に伸びています。

政府としては2025年までに男性の育児休業取得率30%、2030年までに85%の達成を目標としており、取得率の公表で企業や男性の意識を変え、男女とも仕事と育児を両立しやすい環境整備につなげるとしています。

厚生労働省は、2024年にも育児・介護休業法の改正案を国会に提出する予定で、対象を従業員300人以上に広げた場合、対象企業は現行のおよそ4000社から1万7000社程度に増える見通しです。ただし法改正だけでは限界があります。男性が育児休業を取得する場合、企業側が取得しやすい環境を整える必要もあります。

そのためには企業努力が必須です。企業努力には男性が育児休業を積極的に取得できるように、男性労働者に告知していく必要もあります。ただ現状では、厚生労働省の調査によると、6割以上の男性が企業からの働きかけがなかったと回答しています。 

こうした結果からもわかるように、企業としては男性に積極的に育児休業を利用してほしくないという状況が推測できるでしょう。今回の改正で、育児休業の取得率の公表を義務化することで、各企業が積極的に男性に育児休業を取得させる取り組みを行うことが期待されています。

また男性の育児休業取得率が向上すると、女性が育児のために会社を辞めざるを得ないという状況が少なくなると考えられます。第1子出産後に女性の5割が仕事を辞めている現状の中で、男性が育児に積極的に参加できると、女性が雇用を継続できる可能性が高まるでしょう。

日本全体の労働生産人口が減少している中で、女性の活用は必須です。そうした狙いも今回の育児休業法の改正にはあります。

公表義務化の対象となる企業は?

育児休業取得率等の公表義務化の対象となるのは、常時雇用する労働者が1000人を超える企業です。常時雇用する労働者は、雇用の実態を見て判断され、期限なく雇われている場合は、常時雇用する労働者になります。そのためアルバイトやパート従業員も対象となります。

先ほども述べたとおり、2023年4月1日からスタートしています。また今後、年に1回公表することが義務付けられるため、男性の育児休業率が向上するような環境づくりを企業全体で取り組んでいく必要もあります。

育児休業取得率の公表内容とは

育児休業等の取得率の公表内容としては、「男性の育児休業等の取得率」または「男性の育児休業等と育児目的休暇の取得率」のいずれかの割合を公表することが必要です。

男性の育児休業等の取得率

男性の育児休業等の取得率は、公表前事業年度において「育児休業等をした男性従業員の数」÷「配偶者が出産した男性従業員の数」で求められます。育児休業等には産後パパ育休(出生時育児休業)も含まれます。
産後パパ育休については、「「産後パパ育休」の給付引き上げで実質10割支給に!17日にも政府が表明か」をご覧ください。

男性の育児休業等と育児目的休暇の取得率

男性の育児休業等と育児目的休暇の取得率は、公表前事業年度において(「育児休業等をした男性従業員の数」+「小学校就学までの子を養育する男性従業員のうち企業の独自の休暇制度を利用した人数」)÷「配偶者が出産した男性従業員の数」で求められます。

「企業の独自の休暇制度」とは、たとえば「配偶者出産休暇」制度や「育児参加奨励休暇」制度などです。ただし休暇制度には育児休業等および子どもの看護休暇を含みません。

公表すべき方法は?公表しないとどうなる?

男性の育児休業取得率の公表は「インターネットの利用その他適切な方法により行う」とされており、自社のホームページや「両立支援のひろば」で公表することが想定されています。

「その他適切な方法」については明記されていませんが、新聞や官報など、誰でも閲覧できる方法が考えられます。これらの公表方法を踏まえると、自社のウェブサイトで公表するのがもっとも簡単でしょう。公表の時期については、事業年度終了後、おおむね3カ月以内とされています。

公表義務違反をすると行政指導や勧告を受ける可能性があります。企業名が公表された場合、ブランドイメージがマイナスになる可能性が高いです。そのため対象となる企業は公表を適切に行わなければなりません。

一方男性の育児休業取得率が高い企業は、積極的に公表することでブランドイメージが向上します。そのため男性の育児休業取得率を公表する準備をするだけでなく、男性の育児休業取得率が高くなるような施策を社内で実施していく必要もあるでしょう。

育児休業取得率を計算する際の注意点

育児休業取得率を計算する際の注意点は以下の3つです。

分割取得しても労働者数は1人として計算する

2022年10月1日より、育児休業は分割して2回取得できるようになりました。その場合、育児休業を取得した労働者が2人になるわけではありません。育児休業取得率の計算においては、分割して取得しても1人として計算することになります。 

別の休暇制度の場合も同様で、同じ子どもに対して2回以上取得したとしても、1人として計算します。

双子や三つ子でも労働者数は1人として計算する

配偶者が出産した男性労働者を数えるため、双子でも三つ子でも労働者1人と計算します。双子だと労働者2人とはならない点に注意しましょう。

事業年度をまたいだ時は育児休業を開始した日を含む事業年度のみ数える

事業年度をまたいだ時は、育児休業を開始した日を含む事業年度のみ1人と数えます。そのため次年度の計算に含まないように注意が必要です。また事業年度をまたいで分割取得した場合も同様で、取得開始日を含む事業年度のみを数えるようにしましょう。

まとめ

ここまで男性の育児休業取得率の公表義務化に関する条件や公表内容、公表する際の注意点について解説してきました。ここまで見てきたように、男性の育児休業取得率向上のために、一定の条件以上の企業に対して公表が義務化されました。

男性の育児休業取得率等の公表義務化は、企業にとってデメリットばかりではありません。社会全体が男性の育児休業取得率の向上を目指している中で、男性の育児休業取得率が高い企業はブランドイメージが向上すると考えられます。

男性の育児休業取得率の向上につながる企業努力を行い、男性の育児休業取得率を積極的に公表していきましょう。

渋谷区で一から立ち上げたプログラミング教室スモールトレインで代表として、小学生に対するプログラミングと中学受験の指導に従事。またフリーランスのライターとしても活躍。教育関係から副業までさまざまな分野の記事を執筆している。
著書に『AI時代に幸せになる子のすごいプログラミング教育』(自由国民社)、共著で『#学校ってなんだろう』(学事出版)がある。

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