「週休3日制」って何?働き方改革で変わる週休の変化について解説

[取材/文責]奥谷佳子

政府が掲げる「一億総活躍社会」を実現するための一環として、厚生労働省が打ち出したのが「働き方改革」です。改革の柱の一つに「長時間労働の是正」があることから、現在では労働者の休暇を増やす流れになっています。今回は、そのようななかで出てきた「週休3日制」とは何かについて解説していきます。

働き方改革で進む週休の増加傾向

従業員に与える休暇の義務化が進む

働き方改革」が目指すのは、労働者それぞれが自分のライフスタイルに合った働き方を選択しやすい環境の整備です。サラリーマンといえば、高度経済成長の時代から休暇といえば日曜・祝祭日だけ、早出残業は当たり前といった風潮がありました。しかし、少子高齢化に伴う労働人口の減少により、「過労死」にみられるような労働者の疲弊がより深刻化することになります。労働による時間的拘束や身体面、メンタル面のケアが疎かになってしまえば労働者自身が疲弊し、結果として労働人口の減少に拍車がかかる可能性もあります。そこで「働き方改革」では、労働者保護の観点から労働時間に対する規制や、健康やメンタルのケアの義務化などが重点的に盛り込まれています。具体的には「完全週休二日制の導入」や「産業医の義務化」などがそれにあたります。

義務化されている休暇制度にはどのようなものがある?

なかでも特に強化されているのが、労働時間に対する規制でしょう。

1.週40時間を超える労働の原則禁止

労働基準法第32条では、1日8時間、週40時間を法定労働時間としており、法定労働時間を超えて労働させることを原則として禁止しています。仮に1日8時間労働であれば、週40時間÷8時間勤務=週5日勤務となります。週2日を必ず休日とする「完全週休2日制」を導入している企業は、この1日8時間、週40時間の原則に沿った結果であるといえます。

2.時間外労働に対する上限規制

同法第36条では原則として1カ月の残業時間を45時間以内、年間で360時間以内としています。特別な事情があり、労使間で合意した場合のみ適用できる上限延長(いわゆる36協定)があっても、1カ月の残業時間は100時間以内、年間で720時間以内となっています。
この時間外労働の上限規制は大企業で2019年から、中小企業で2020年から適用となっており、唯一の例外であった建設業においても2024年から上限規制が義務化される予定です。

3.年次有給休暇取得の義務化

従業員には勤務期間に応じて毎年、年次有給休暇が付与されます。6年6カ月以上の勤務期間があれば最大で40日の有給休暇を保持することができるのです。しかし、仕事の都合により現実として有給休暇を消化できないといったケースが見受けられました。「働き方改革」では、有給休暇について「年間5日の年次有給休暇取得の義務」を企業側に課すことで、従業員が有給休暇を取得しやすい環境を作り出しています。

「週休2日制」ならぬ「週休3日制」とは何か?

時代は「週休2日制」から「週休3日制」へ

「働き方改革」による法改正で、「完全週休2日制」を導入する企業が増えてきました。しかし最近「週休3日制」を導入しようという動きがあることをご存じでしょうか。

「週休3日制」を解説する前に、まずは「完全週休制」と「週休制」の違いについて整理してみましょう。「完全週休制」とは、毎週必ず一定日数の休日があることを意味します。例えば「完全週休2日制」であれば、毎週必ず2日の休日があることになります。これに対して「週休制」は、1年間に1週以上、一定日数の休日があることを意味します。例えば「週休2日制」であれば、少なくとも1年に1度、週休2日があることになります。

このルールからいえば「週休3日制」とは「年に1度、週休3日がある」ということです。「完全週休3日制」であれば別ですが、週休3日というだけで休みが劇的に増えると捉えないように注意しましょう。ただ、「完全週休2日制」を既に導入している企業がさらに「週休3日制」を併用する場合、休日が増えることには変わりません。

「週休3日制」が導入される背景とは?

ではなぜ「週休3日制」が登場したのでしょうか。答えは2021年6月の閣議決定を経て厚生労働省が発表した「こども未来戦略方針」のなかにあります。「こども未来戦略方針」とは、現在わが国が抱える少子化問題により、将来的に労働力・国際競争力が低下することを防ぐ取り組みとして政府が打ち出したものです。若年層の所得や休暇を伸ばすことで、安心して子育てができる仕組みをつくることが狙いであり、戦略方針における様々な取り組みの一つとして「週休3日制」を普及しようという議論が始まりました。

現在は義務化されているわけではなく、あくまで企業側に普及を促している段階ですが、実際に導入した企業が現れるなど、動きが活発になりつつあります。

「週休3日制」が企業や従業員にもたらす影響とは?

「週休3日制」が導入された場合のメリット

では「週休3日制」が企業に導入された場合のメリットはあるのでしょうか。企業側と労働者側双方のメリットを挙げてみましょう。

1.求人や離職防止に効果がある

企業が求人を出す場合、年間休日が多ければそれだけ求職者に対するセールスポイントになります。求職者にしてみれば休日が多い企業は魅力的に映るでしょうし、同じ給与なら休みが多いほうがいいと考えるのは当然のことでしょう。また、休日が増えることで福利厚生が充実するわけですから、在職者の離職の防止にも繋がります。

2.作業効率の向上につながる

休日が増えたからといって仕事量を減らすことはできませんから、限られた時間内で同じ仕事量をこなせるよう、作業内容を改善する努力が求められます。週休3日制にすることで、現在の作業効率をより向上させようという動きが出てきます。

3.労働者のケアにもつながる

休日が増えることで、労働者は肉体的にも精神的にも休むことができます。効率の良い仕事をするためにはまずフィジカル、メンタル共に充実していなければなりません。充分な休暇を与えることで、社員の健康面をサポートすることにも繋がります。

「週休3日制」が導入された場合のデメリット

メリットの大きい「週休3日制」ですが、実際に運用していくためにはいくつかの課題を乗り越えなければなりません。次に「週休3日制」のデメリットを挙げてみましょう。

1.ビジネスチャンスを逃すことも

「週休3日制」は単純にビジネスチャンスが減少することを意味します。店舗であれば営業時間が短くなりますし、営業であれば得意先にアプローチする機会が減少します。仮に作業効率を上げたとしても、ビジネスチャンスの減少は物理的に穴埋めすることが難しいでしょう。

2.勤怠管理が煩雑になる

「こども未来戦略方針」が掲げるのは選択的な週休3日制です。この「選択的週休3日制」を企業が導入した場合、労働者ごとの勤怠管理がより煩雑になります。「週休2日制」と「週休3日制」が混在することで、労務管理をする側は労働者ごとの制度を把握したうえで勤怠管理を行わなければなりません。

3.作業の進捗にも影響が

例えば建設業のように、作業を完了するために複数の労働者の手が必要な業種では「週休3日制」の導入は大きなデメリットとなります。週休が増えることで、作業する労働者の頭数を揃えることがより難しくなるからです。それぞれが独立して作業をする業種であれば別ですが、製造業や建設業では課題が残る制度であるといえます。

4.給与面の待遇が悪くなる

日給月給で給与を支給しているケースでは、休日が増えますので単純に手取り金額が減ることになります。支給額に対して計算される源泉所得税と違って、住民税は前年分の所得に対して計算されます。週休3日制になって下がった給与から、週休3日制導入前の高い所得で計算された住民税が控除されるということも起こり得ます。

まとめ

少子高齢化が進む日本では、労働人口の確保のためにも少子化対策は急務です。若者が安心して子育てができる社会的な仕組みをつくるため、休暇を充実させることは有効な手段です。将来のためだけではなく、労働者が健全に働ける環境づくりのためにも「週休3日制」を検討してみてはいかがでしょうか。

Webライター/ライター
フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。

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