特定退職金共済は節税対策になる?メリット・デメリットをご紹介
特定退職金共済は、中小企業が退職金制度を確立することを助けるために、特別な法律のもとに作られた制度です。特定退職金共済に加入すれば、退職金制度を作れるだけではなく、大きな節税効果も期待できます。本記事では、特定退職金共済の仕組みと節税効果、およびその他のメリット・デメリットについて解説します。
特定退職金共済(特退共)とは
特定退職金共済は国の承認を得た制度であり、税法上の特色や仕組みなどについては所得税法施行令によって規定されています。制度の目的および概要、法的根拠や具体的な特徴などについて解説します。
中小企業の退職金制度の確立を助ける制度
特定退職金共済は、中小企業に所属する従業員の福祉の増進と中小企業の振興に寄与することをおもな目的とする制度です。個人事業主または法人の中小企業主が特定退職金共済団体に加入して退職金共済契約を締結することにより、特定退職金共済団体(商工会議所、商工会、商工会連合会など)が中小企業主に代わって退職金の支払いを行います。
特退共の仕組み
加入事業主は特定退職金共済団体と退職金共済契約を結び、掛金を収める代わりに、所属する従業員が退職するときに退職給付金の支給を受けるように取り決めます。納付された掛金は、事務に要する必要経費として通常認められる金額を差し引いたうえで、定期預金を含む預貯金、合同運用信託、証券投資信託の受益権などの資産として特定退職金共済団体が運用します。
特退共の掛金
中小企業主が加入している特定退職金共済団体に支払う掛金は、被共済者(従業員)また、特退共に加入する以前の過去勤務期間がある場合については、通常の掛金とは別に、過去勤務掛金として納付することが可能です(10年を超える場合は10年を限度)。
特退共の給付金
特定退職金共済の給付金には、「退職一時金」、「遺族一時金」、「退職年金」の3種類が存在します。被共済者が退職した際には退職一時金、死亡により退職した場合は遺族一時金、10年以上の加入かつ被共済者本人が希望した場合には退職年金として給付されます。掛金の額は加入口数と加入期間に応じて計算されることが特徴です。また、契約を途中で解除した場合は、被共済者に対して退職一時金と同額の解約手当金が支払われます。
特退共の加入手続き
特定退職金共済制度に加入を希望する中小企業主は、所定の退職金共済契約申込書を記入・押印したうえで、商工会議所の窓口に提出しましょう。なお、「過去勤務期間不採用について」の確認印、および「被共済者同意印」は必ず押印する必要があります。書類の提出期限は毎月15日であり、掛金は毎月22日に口座振替で払い込みを実施します。
中小企業退職金共済制度(中退共)との違い
中小企業退職金共済制度は国が運営する制度であり、加入後4か月目から1年間、掛金の半額(5,000円が上限)を国が助成金として支払い、1か月の掛金下限は1人あたり5,000円であることなどが特徴です。特定退職金共済制度に比べて掛金の下限額が高く、中退共が掛金を直接管理するといった違いがあります。
特定退職金共済による節税
退職金制度の補助だけではなく、特定退職金共済は節税対策にもなります。ここでは、どうして節税対策になるのかに触れたうえで、事業主、従業員双方から見た特定退職金共済を導入する意味を解説します。
事業主にとっての節税
節税対策は難しいというイメージがあるかと思いますが、特定退職金共済の特徴である掛金を活用することで、中小企業主は安全かつ確実に節税対策を実施することができます。
- 全額を損金または経費として計上できる
中小企業主が負担する掛金は、全額を課税対象外となる損金または経費として計上できます。掛金が高額であるほど節税効果も大きくなるといえます。 - 法人税の節税効果シミュレーション
掛金が月3万円であれば従業員1人当たり年36万円を経費として計上できます。従業員が30人であれば年1,080万円になります。法人税を30%とした場合、1,080×0.3=324万円の法人税を節税できるということです。
従業員にとっての節税
「掛金は課税対象外である」という特徴は、従業員にとっても節税効果を実感できる要素となります。
- 掛金に対して所得税が課されない
掛金には所得税が課されないので、従業員は給与にかかる所得税を節税することができます。給与と掛金を合算して受領する場合に比べて、掛金の分だけ所得税がかからなくなるという仕組みです。 - 給付を受けるときにさまざまな税控除を受けられる
退職して給付を受ける際には、給付金の種類や勤続年数などによって規定の税控除が適用されます。退職する被共済者あるいは遺族に対して課税される金額は少額となることがほとんどなので、従業員にとって特退共に加入することは大きなメリットといえます。
特定退職金共済のメリットとデメリット
特退共は仕組みを正しく理解して運用することで多様なメリットを得られる制度ですが、加入条件や退職金の計算方法などを良く知らないとデメリットを受けるリスクもあります。
特定退職金共済のメリット
特退共制度は事業主と従業員の双方にとってさまざまなメリットがある制度です。
- 導入や管理が簡単
新しく特退共制度を導入する際は、保険会社経由で管轄内の商工会議所や商工会などに申込書を提出するだけで手続きを完了させることができます。掛金の積立に関しても外部の保険会社が代行してくれるので、中小企業主は簡単に特退共制度を導入することが可能です。 - 中小企業でなくても加入できる
特退共に加入するうえで従業員数に関する制限はありません。商工会議所の地区内に事業所がある事業主であれば、どういった人でも退職金共済契約を締結することができます。 - 人材の確保と定着につながる
経営環境や雇用環境が大きく変化している現代において、退職金制度が確立されている企業は福利厚生が充実しているといえます。従業員にとっては入社先として選びやすくなるほか、長期的に同じ企業へ在籍する理由が一つ増えることになります。企業主にとっては、優秀な人材を長期的に確保しやすくなるというメリットが得られます。 - 元本以上の退職金を受け取れる
特退共に一定期間以上加入した従業員は、掛金よりも高額の退職金を受け取れます。東京商工会議所を例にすると、特退共に加入して8年後には退職金が掛金を上回るので、従業員にとっては合理的です。 - 過去の勤務期間が通算できる
特退共では、加入前の勤務期間を過去10年分まで通算して掛金の払い込みができます。過去分の掛金を支払うことによって、勤務期間相応の退職一時金を受け取れます。 - 中退共制度と併用できる
特退共は、中退共制度と併用して運用することが可能です。特退共は掛金の額を調整しづらいというリスクがありますが、中退共を併用することで掛金運用のリスクを低減できます。 - ほかの退職金との通算制度がある
一度特退共へ加入した従業員は、他の特退共がある企業へ移ったり中退共のみがある企業へ移ったりした場合、一定の条件を満たすことで、それまで加入していた特退共の退職金を持ち越せるケースがあります。
特定退職金共済のデメリット
- 役員は加入できない
特退共は従業員を対象とした制度なので、役員は加入することができません。具体的には代表取締役や副社長といった地位の人物が該当します。ただし、従業員としての給与を受ける使用人兼務役員は、特退共の加入対象となります。 - 掛金の減額変更には従業員の同意が必要
一度増やした掛金を減額する場合、中小企業主は全従業員から減額手続きに対する同意を得る必要があります。加えて、掛金を減額しないと積立継続が著しく困難であることを特定退職金共済団体に認可してもらわなければなりません。なお、掛金増額に関しては任意で可能なので、新しく特退共に加入する中小企業主は余裕を持って掛金を設定することをおすすめします。 - 退職理由によって退職金を減額できない
特退共の退職金は、加入期間と掛金の口数によって決定されます。被共済者である従業員が退職する際は、自己都合や定年といった理由で特退共の退職金が増減することは基本的にありません。 - 早く退職すると元本割れする
特退共に加入してから一定期間内に退職すると、退職金よりも掛金の方が高くなってしまいます。東京商工会議所の退職一時金を例にすると、加入後から7年目までは退職金よりも掛金が高い元本割れが続きますが、8年目からは退職金の方が高くなります。 - 遺族への補償としては不十分
被共済者が死亡した場合には遺族一時金が支払われますが、加入期間と掛金によって支給額が決定される点は退職一時金と同じです。遺族一時金は掛金の口数に応じて一定額が支給分に上乗せされますが、加入期間が短いと死亡補償としては不十分な金額になります。
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退職金とその節税対策についてのフリーランスの税金の話【特定退職金共済】,3分でわかる税金
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まとめ
特定退職金共済を導入することによる節税効果、事業主および従業員にもたらすメリット・デメリットについて解説しました。特定退職金共済について正しく理解したうえで、節税と従業員の福利厚生を両立していきましょう。
慶應大学法学部卒。
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