「新型肺炎」のワクチンが開発されたらその接種は医療費控除の対象?それとも対象外?
“中国発”の新型コロナウイルスによる肺炎の感染が、日本国内でも広がりをみせています。医療体制の拡充とともに、待たれるのがワクチンの開発。ところで、こうした病気やけがで医療機関を受診して医療費を支払ったとき、要件を満たせば、所得税の控除を受けることができます。「診療」や「治療」が税の軽減の対象になるのは、わかりやすいでしょう。では、仮にワクチンができた場合、その接種の費用も控除してもらえるのでしょうか? 「医療費控除」について、解説します。
控除は「年間医療費の合計10万円超」が条件
医療費控除には、まず、「1年間(1月1日~12月31日)に支払った医療費が、保険金などで補填された金額を除いて10万円を超えたとき」という条件があります。「保険金など」には、生命保険の給付金のほか、健康保険の高額療養費、出産一時金などが含まれます。要するに、「自腹を切った医療費が10万円を超えた場合」ということです。
計算式で表せば、
ということになります。
ただし、総所得が200万円未満の人の場合は、上の式で差し引かれるのは10万円ではなく、総所得の5%です。「総所得」とは、サラリーマンの場合は、「年収-給与所得控除(※1)」、自営業者などの場合は「売上-必要経費(※2)」と理解してください。
医療費控除とは、上の式で計算された控除額(A)を、所得税の計算のベースとなる所得から差し引いて(「控除」して)もらえる仕組みのことを言います。こうした仕組みを「所得控除」と言います。なお、医療費控除には、200万円という上限があります。
所得税は、所得控除(医療費控除以外にもあります)が済んだあとの「課税所得」に税率を掛けて計算されますから、この控除金額が大きいほど、支払う税金を少なくすることができるわけです。
給与に応じて控除される「サラリーマンの必要経費」
業務に必要だと認められる経費。所得税課税のベースとなる利益から差し引くことができる。
サラリーマンでも確定申告が必要になる
では、医療費控除を正しく活用するためのポイント、注意点を挙げていきましょう。
◆サラリーマンでも、確定申告が必要です→「還付申告」は、5年間可能
医療費控除を受ける場合には、普段は税の過不足を会社が年末調整で処理してくれるサラリーマンも、自分で確定申告を行わなくてはなりません。サラリーマンは、毎月の給料から所得税を源泉徴収されていますから、確定申告によって、払い過ぎた税金を戻してもらうかたちになります。これを「還付申告」と言います。
2020年の確定申告(19年の所得分)は、2月17日~3月16日に済ませなくてはなりません。もうあまり時間が残されていませんが、ご安心を。還付申告については、対象となる年の翌年の1月1日から5年間、行うことができるのです。
つまり、19年分の医療費控除の還付申告は、2024年12月31日まで可能ですから、慌てる必要はありません。申告のし忘れがないように、しっかり調べましょう。ちなみに、2020年の年末に期限を迎えるのは、2015年分の医療費ですから、年内にはそこまで遡って還付申告することが可能です。
◆医療費控除の対象になる支出→主として「治療」を目的としたもの
実は、「医療費」の捉え方は幅広く、控除の対象になるものと、ならないものがあります。医療機関などに対して支払った金額だけでなく、そこに行くための「交通費」も、認められる場合と、そうでない場合があるのです。
主なケースを、以下にまとめました。まず、医療費控除の対象になるのは……
- 医療機関での診療費、治療費
- 入院費、入院中の部屋代(差額ベッド代などを除く)、食事代
- 医師の処方に基づいて購入した医薬品の費用(市販の医薬品も対象になる場合があります)
- 治療に必要な医療器具の購入費用
- 歯科治療費
- 治療のための歯列矯正費
- 治療のためのリハビリ、マッサージ費用
- 出産費用
- 妊娠してからの検査費用
- 通院に必要な交通費(電車、バス、急を要している場合などのタクシー代)
など
◆医療費控除の対象にならない支出→主として「予防」を目的としたもの
しかし、以下のような費用は、控除にはなりません。
- 健康診断の費用(それにより病気が発見され、治療を行った場合には、対象となる)
- 予防注射の費用
- 美容整形の費用
- 美容目的の歯列矯正費
- ビタミン剤などの購入費用
- 自家用車による通院のガソリン代、駐車場代
- 自分の都合で使用した差額ベッド代
など
ですから、例えばインフルエンザのワクチン接種は対象外。「新型肺炎」のワクチンが開発されても、医療費控除の対象にはならないのです。
◆医療費は、家族分を合算できる→所得税率の高い人がまとめると有利になる
1年間に支払った医療費は、生計を一にする(※3)家族の分を合算して申告することができます。ただ、まとめ方にはコツがあります。
所得税は累進課税と言って、所得が増えるほど税率が高くなるように設計されています。ですから、所得の多い人(税率の高い人)にまとめて申告するほうが、得をすることになるのです。例えば、家族の医療費控除額が20万円だったとすれば、税率10%の人が申告すると2万円、税率20%ならば4万円の節税になる計算です。
「日常の生活の資を共にすること」(国税庁ホームページ)。同居していなくても、生活費、学資金、医療費などを常に送金している場合などには、税法上「生計を一にする」とみなされる。
まとめ
「医療費」にも、控除の対象になるものと、ならないものがあります。「なる費用」が10万円を超えた場合は、忘れずに申告を。サラリーマンでも確定申告が必要ですから、注意しましょう。
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