黄金株(拒否権付種類株式)とは?政府が保有する日本企業や活用方法、相続税評価を解説

[取材/文責]田中あさみ

黄金株とは種類株式の1つで株主総会や取締役会で決議する特定の事項について、種類株主総会を開き決議を必要とできるものです。株主総会・取締役会で決まった事柄に対して拒否ができ、大きな権限を持つことから「黄金株」と呼ばれています。
今回は黄金株の概要、政府が唯一黄金株を持つ日本企業、活用方法とデメリットを解説していきます。

黄金株=拒否権付種類株式とは?通常の株主総会や取締役会とは別に承認が必要

黄金株とは株主総会・取締役会が承認した事項に対して種類株主総会の決議を必要とし、拒否権を行使できる「拒否権付種類株式」です。

黄金株(拒否権付種類株式)は「種類株式」の1つ

黄金株とは株主総会や取締役会で決議する特定の事項について、種類株主総会の決議を必要とできるようにする株式です。黄金株を保有していると、たとえ株主総会又は取締役会において決議された事項でも拒否権付種類株主総会により拒否権を行使できます。

出典:エクイティ・ファイナンスに関する基礎知識 株式の種類・増資の手続き , 経済産業省

会社法では以下のように規定されています。
 

第108条 株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる(以下略)
8 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第四百七十八条第八項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの

出典:会社法 , e-GOV

株式会社が発行できる株式には、普通株式と異なる「種類株式」があり、黄金株も種類株式の1つ(拒否権付種類株式)です。
種類株式とは、一定の事項について株主の権利を優先または制限できる株式です。
拒否権付種類株式は、大きな権限を持つことから「黄金株」と呼ばれています。
株主総会や取締役会では取締役・監査役の選任や解任、定款変更など会社のさまざまな事項について決議しますが、黄金株の拒否権は自由に設定が可能です。

ただし、拒否権を持たせる内容は定款に記載をする必要があります。例えば会社の合併について拒否権を行使したい場合の記載例は、以下のとおりです。

<定款への記載例>
当会社が合併を行う場合には、当会社の株主総会の決議に加えて、A種株主を構成員とする種類株主総会の決議を要する。

 

日本では、政府が黄金株を持つ企業が1社存在します。

株式会社INPEXは政府が黄金株を保有する日本で唯一の企業

株式会社INPEX(旧社名:国際石油開発帝石株式会社)は石油・天然ガスの開発企業で、日本政府(経済産業大臣)が黄金株を保有する唯一の企業です。
2023年の「ForbesGlobal 2000」では、世界で510番目に大きな株式会社と評価されています。

1941年に帝国石油株式会社法により設立された半官半民の国策会社・帝国石油株式会社と、1966年に設立された国際石油開発株式会社が2008年に完全統合を行い発足した企業です。

株式会社INPEXの全ての株式を海外企業に買収されてしまうと、国内でのエネルギーの安定供給が不可能になってしまう恐れがあります。統合前から国策企業(※)ということもあり、政府が黄金株を保有し公共性の高い事業を運営しているのです。

※国策企業:国の政策を遂行するために政府の出資を受け、特別法に基づいて設立された半官半民の会社のこと。

 

株式会社INPEXでは、以下の6つに拒否権を設定しています。

①取締役の選任・解任
②重要な資産の処分など
③定款変更
④合併・株式交換・株式移転
⑤資本の額の減少
⑥会社の解散

出典:情報通信審議会 電気通信事業政策部会 通信政策特別委員会(第1回)資料1-4 , 総務省

総務省の情報通信審議会・通信政策特別委員会(第1回)におけるNTTのの民営化案では、国に黄金株(拒否権付種類株式)を付与することが参考意見として提出されています。

第5回の提出資料にも、株式会社INPEXのように海外企業からの買収への対応策として提示されていますが、同時に専門家から導入する場合の問題点も指摘されています。

東京証券取引所は、上場会社について、取締役の選解任等の重要事項に関する黄金株の発行に関する決議、決定があった場合、株主及び投資者の利益を侵害するおそれが少ないとされる場合を除き、上場を廃止するものとしている
決議それ自体についても、株価への影響は避けられず、特別多数決を得られるかの問題もある

出典:情報通信審議会 電気通信事業政策部会 通信政策特別委員会(第5回)資料5-5 , 総務省

NTTの黄金株を政府が保有する案が通った場合、東京証券取引所の対応や株価への影響、株主の意向などが懸念材料です。

黄金株で設定できる拒否権は事業承継や敵対的買収で役立つ

黄金株に持たせる拒否権は、事業承継や敵対的買収の際に役立つ可能性があります。まずは設定できる拒否権について見ていきましょう。

黄金株で設定できる拒否権とは

黄金株に設定できる拒否権は、以下の株主総会の決議事項の中から会社が自由に選ぶことができます。

決議内容の例 成立要件 決議要件
普通決議 ● 取締役・監査役の選任
● 取締役の解任
● 役員給与退職金などの決定
● 剰余金の処分・分配※1など
議決権の過半数を有する株主の出席 出席株主の議決権の過半数
特別決議 ● 監査役の解任
● 特定の株主からの自己株式の合意取得
● 相続人などに対する売渡請求の決定
● 資本金の減少、株式併合
● 定款変更、事業譲渡、解散
● 合併、会社分割、株式交換、株式移転など
議決権の過半数を有する株主の出席
(定款で1/3以上を定めた場合はその場合)
出席株主の議決権の2/3以上※2

特殊決議 株式に譲渡制限の定めを定款に設ける場合など 議決権を行使できる株主の半数以上でその株主の議決権の2/3以上※2
※1純資産額が300万円未満の場合の配当・分配可能額を超えた配当は禁止されている
※2定款でこれを上回る割合を定めた場合はその割合

 

黄金株の持つ拒否権は権利が強いため、拒否権の範囲を広くすると経営に支障をきたす恐れがあります。

よって一般的には重要な資産の処分、定款変更、合併、資本の額の減少、会社の解散といった重要事項に拒否権を設定する事例が多いです。

事業承継では、例えば親から子へ事業を承継する場合に後継者である子どもに自社株式を譲渡すると同時に親が黄金株を保有します。

拒否権を設定した事項については親の承諾が必要となり、子どもが後継者として適切な判断・決定ができるようになるまで拒否権の行使が可能です。

代表取締役と取締役の選任・解任

代表取締役の解任、取締役の選任・解任に拒否権を設定すると、事業承継において後継者が自身に有利な取締役を選任・解任することを回避できます。

合併・事業の譲渡

合併や事業の譲渡は企業にとって重要事項で、特別決議で原則出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。

黄金株を保有すると、株主などの承認を得ても合併・事業の譲渡に対して拒否ができます。

会社の財務で重要な事項

会社の財産の譲渡、資本金の減少、多額の融資を受けるといった財務で重要な事項についても拒否権を設定・行使できます。

敵対的買収にも対抗できる

買収される側の取締役会の同意を得ずに、買収を仕掛けることを「敵対的買収」(同意無き買収)と呼びます。

敵対的買収では、対象企業の議決権(経営権)を取得するために、総株主の議決権の過半数の取得を目指し株式公開買付(TOB)を行うケースが多いです。黄金株を持ち、定款に記載することで買収を阻止できます。

黄金株の相続税評価は?

黄金株は、普通株式と同様に相続税評価を行います。

出典:種類株式の評価について 拒否権付株式の評価 , 国税庁

中小企業庁の「相続などにより取得した種類株式の評価について」という照会に対しても、国税庁は「拒否権付株式(会社法第108条第1項第8号に掲げる株式)については、拒否権を考慮せずに評価する」と回答しています。

黄金株のデメリット

黄金株は上記のような活用方法がある一方で、①事業承継税制が利用できない、②経営に支障をきたす恐れがある、③黄金株の存在が知られて資金調達が困難になる可能性があるといったデメリットがあります。

事業承継税制が利用できない

事業承継税制とは、後継者(受贈者・相続人など)が非上場会社の株式を贈与または相続・遺贈により取得した場合、一定の要件を満たすと株式の贈与税・相続税を猶予する制度です。
後継者が亡くなった場合にも要件を満たすことで贈与税・相続税が免除されます。
事業承継税制の認定要件の1つに「拒否権付株式(黄金株)を発⾏している場合には、経営承継受贈者・相続人(後継者)以外の者が有していないこと」があります。

後継者ではない者が黄金株を保有していると、後継者の意思決定に対して拒否権を発動できる者がいることになり、経営権が不完全なものになるため認定が取り消されてしまいます。

経営に支障が出ることも

黄金株を持つことで、会社の経営に関するさまざまな事項で保有者の承認が必要となり経営に支障をきたす恐れがあります。

商業登記で黄金株の存在が知られてしまう

黄金株に拒否権を設定した内容は定款に記載し、商業登記が必要です。
登記を閲覧されると黄金株の存在が知られてしまい、拒否権の内容によっては外部株主が警戒し増資による資金調達が困難になる事例が想定されます。

強い権利を持ち、事業承継に活用、敵対的買収に対抗できる黄金株ですが上記のデメリットを把握した上で活用を検討しましょう。

黄金株の他にも「議決権の制限」「役員選任権」など、特定の事項に関する権利を優先または制限できる種類株式があります。

出典:エクイティ・ファイナンスに関する基礎知識 株式の種類・増資の手続き , 経済産業省

種類株式を発行すると既存の株主に影響を及ぼしますので、検討している場合はまず弁護士など法律の専門家への相談をおすすめします。

まとめ

黄金株は強い権限を持ちますが、商業登記によって存在が知られてしまい資金調達に悪影響を及ぼす可能性があるなどのデメリットも存在します。
種類株式の発行について詳しく知りたい方は、まず専門家に相談してみましょう。

大学在学中に2級FP技能士を取得、会社員を経て金融ライターとして独立。金融・投資・税金・各種制度・法律・不動産など難しいことを分かりやすく解説いたします。米国株・ETFなどを中心に資産運用中。CFP(R)の相続・事業承継に科目合格、現在も資格取得に向けて勉強中。

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