中小企業が生き残るために!事業承継税制について詳しく解説

[取材/文責]岡田桃子

中小企業において経営者の高齢化が問題視される中、円滑な事業承継をサポートするための制度である、「事業承継税制」が近年大幅に拡充されています。
本記事では、そもそも事業承継税制とはどのような制度で、またどのような条件を満たせば適用されることになるのか、について詳しく解説していきます。

事業承継税制の概要

「事業承継税制」は、平成20年度に成立した「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の中に記された、「相続税の納税猶予制度」と「贈与税の納税猶予制度」をあわせたものを指し、平成21年度から施行されています。
企業の経営者が親族等の後継者に事業を承継する際、株式の相続や贈与に関して相続税・贈与税が発生します。「事業承継税制」では、このような相続税や贈与税に関して、猶予や免除を受けることを可能にしています。

相続税、贈与税とは

相続税

相続税とは、相続、遺贈によって取得した死亡した人の全ての財産に対して課される税金です。ここでの財産とは、
・現金
・預貯金
・有価証券
・土地
・家屋
など、経済的な価値を持つ全てのものを含んでおり、事業承継に必要な株式や不動産についても例に漏れません。

贈与税

贈与税とは、生前に贈与により財産を取得した場合に、その取得した財産に対して課せられる税金を指します。
贈与税も相続税と同様、事業承継に必要な資産に関しても課税対象となります。

特例措置の対象となる株式

中小企業の事業継承の際に相続や贈与された株式について、一定の条件を満たしていれば、後継者が既に保有していた議決権を持つ株式を含めて、発行済完全議決権株式総数の2/3に達するまでの部分について、課税価格の80%に対応する相続税、贈与税の納税が猶予及び免除されます。

手続きの流れ

相続(贈与)開始後

・経済産業局へ、相続開始後8カ月目(贈与の納税猶予の場合は贈与の翌年1月15日)までに申請します。
※ 定款及び株主名簿の写し、登記事項証明書、従業員数証明書等を添付
・審査後、経済産業局から認定書の交付を受けます。
・税務署へ、認定書の写しとともに相続税(贈与税)の申告書等を提出します。
※ 定款及び株主名簿の写し、登記事項証明書、従業員数証明書等を添付
・税務署へ、納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供します。ここで特例を受ける非上場株式の全てを担保提供すれば、条件を満たしているとみなされます。

納税猶予の開始後

・経済産業局へ「年次報告書」を提出し、(申告期限後5年間は年1回)認定時の要件を引き続き維持していることなどを報告します。
・税務署へ「継続届出書」を提出し、(申告期限後5年間は年1回、その後は3年に1回)引き続き納税猶予の特例を受けたい旨などを届け出ます。

適用要件

相続(贈与)の納税猶予を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

① 先代経営者要件

・会社代表者であったこと
・相続(または贈与)の開始の直前において、先代経営者と同族関係者(親族等)で発行済議決権株式総数の50%超の株式を保有し、かつ、同族関係者内(後継者を除く)で筆頭株主であったこと
・(贈与の場合のみ)贈与時までに、代表者を退任すること(有給役員として残ることは可能)

② 後継者要件

・(相続の場合のみ)相続開始の直前において対象会社の役員(先代経営者の親族以外でも可)であること
・(贈与の場合のみ)会社の代表者(先代経営者の親族以外でも可)であること
・(贈与の場合のみ)20歳以上、かつ役員就任から3年以上経過していること
・相続(または贈与)の開始後、後継者と同族関係者(親族等)で発行済議決権株式総数の50%超の株式を保有し、かつ、同族内で筆頭株主となること

③ 対象会社要件

・中小企業基本法に規定されている中小企業でありかつ非上場会社であること
・上場会社、風俗営業会社に該当しないこと
・資産管理会社ではないこと(自ら使用していない不動産等が70%以上ある会社やこれらの特定の資産の運用収入が75%以上の会社ではないこと)

④ 事業継続要件

納税猶予を継続するためには、以下に示す期間に応じて要件を満たす必要があります。
猶予開始5年以内
・後継者が会社の代表者であること
・雇用の8割以上を5年間平均で維持すること
・後継者が筆頭株主であること
・上場会社、風俗営業会社に該当しないこと
・猶予対象となった株式を継続保有していること
・資産管理会社に該当しないこと
猶予開始5年経過後
・猶予対象となった株式を継続保有していること
・資産管理会社に該当しないこと

⑤ 納税猶予額が免除となるケース

以下のような場合には、全部又は一部の納税猶予額が免除されます。
・後継者(相続人)が死亡した場合
・(贈与の場合のみ)先代経営者が死亡した場合
・5年経過後に、会社が破産又は特別清算した場合
・5年経過後に、後継者が猶予継続贈与(次の後継者に対する株式の贈与)を行った場合

☆ヒント
事業承継税制を活用することで、事業を後継者に引き継ぐ際に大きく節税することができます。
ただし、猶予および免除を受けるためには様々な要件を満たしている必要があります。事業承継税制を利用するためには、まずは一度税理士に相談することを強くお勧めします。
また実際に制度を利用することになった際にも、もれなく手続きを行うために、税務のプロである税理士のもとで会計処理を行いましょう。

土地等の相続に関する特例措置

事業に利用されていた土地等の相続に関して、以下のような特例措置が存在します。

小規模宅地等の場合

個人が相続された、相続開始直前において被相続人等の事業に用いられていた宅地、または居住に用いられていた宅地のうち、限度面積までの部分に対して一定割合が減額されます。

特定事業用宅地の場合

特定事業用宅地等の条件を満たす土地については、400㎡まで評価額の80%が減額されます。また、一定の要件を満たす同族会社の事業を承継する場合(特定同族会社事業用宅地等)についても同様の減額があります。

特定居住用宅地の場合

特定居住用宅地等の条件を満たす土地については、330㎡まで評価額の80%が減額されます。

事業承継税制における近年の拡充・改正ポイントは?

平成21年度に創設された事業承継税制ですが、その適用要件が厳しかったことであまり利用されてきませんでした。そのため、近年の税制改正において様々なポイントで拡充されています。

平成27年税制改正における拡充ポイント

①親族外承継の対象化
親族に限らず、適任な人材を後継者にすることが可能になりました。
②雇用8割維持要件の緩和
毎年の景気変動に配慮し、5年間は毎年必ず8割以上を保つことを求めていた要件が、5年間の平均で8割以上となることを求める要件に変更されました。
③役員退任要件の緩和
先代経営者の信用力を活用できるよう、先代経営者が代表を退いた後も、役員として会社に残ることが可能になりました。
④事前確認が認定の要件から除外
経済産業大臣の事前確認が手続きから外れ、手続きが簡素化しました。

平成27年の拡充ポイントの詳細は、以下の記事をご覧ください。

平成29年税制改正における拡充ポイント

① 人手不足への対応
雇用維持要件が緩和され、納税猶予を継続するハードルが軽減されました。
② 生前贈与の促進
贈与税の納税猶予認定が取り消されると、相続税より高額な贈与税を負担するリスクがありましたが、このリスクが改善されました。

平成29年の改正ポイントの詳細は、以下の記事をご覧ください。

まとめ

事業承継税制を活用することで、中小企業は事業の継承の際に大幅な節税をすることが可能となります。平成27年にはその要件も大きく拡充され、さらに利用しやすい制度となりましたが、事業継続要件や手続きがいまだ複雑であることは事業承継税制の難点です。
要件を正しく把握し、税務のプロである税理士に相談しながら、適切に手続きを進めるようにしましょう。

東京大学卒。
経理業務で得た知見や、中央官庁時代に得た法律や制度に関するナレッジを分かりやすく解説します。

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