個人事業主が屋号付き口座を持つべき理由とは?メリットや手続きの流れを開設

[取材/文責]なかもとともあき

屋号付き口座とは、銀行などの金融機関の口座名に屋号が付いている口座です。「個人事業主だけど、屋号付き口座を作っていない」「屋号付き口座を作るメリットがわからない」という方も多いと思います。今回は屋号付き口座を作るメリットや口座開設の流れについて、詳しく説明いたします。

屋号付き口座とは

屋号付き口座とは個人事業主が開設できる口座で、銀行の口座名が「屋号名+氏名」となっている口座のことです。

屋号とは個人事業主が事業で使用する名称で、会社でいうところの会社名です。屋号は開業届を提出する際に決定することができますが、個人事業主だからといって屋号を必ず付ける必要はありません。

通常口座は「氏名のみ」が記載されているのに対し、屋号付き口座の場合「屋号名+氏名」が記載されるので、個人事業主という自覚を持つことにもつながります。
個人事業主でも屋号付き口座を作っていない人がいますが、これから屋号付き口座を使用するメリット・デメリットを解説しますので、ぜひ参考にしてください。

屋号付き口座を使用するメリット・デメリット

メリット

屋号付き口座を開設し、使用することは個人事業主にとっていくつかメリットがあります。

  • 収支の管理がわかりやすくなる
  • 確定申告が楽になる
  • 事業への信用度が増す
  • 税理士への相談がしやすくなる

 

収支の管理がわかりやすくなる
プライベートのお金と個人事業のお金を分けることができるので、収支の管理がわかりやすくなります。
プライベートと事業の収支を同じ口座で行うと、事業の収益が見づらくなります。経営状況や資金繰りを把握するのに手間がかかってしまうので、経営判断が遅れてしまう可能性もあるでしょう。
屋号付き口座は、事業の収支がよりクリアに見えるようになります。

確定申告が楽になる
プライベート口座と事業用口座を分けているとスムーズに確定申告ができます。
確定申告は、1年を通して事業でいくら収入があり、支出がいくらあったか、という金額を申告しなければいけません。そのためプライベート口座と事業用の口座が一緒だと、取引をひとつずつ分け、さらにそこから事業の収支を仕訳していかなければなりません。
屋号付き口座をつくっていれば確定申告の際に、作業を大幅に減らすことができます。

事業への信用度が増す
屋号付き口座を持っていると取引相手や金融機関からの信用度が増します。屋号付き口座を使っているということは、「個人事業主としてしっかり事業活動を行っていそう」「きっちりお金を管理していそう」という印象を持たれやすいです。根拠がない印象の部分と思われがちですが、事業を行う上で取引相手と小さな信頼関係を築いていくことは重要です。
また振込を行う際にも相手は屋号名を確認できるので、振込先を間違えにくいというメリットもあります。

税理士への相談がしやすくなる
屋号付き口座があると税理士へスムーズに相談することができます。
税理士へ相談する際は通帳のコピーを渡しますが、通帳を分けていないと、税理士にプライベートの入出金まで見られてしまいます。プライベートと事業用の口座がわかれていると、事業の内容が見やすいため税理士にとってもありがたいです。

デメリット

屋号付き口座を作るデメリットは下記です。

  • 開設にやや手間がかかる
  • 開設できる支店が制限されている場合がある

 

開設にやや手間がかかる
普通口座に比べて必要書類が増えるので、開設にやや手間がかかってしまいます。
また、普通口座は必要書類があれば当日に口座を開設することができます。一方、屋号付き口座は、事業の審査があるので申請から開設まで約1週間~1カ月ほどかかります。最近ではマネー・ローンダリング*防止で銀行が事業内容を細かく確認する必要があるため、審査に時間がかかってしまいます。
スムーズに口座を開設できるよう、必要書類を事前に揃え事業内容を整理しましょう。

※マネー・ローンダリング(資金洗浄)とは、犯罪によって得た収益を、架空口座や他人名義の口座を転々と移動させることによって、出所や真の所有者が分からないようにすること。捜査機関等による収益の発見や検挙等を逃れようとする行為のことを指します。

 

開設できる支店が制限されている場合がある
金融機関によっては、事業所の最寄りの支店でのみ開設が可能という場合があります。
遠方の支店だと、利用目的に正当性がなければ開設を断られてしまいます。理由がない遠方での口座作成は不審に思われてしまうので、なるべく最寄りの支店で開設しましょう。

屋号付き口座を作ることができる金融機関

主な金融機関は以下です。

  • 三菱UFJ銀行
  • 三井住友銀行
  • みずほ銀行
  • りそな銀行
  • ゆうちょ銀行
  • PayPay銀行
  • 楽天銀行
  • 地方銀行
  • 信用金庫

 

メガバンクや地方銀行は信頼性があり、実店舗もあるため安心感があるというメリットがあります。
一方ネットバンクは、口座開設がネットで完結するというメリットがあります。

必要書類や手続き方法が異なるので、詳しい内容は各金融機関に事前に確認するようにしましょう。

屋号付き口座開設に必要な書類と手続きの流れ

屋号付き口座開設に必要な書類と手続きの流れを見ていきましょう。

必要書類

  • 本人確認書類
  • 印鑑
  • 開業届
  • 屋号確認資料
※上記内容は金融機関によって異なります。詳しくは各金融機関のHPをご覧ください。

屋号確認資料とは、「国税または地方税の領収書や納税証明書」「社会保険料の領収書」「公共料金の領収書」などで、実際にその屋号で事業を行っていることを証明するために必要な資料です。屋号が記載されている資料のみ使えます。
屋号確認資料は準備に時間がかかるため、事前に口座開設に行く金融機関に必要書類を確認しましょう。

手続きの流れ

  • 開業届の提出
  • 金融機関の選定
  • 必要書類の提出
  • 審査・口座開設

 

「開業届をまだ出していない」という方は、まずはじめに開業届を税務署に提出しましょう。開業届は、事業を開始してから1カ月以内に提出する義務がありますが、もし1カ月を過ぎてしまってもペナルティはありません。これから開業届を提出する場合、銀行提出用に「開業届の控え」を受け取ってください。

銀行によって異なりますが、必要書類の提出から口座開設までは1週間~1カ月ほどかかります。

よくある質問

個人事業主名を入れずに屋号のみで口座を作れる?

法人の場合、法人名のみの「法人口座」を開設することができますが、個人事業主の場合は、個人事業主名を入れない屋号のみの口座を開設することができません。ただし一部銀行では屋号のみで口座を作れる場合があるようなので、直接確認することをおすすめします。

屋号のみで振込できる?

ほとんどの銀行の場合、屋号のみの振込で受け取ることができます。
振込の際、送り主に振込相手を記入してもらいますが、屋号のみ記載し氏名が入っていなくても受け取れることがほとんどです。ただしネット銀行は「屋号+氏名」がそろっていなければ振込できない場合が多いです。
銀行によっては、事前に「屋号のみ」でも振込を受け付けたいと申請する必要がある場合もあるので、各銀行に確認してみてください。

まとめ

屋号付き口座は個人事業主にとってメリットが多く、デメリットは少しの手間と時間がかかる程度です。プライベートと事業用で口座を分けると効率的に事業を進めることができるので、開設する方がおすすめです。また、自分で決めた屋号が記載されている通帳を作ることで、モチベーションが高まるという方もいると思います。
屋号付き口座を作ろうか迷っている方は、ぜひ最寄りの銀行に相談してみてください。

法政大学を卒業後、地方銀行で3年間勤務。その後、ITベンチャー企業に転職し立ち上げ期の経理や人事労務を経験。補助金代理申請の担当も行っていました。読者の視点に近い、わかりやすい文章を書くことを意識しています。卒業後は大手建設会社で営業として勤務しており、その後大手コンサルティング会社に転職。不動産や税金、建築の専門知識を保有。経験や知識を活かして、中学生でも分かりやすい記事を心がけています。

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