中小企業経営者も「知らなかった」ではすまされない スタートした「フリーランス新法」を解説
2024年11月1日、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(フリーランス新法)が施行されました。フリーランスとその人たちに仕事を発注する事業者の間の取引適正化、フリーランスの就業環境の整備を目的としたものですが、「発注する事業者」には大手企業だけでなく、資本金が1,000万円以下のような中小事業者も含まれます。どんな法律なのか、経営者として注意すべき点は何か、わかりやすく解説します。
「下請けいじめ」が背景に
フリーランス新法ができた背景には、発注事業者が自らの優越的地位を武器に弱い立場にある受注者に対して「不適正」な取引を強いる事態が多発し、社会問題となったことがあります。公正取引委員会と厚生労働省が24年5~6月に行ったアンケートでは、7割弱のフリーランスが、十分な協議がなされないまま報酬額が決められるなど、「買いたたき」に遭った経験がある、と回答しています。
新法施行後の11月12日には、出版大手KADOKAWAやその子会社が、カメラマンやライターの撮影料や原稿料を不当に引き下げていたとして、公正取引委員会(公取委)が下請法違反の是正勧告を行いました。報道によれば、同社は、販売・広告収入の減少や資材・輸送コストの上昇を理由に、発注先の事業者と十分な事前協議を行わないまま、同社発行の生活情報誌の23年4月発売号以降の発注単価を、最大39.4%まで引き下げたといいます。
対象となった26の下請け事業者のうち、21がフリーランスなどの個人事業主でした。典型的な「下請けいじめ」で、下請法では、このように発注者が著しく低い下請け代金を不当に定めることを禁止しているのです。
この事例は「下請法違反」ですが、フリーランス新法でも、こうした行為が禁止されています。違いは、下請法が発注者が資本金1,000万円超の企業の場合に適用され、それ以下ならば対象外だったのに対し、フリーランス新法に資本金の定めはなく、中小事業者が発注者となる場合でも、違反すれば公取委による行政指導や罰金などの対象とされることです。フリーランス新法は、下請法の適用範囲を拡大した法律である、という見方もできるでしょう。
下請法については:それは「下請法」違反です!親事業者の禁止事項を中小下請け事業者が主張できる権利を解説 | MONEYIZM
どんな取引が適用対象になるのか
では、フリーランス新法の中身を見ていきましょう。この法律が適用になるのは、「発注事業者からフリーランスへの業務委託(事業者間取引)」です。
フリーランスとは
新法でいう「フリーランス」は、「業務委託の相手方である事業者で、従業員(※)を使用しないもの」とされています。
個人事業主のほか、法人でも他に役員がおらず、従業員も雇っていない「一人社長」の場合は、対象となります。サラリーマンが副業で業務委託を受けている場合も、この法でいう「フリーランス」です。
業種は問わず、ライターやカメラマン、デザイナー、コンサルタント、デリバリーサービスの配達員など、事業者を相手に仕事をしているフリーランスであれば、対象です。企業や個人がインターネット上で不特定多数の人に業務を依頼するクラウドソーシングを介して委託を受けた人も該当します。
一方、一般にフリーランスには、従業員を雇っていたり、事業者ではなく消費者を相手に取引をしていたりする人も含まれることがありますが、この新法の定義する「フリーランス」には該当しません。例えば、カメラマンが、消費者から直接家族写真などの撮影を請け負っている場合(消費者からの委託)や、撮影した写真をネット販売している場合(委託ではなく売買)には、この法律は適用されないのです。
発注事業者とは
「発注事業者」は、「フリーランスに業務委託する事業者で、従業員を使用するもの」です。法人はもとより、従業員がいれば個人事業主もこれに該当します。すでに述べたように、事業者の資本金などに定めはありません。
業務委託とは
フリーランス新法の対象となる「業務委託」(※)とは、契約に基づいて、事業者が他の事業者に物品の製造やサービスの提供などを委託することを指します。
あらためて以上をまとめると、フリーランス新法の適応対象となるのは、「従業員を使用する事業者から従業員を使用しない事業者(フリーランス)への業務委託」ということになります。
発注事業者に課せられた義務は
フリーランス新法では、発注事業者に対する義務として、次のような点を定めています。
取引条件を明示し、実行する
●取引条件を書面で明示する
業務委託をした場合、書面等(メールや電子契約書でもOK)により、ただちに「業務の内容」「報酬の額」「支払期日」などの取引条件を明示しなくてはなりません。例えば、支払期日が明示されない場合には、発注事業者には納品時に支払いの義務が生じます。
なお、発注段階で取引条件に未定の部分があるときには、その理由や明示する時期を明らかにし、確定段階で示せばいいとされています。
●支払期日は60日以内
報酬支払期日は、「発注した物品やサービスを受け取った日から60日以内」に設定し、期日内に報酬を支払うことが義務づけられています。
●募集情報の的確表示
広告などにフリーランスの募集に関する情報を掲載する際には、「虚偽の表示や誤解を与える表示をしてはならないこと」「内容を正確かつ最新のものに保たなければならないこと」が義務づけられています。
●中途解除などの事前予告・理由開示
6ヵ月以上の業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、原則として30日前までに予告しなければなりません。また、予告の日から解除日までにフリーランスから理由の開示請求があった場合には、それに応じる必要があります。
禁止行為は7つ
フリーランスに対し、1ヵ月以上の業務委託をした場合、次の7つの行為をしてはならないとされています。
- フリーランスの責めに帰すべき事由のない受領拒否
- 同じく報酬の減額
- 同じく返品
- 通常相場に比べ著しく低い報酬の額の設定(買いたたき)
- 正当な理由のない自己の指定する物の購入・役務の利用の強制
- 不当な経済上の利益の提供要請
- フリーランスの責めに帰すべき事由のない給付内容の変更、やり直し
フリーランスの就業環境を整備する
●育児・介護等と業務の両立に対する配慮
6ヵ月以上の業務委託をした場合、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、フリーランスの申出に応じて、必要な配慮をしなければならないことが定められています。
例えば、「子どもの急病により、予定していた作業時間の確保が難しくなったため、納期を短期間繰り下げたい」という申し出があったときには、納期の変更を検討します。やむを得ず必要な配慮を行うことができない場合には、その理由について説明する必要があります。
●ハラスメント対策についての体制整備
フリーランスに対するハラスメント行為に関し、次の措置を講じること、とされています。
- ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、方針の周知・啓発
- 相談や苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応 など
発注事業者が考えるべきこと
フリーランス新法に違反すると
この法律に違反した発注事業者に対しては、公取委から助言や指導、勧告といった行政指導が行われます。たとえ法令違反を認識していなかったとしても、同様です。命令違反や立ち入り検査の拒否があると、50万円以下の罰金が科される可能性があります。また、是正勧告や命令の際には、公取委から企業名や違反の内容が公表されることになります。
リスクを認識し、仕組みを整備する
必要なときに必要な仕事を頼めるフリーランスへの需要は、今後も高まっていくでしょう。なんとなく従来の慣行に従って取引を続けた結果、フリーランス新法に抵触するリスクは、しっかり認識したいものです。逆に、法律の施行を機にフリーランスの就業環境を整えれば、人手不足の中でも、優秀な人材に仕事を依頼しやすくなるかもしれません。
まずは、新法の求める取引条件やその明示の方法などを理解し、発注のルールや書式などを統一したうえで、社内に徹底させる必要があります。
雇用する従業員によるフリーランスに対する不当な扱いやハラスメントへの対策も、検討の要ありです。そうした悪質な行為があった場合の処分規定を定めて周知するなどの防止策を講じるのも、有効だと思われます。
まとめ
施行されたフリーランス新法では、発注者が中小事業者の場合でも、相手方への取引条件の明示などが義務づけられています。中身をよく理解したうえで、社内への徹底を図るようにしましょう。
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