個人事業主の健康診断の必要性・メリット・受診方法を解説

[取材/文責]矢萩あき

労働者には会社による健康診断が、年1回実施されます。これに対して個人事業主を対象にした健康診断はなく、受診も義務づけられていません。しかし健康診断は、個人事業主にとっても必要です。個人事業主が健康診断を受ける必要性やメリット、受診方法についてご紹介します。

個人事業主が健康診断を受ける必要性とメリット

個人事業主の健康管理は自分でしなければならない

会社に雇用されている労働者は、年に1回、健康診断を受けることが定められています。労働安全衛生法において会社の責任で行うことが規定されているもので、会社がこれに違反して労働者に健康診断を受けさせない場合は50万円以下の罰金が科せられます。1年以上雇用される労働者、労働時間が正社員の4分の3以上の労働者は全て対象となり、パートやアルバイトといった身分に関係なく、対象の労働者は全員、会社の指示する方法で健康診断を受けなくてはなりません。

 

健康診断にかかる時間の給料支払は義務ではないものの支払われることが望ましいとの行政解釈があり、勤務時間中に労働者の健康診断を実施し、労働時間として給料を支払う会社も少なくありません。また、健康診断費用は全額が会社負担になります。

 

対して個人事業主は自身の健康診断受診について、義務づけられていません。受ける・受けないは各々の判断に委ねられ、忙しさや煩わしさを理由に受診しない個人事業主も多くいます。しかし会社の監督下で仕事をする労働者とは違い、個人事業主は全てについて自分で責任を負う必要があります。健康を損ねた場合ももちろん自己責任になるため、個人事業主は健康管理を自分自身でしなければなりません。

個人事業主が健康を損なうとどうなる?

労働者は仕事ができなくなっても収入を得られる仕組みが整備されています。業務上の病気で労働できない場合は労働災害として休業補償給付が、業務外の病気で労働できない場合でも健康保険から傷病手当金が受けられます。また有給休暇を使うことができ、健康を損ねて働けないからと言って、すぐさま無収入になることはありません。

 

一方、個人事業主は病気で仕事ができない場合に支給されるような給付制度は設けられていません。働けなくなることは、無収入の状態になることを意味します。労働者が労働時間に対して報酬が支払われるのに対し、個人事業主は仕事の成果物に対して報酬が支払われます。仕事ができなければ成果物もなく、報酬の支払いも受けられずに無収入となります。健康上の理由、あるいは他の理由であっても依頼に応じられなければ報酬を受け取ることはできません。長く続けば収入が得られず、生活ができなくなります。

健康に対する意識向上にも繋がる

個人事業主が健康診断を受けることは、自身の健康に対する意識向上にも繋げられます。健康診断を行う第一の目的は体の異常を早期に発見して病気を初期のうちに治療することですが、同時に健康診断は自身の体の状態を認識して健康に対する意識を高める機会にもなります。身長や体重、血液検査や尿検査の値を見ることで客観的に自分の体の状態を知ることができます。また、結果がよくなかった部分については良い生活習慣を取り入れ、健康を意識して悪い食生活や運動不足を改善することができます。

 

個人事業主にとって健康は仕事のパフォーマンス向上に直結する、大切な要素です。健康診断により健康への意識が高められれば能率・スキルアップが図られ、収入アップが期待できます。

個人事業主が受けられる健康診断

市町村が実施する検診

各市町村では健康増進法に基づき、住民を対象に検診を実施しています。個人事業主も居住者として、住所を有している市町村の検診を受けることができます。市町村の検診は行政による負担や助成があるため、無料や低料金での受診が可能です。

 

しかし市町村による検診は検査項目が少なく、健康状態を詳しく把握することはできません。日程や受診可能項目が決められているというデメリットもあります。

病院・クリニックの健康診断

健康診断は病院・クリニックでも受けることが可能です。受診を希望する医療機関を選び、申し込み・予約の上で健康診断を受診します。

 

病院・クリニックでの健康診断では、検査項目を自由に選ぶことが可能です。調子が悪かったり異変を感じたりすることがあれば、関係する検査項目を重点的に受診できます。ただし健康診断にかかる費用に健康保険は使えないため、全額が自己負担になります。

加入している健康保険組合等の健康診断

個人事業主が業種別の健康保険組合に加入している場合、組合に設けられている健康診断の受診が可能です。

 

フリーランスを加入者とする「フリーランス協会」では福利厚生サービス「WELBOX」により、健康診断や人間ドックを割引価格で受けることができます。

 

また中小企業や個人事業主、フリーランスを対象にした保険「あんしん財団」では加入者を対象に健康診断に対する補助金支給を行っています。

個人事業主が健康診断を受ける際の注意点

費用は経費に計上できない

個人事業主はさまざまな費用を事業に不可欠な費用として、経費に計上することができます。しかし健康診断にかかった費用は事業に必要な支出として認められず、経費計上できません。自宅を事業所として使用している場合には家賃や水道光熱費などのうち事業に使用する部分を按分しての経費計上が認められていますが、健康診断は一部分のみでも経費として取り扱うことはできません。

必要な健診項目を欠かさない

労働安全衛生法では労働者が年1回受ける健康診断の項目を、既往歴や業務歴の調査、自覚症状・他覚症状の有無の検査、身長・体重・腹囲・視力・聴力検査、胸部エックス線検査・喀痰検査、血圧測定、貧血検査、肝機能検査、血中脂質検査、血糖検査、尿検査、心電図検査と定めています。このうち腹囲の測定、貧血検査、肝機能検査、血中脂質検査、血糖検査、尿検査、心電図検査は35歳以外の40歳未満の労働者は省略が認められています。35歳時点と40歳以降の毎年は、これらの項目全てを健康診断で調べる必要があります。

 

生活習慣病予防を目的に、2008年からは特定健診の制度が始まりました。糖尿病などさまざまな病気に結びつくメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)対策として行われる検診で、「メタボ健診」と呼ばれています。体重と身長から内臓脂肪の厚さを計算し、正常値を超える数値となった場合には食事をはじめとする生活指導が行われます。

 

年齢を重ねると、病気になるリスクも上がります。健康を損ないやすくなり、普段からの健康を守る努力が必要になります。そこで健康診断についても項目を増やし、より詳細に異常がないかを調べる必要があります。20代から30代、30代から40代へと変わる節目のときなどに必要な健康診断項目を見直し、年代にあった内容にしましょう。

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まとめ

健康診断について労働者には年1回は必ず受けなければならないのに対し、個人事業主には受診の義務はありません。しかし会社のような組織に属していない個人事業主こそ、健康を損なわないように注意する必要があります。自身の仕事や生活を守るため、定期的に健康診断を受けるようにしましょう。

 

複数の企業で給与計算などの業務を担当したことから社会保険や所得税などの仕組みに興味を持ち、結婚後に社会保険労務士資格とファイナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。現在はライターとして専門知識を活かした記事をはじめ、幅広い分野でさまざまな文章作成を行う。

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