法人は最低いくら税金を支払うの?赤字決算の対処法を徹底解説

[取材/文責]阿部正仁

「赤字決算」と聞くとネガティブなイメージを持つのが一般的でしょう。しかも、赤字でも支払わなければならない税金があります。しかし、赤字決算は将来のために活用することも可能です。そこで、赤字決算をテーマに最低限支払う税金と上手な活用法について解説します。

赤字における税金のルール

法人が赤字となった年度の税金の基本的なルールについて説明します。

課税される税金

所得金額をベースに計算する法人税などは赤字の年度には課税されませんが、利益の有無に関係なく発生する税金があります。おもに次のとおりです。

 

  • 法人住民税の均等割:最低額は年7万円
  • 消費税:前々年度の年商が1,000万円を超える課税事業者に課税される
  • 源泉所得税:給与や課税対象となる報酬の支払いに伴い発生する

 

つまり、赤字決算でも最低限、年7万円の住民税均等割は支払わなければなりません。

繰越欠損金の制度

青色申告の法人は今年度の赤字額に相当する欠損金を翌年度以降の所得から控除することができます。この翌年度以降に繰り越される赤字額のことを「繰越欠損金」といいます。繰越欠損金の利用期間は以下のように区分されます。

 

  • 平成30年3月31日以前に開始する年度:9年間
  • 平成30年4月1日以後に開始する年度:10年間

 

そのため、利用できる期間が過ぎた繰越欠損金は所得から控除できずに切り捨てられてしまいます。たとえば、平成30年4月1日~平成31年3月31日までの年度の繰越欠損金があるとします。所得から控除できるのは10年後の令和10年4月1日~令和11年3月31日までの年度です。中小企業は特例として繰越欠損金の全額を利用できますが、大企業は原則どおり所得の50%相当額までしか控除できません。

繰戻し還付の制度

繰戻し還付とは、今年度赤字だった場合、前年度に納付した法人税の一部を還付する制度で、中小企業が利用できます。たとえば、前年度の所得金額が200万円、納付した法人税が80万円とします。今年度の赤字額が100万円の場合、次の法人税が還付されます。

 

前年度に納付した法人税80万円×今年度の赤字額100万円÷前年度の所得金額200万円=還付金額40万円

 

ただし、繰戻し還付の手続きをした場合、必ず税務署で調査することになっています。調査の方法は、一般的な税務調査に限らず、提出書類の精査や電話での照会などが考えられます。

繰越欠損金の活用方法

赤字決算の年度の翌年度以降に繰越欠損金を活用する方法をいくつか紹介します。

黒字にするのが基本

赤字決算の年度の翌年度以降に、広告宣伝などに資金を使って経費に計上するような節税対策を施さなくても、繰越欠損金の活用により所得を圧縮することが可能です。そのため、黒字決算を目指すことが繰越欠損金を活用する方法の基本になります。

 

所得を圧縮する節税対策の必要がない例として、多額の繰越欠損金がある年度に15万円のパソコンを購入したケースを見ていきましょう。所得を圧縮するなら、「少額減価償却資産」として購入金額15万円を全額経費に計上するのが一般的です。しかし、「一括償却資産」として購入金額15年を5万円ずつ3年間にわたって経費に計上することも可能です。一括償却資産を選択するメリットは償却資産税の節税になる点です。少額減価償却資産とした場合、パソコンの購入費用は償却資産税の課税対象になるためです。

生命保険の解約で資金調達をする

赤字決算の年度は業績悪化により現金預金残高が減少しているケースが多いでしょう。そこで、赤字決算の年度の翌年度以降に生命保険を解約して、解約返戻金を獲得する方法があります。この方法により資金調達をした場合、解約返戻金は益金になりますが、繰越欠損金と相殺されるため、法人税が課税されない可能性があります。

「含み益=売却益」を計上する

含み益とは、株式や土地などの所有資産の「現在の価格-購入金額=価格の上昇分」であり、会計帳簿には現れない利益でもあります。この含み益を所有資産の売却により売却益に計上すれば、益金として認識されます。しかし、赤字決算の年度の翌年度以降なら、売却益は繰越欠損金と相殺されます。そのため、繰越欠損金の有無が含み益のある所有資産を売却する基準になり得ます。

戦略的に欠損金(損金)を計上する方法

繰越欠損金を活用する方法として、戦略的に損金を計上し、あえて赤字決算にする方法があります。しかし、欠損金の計上のやり方を間違えると、会社経営が苦しくなってしまいます。

現金支出をしないのが基本

そもそも繰越欠損金を活用するメリットは納税資金を少なくして、資金繰りをより優位にできる点です。言い換えれば、資金繰りを苦しくしないのが戦略的に欠損金を計上するときの鉄則になります。そのため、現金支出をしない方法で損金に計上するのが基本です。

 

たとえば、所得50万円の状態で節税対策として100万円損金に計上するとします。対策前の現金預金120万円の場合、節税対策をした場合としない場合を比較しましょう。

(1)節税対策をしない場合

  • ①納付税額=現金支出額
    法人所得税30万円(実効税率を30%と仮定)+住民税均等割7万円=37万円
  • ②現金預金残高
    120万円-上記①の37万円=83万円

(2)現金支出が伴う節税対策をした場合

  • ①納付税額
    住民税均等割7万円
  • ②現金支出額
    損金計上額100万円+上記①の7万円=107万円
  • ③現金預金残高
    120万円-上記②の107万円=13万円

(3)現金支出が伴わない節税対策をした場合

  • ①納付税額=現金支出額
    住民税均等割7万円
  • ②現金預金残高
    120万円-上記①の7万円=113万円

損金計上に現金支出が伴うと、節税対策をしない場合よりも現金預金残高が70万円減少してしまいます。一方、損金計上に現金支出が伴わない場合、法人所得税の節税額(30万円)と同額の現金預金が増加します。

在庫処分をする

そもそも在庫は資産計上するため、購入金額は売上原価に計上しません。実際に売ったり廃棄したりしてはじめて損金に計上します。そのため、売れる見込みのない商品や原価以下の処分価格でないと受けない商品を在庫処分すれば、現金支出が伴わない損金に計上できます。たとえば、仕入原価100万円の商品があるとします。廃棄すれば購入金額(100万円)と同額、処分価格40万円で売却すれば仕入原価との差額60万円が損金計上できます。

「含み損=売却損」を計上する

在庫処分のほかにも、所有資産の売却により含み損を売却損に計上すれば現金支出の伴わない損金になります。たとえば、含み損のある株式や土地を売却すれば、基本的に現金支出は売買手数料のみであり、しかも売却による現金収入と同額の現金預金が増加します。そのため、所有資産の含み損を売却損に計上する方法は、資金繰り対策に有効な節税対策といえます。

まとめ

赤字決算による繰越欠損金が発生した場合、節税対策の考え方が黒字決算のケースとは異なります。同じ支出額なら前倒しに損金を計上して所得を圧縮するのがセオリーになりますが、繰越欠損金を活用する場合には必ずしもセオリーが当てはまりません。あえて損金計上を先延ばしにして繰越欠損金と相殺させる方法もあります。
赤字決算に陥ってしまった場合は、自社の状況に応じて繰越欠損金の上手な活用法を検討しましょう。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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