個人事業主が税金の計算をするために最低限必要なこと

[取材/文責]岡和恵

事業を始めて間もない個人事業主の人向けに所得税の計算について必要なことをまとめました。

個人事業主が所得税の確定申告の作業を進める中で何といっても時間と手間がかかるのは、記帳です。確定申告の基礎の基礎として会計ソフトを使う前に読んでおきましょう。

確定申告の流れとは

個人事業主の確定申告は青色で!

個人事業主の方は開業後、すみやかに「所得税の青色申告承認申請書」を提出しましょう。

青色申告とは、会計記帳をして、その記帳に基く申告をすると税金の計算について有利な取扱いが受けられる制度です。

所得税の申告の仕方にはいくつかありますが、できるなら多くの特典、すなわち節税のできる青色申告をおすすめします。事業を始めてしばらく経ってしまった人も、適用は後になりますが、今からでも申請書を提出しましょう。

 

令和2年分の確定申告からは、青色申告する人だけに認められる所得控除(経費の上乗せ)が上のように3段階になります。

白色申告においても記帳が求められるため、まずは青色申告にしてどこまで対応するかを考えたほうがよいでしょう。

ただし、この特典をフルに受けることができるのは、事業所得と不動産所得になります。

10万円と55万円、65万円の差とは?

先ほどの表に記載したように、令和2年分から青色申告の控除額が3段階となります。平成30年度税制改正によって、従来の青色申告特別控除額が変更されたためです。

まず、10万円の控除は従来と変わりません。

青色申告において、10万円の控除を受けるための申告というのは特になく、青色申告者で次の要件を1つでも満たさない場合に、10万円の控除に留まるという意味です。

事業所得の場合において、その要件とは、

 

  • 複式簿記で記帳していること
  • 現金主義でないこと
  • 申告時に、記帳に基づき損益計算書と貸借対照表を提出すること
  • 確定申告の期限を守ること

 

が挙げられます。

次に令和元年までは65万円であった青色申告特別控除が、令和2年の申告から55万円に変更されます。納税者にとって不利になるのはいうまでもありません。

しかし、引き続き65万円の青色申告特別控除を受ける方法があります。

 

  • e-Taxによる申告(電子申告)をする
  • 電子帳簿保存をする

 

このどちらかによって、青色申告特別控除は55万円に10万円上乗せされ、従来どおりの65万円となります。

10万円の上乗せについて実行しやすいのはe-Taxによる申告です。所得税の電子申告には、2通りあります。

 

  • 利用者識別番号とパスワードによる方法
  • マイナンバーカードによる方法

 

利用者識別番号で確定申告をする場合は、最低1回税務署に行かなければなりません。一方、すでにマイナンバーカードを持っている人は、カードリーダーというマイナンバーカードの読み取り機によって電子申告することが可能です。また、マイナンバーカード対応のスマートフォンでも電子申告が可能です。

確定申告における実作業とは?

所得税の確定申告における実作業を大まかに分けると次の4ステップです。

 

  • 帳簿をつける
  • 決算書を作る
  • 確定申告書を作る
  • 申告・納付する

 

実は、このうち帳簿をつけることが作業の大半を占めます。是非とも省力化すべきなのは帳簿の作成です。帳簿の作成は会計ソフトを導入するほうがはるかにラクにできます。

手書きでの帳簿管理も不可能ではありませんが、青色申告を継続させるためにも会計ソフトの導入をおすすめします。

しかし、会計ソフトを導入する前に「会計ソフトでどんなことをするか」「会計ソフトでどう節税するか」について予備知識を得ておきましょう。

会計ソフトを使ってすることとは?

伝票と帳簿の作成

事業主は、業者から必要なものを仕入れ、顧客との取引によって商品などを売上げます。この1つひとつを取引と呼びます。

そして取引を正しく把握するために、次の項目は必ずチェックしましょう。

 

  • 日付
  • 金額
  • 勘定科目、相手勘定科目
  • 相手先、目的

 

伝票とは、取引の担当者が入金や出金などの取引を記入した紙片(小さなメモ)のことです。

従来は、仕入、支払、売上、入金、振替などの取引について、それぞれ仕入伝票、支払伝票、売上伝票、入金伝票、振替伝票などで個々の取引をすべて記入していました。

しかし、会計ソフトを使う場合には、原則として伝票を作成せず、それぞれ取引の事実を元に会計ソフトに入力すればよいのです。取引の元となる請求書や領収書・レシートや契約書などがあれば、「伝票」を省略しても差し支えありません。

会計ソフトに入力するのは、「仕訳」そのものです。最近の会計ソフトは、取引の入力をサポートするしくみが整っているのでサポートの通りにやってみましょう。

入力後のチェックとして、会計ソフトの預金残高と預金通帳が合っているかどうか確かめると決算時の見直しがぐっとラクになります。

 

そして、仕訳の入力が終了すると、仕訳の全部を記録した仕訳帳や勘定科目ごとに取引を記録した総勘定元帳などを会計ソフトから出力できます。

これが手書きの場合では、仕訳からの転記によって元帳などを自分で作成しなければならないのです。つまり、会計ソフトを使うより手書きのほうが会計を熟知している必要があるといえます。

これら仕訳帳や総勘定元帳を総称して「帳簿」といい、個人事業主の場合は7年間の保存が義務付けられています。

仕訳と節税

所得金額が少ないほど税金は少なくなります。

なぜなら所得税は、所得金額に税率を乗じて計算されるからです。そして次のように、所得税の税率は所得金額が多くなるほど税率も高くなる累進課税というしくみになっているからです。

個人事業主が青色申告をする場合は、以下のように計算します。

 

所得金額=収入-経費-青色特別控除額-各種控除

 

社会保険料控除や配偶者控除、基礎控除など各種控除の詳細説明はまた別の機会に譲るとして、これら控除は「所得控除」と呼ばれ、税額を計算する前に所得から控除されるものです。

結局、節税とは正しく経費を把握することによって、所得金額を最小限にすることといえます。経費として認められるものには必要経費と家事関連費があります。必要経費は事業を継続するために、直接的・間接的に必要となる経費ですが、例えば携帯電話のように、1つの支払いにおいて事業用と私用が混在しているような経費を家事関連費といいます。

所得税では家事関連費のうち、「業務に必要かつ明らかに区分できるものは」経費として認めています。業務に必要ということだけでなく、「区分できる」ことがポイントなのです。

決算書の作成から申告まで

仕訳がすべて入力し終わると決算書を出力します。

会計ソフトでは、残高試算表で会計上の損益計算書や貸借対照表が準備されていますが、それとは別に国の統一書式である「青色申告決算書(一般用)」を出力する機能をもっているものが多いです。

たとえ、この青色申告決算書出力の機能がない会計ソフトでも残高試算表や帳簿を元に、国税庁の確定申告書等作成コーナーで、青色申告決算書を作成すれば問題ありません。

会計ソフトの残高試算表と青色申告決算書の違いは、青色特別控除額を考慮する前か後かの違いです。

 

そして、後は申告書の作成です。個人事業主やフリーランスなどで収入を得ている人は申告書Bを使います。申告書Bでは、所得計算と税額計算の過程を記載します。

所得控除は税の負担において公平性が確保できるように配慮されているといわれます。

所得控除は、生活を維持するための何らかの支出や損失が発生した場合に控除できる物的控除と、支出はなくても個人的な事情を配慮して控除する人的控除とに大別できます。

そして、税額控除は、所得控除を差し引いた後の課税所得金額に税率を掛けて計算した税額から直接控除されるもので、計算された所得税額を限度として所得税額から差し引かれます。

最後に納税ですが、会計ソフトでは電子申告に対応しているものも多いです。10万円の控除ができますので電子申告をおすすめします。

まとめ

個人事業主の税金計算の基礎固めは、青色申告を選択し、会計ソフトで記帳して、青色決算書や申告書Bも会計ソフトや国税庁のホームページで作成することです。特にこの中で最低限実施すべきは、「青色申告」を選択することです。

さらに、令和2年度分からは納税も電子申告で行うようにして節税の土台を作りましょう。

なお、令和元年分の確定申告については、新型コロナウィルス感染症の感染拡大により外出を控えるなど期限内に申告することが困難な場合には、令和2年4月17日以降であっても確定申告書を受け付けてもらえる場合があります。この場合は、申告期限延長の取扱いとなりますので延滞税等はかかりません。

▼参照サイト

大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。

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