個人事業主が支払うのは国民健康保険料?国民健康保険税?
個人事業主は、国民健康保険に係る費用を事業上の必要経費にすることはできませんが、健康保険料は必ず発生する支払いです。この国民健康保険の支払いは、市区町村によって保険料のところもあれば保険税のところもあります。
これらは何が違うのでしょうか?この記事では、公的な医療保険の取り扱いについてまとめました。
わが国の公的な医療制度とは
国民健康保険と健康保険(社会保険)
そもそも社会保険とは、保険制度を利用する者が共同して保険料を出資して、病気やケガなどが発生したときにプールされた出資財源から拠出し、個人の経済的負担を軽減しようとするしくみです。そのなかで国民健康保険は、個人事業主等らが加入し、都道府県や同業者による国民健康保険組合が保険者となる公的医療保険です。
また、会社員や公務員などが加入する健康保険は大きく分けて3種類あります。企業が単独、あるいは共同して設立する組合健保、組合健保がない企業の会社員を対象とした全国健康保険協会(協会けんぽ)、そして公務員の加入する各種共済組合です。
平成30年度から制度が大き組み直され、従来、市区町村が個別に運営していた国民健康保険制度について、都道府県が主体となって運営するようになりました。しかし新たな制度下にあっても市町村ごとに保険料率を決定するため、国民健康保険の保険料は、加入者の所得や地域によって異なり、同一の所得であっても支払う保険金額に差があります。そしてさらに、その市区町村によっては「国民健康保険料」として徴収する場合と「国民健康保険税」として徴収する場合とがあります。つまり、同じ国民健康保険という名前であっても、地域によって保険料であったり、保険税であったりするのです。市区町村が同じ目的のためにふたとおりの徴収方法から選択できるという特徴をもつのが今の国民健康保険制度なのです。
国民健康保険料と国民健康保険税
国民健康保険では、保険料か保険税かどちらを採用するかは市区町村等保険者の選択になっています。単に徴収方式が違うだけで、どちらで徴収しても健康保険の給付内容は変わりません。
経緯をたどれば、昭和23年に国民権法保険の強制加入制度を作ったものの、当時健康保険への国民の理解が十分ではかったようです。「料」と「税」では義務の意識が大きく異なったため、昭和26年に保険税制度もでき、以来、自治体の実情にあわせて保険料と保険税を選択するようになったのです。現在は、本則は国民健康保険法であり、そのなかで「保険料」保険税は例外的な扱いとされています。
国民健康保険法第76条(抜粋)によると、「市町村は被保険者の属する世帯の世帯主から保険料を徴収しなければならない。ただし、地方税法の規定により国民健康保険税を課するときは、この限りでない。」と保険税を課すとき以外は徴収を義務付けています。一方、地方税法第703条の4(抜粋)では「国民健康保険を行う市町村は、国民健康保険の被保険者である世帯主に対し、国民健康保険税を課することができる。」としています。しかし実態としては、保険料よりも保険税を採用している方が多いです。それはなぜでしょうか?
保険税のほうが都合がよい?
保険料か保険税かについては、徴収する保険者からみるといくつかの違いがあります。
いくつかの違いのなかから3点挙げてみましょう。
<保険税は時効が長い>
国民健康保険料の時効は2年、国民健康保険税の時効は5年です。遡って徴求できる期間が長い保険税のほうが自治体の収入は多く確保できます。
ただし、保険料督促状や催告書が届くと時効のカウントはリセットされてしまいますので、特に時効消滅が短いことが保険料の不利にはならないと思われます。
<保険税は差し押さえに有利>
保険料や保険税を滞納すると、預貯金、給与、生命保険、不動産等の財産の差し押さえをされる場合があります。所得税や住民税も滞納の場合も同様に差し押さえがありますが、保険税はこれらの税金と同順位ですが、保険料は優先順位が税の次となります。
つまり、滞納分の差し押さえになったとき、保険税のほうがやや有利といえます。
<保険税は遡及される期間が長い>
保険料や保険税は、資格を取得した日から徴収、課税されます。届出が遅れると遡って課税されることになります。この場合、過去の滞納分を請求できる年数が、保険料と保険税では異なります。
保険料は最大2年、保険税は最大3年となり、自治体にとっては保険税が有利となります。これらをみると、保険税を選択する市区町村の意図がわかる気がします。
保険料のよいところは?
しかし、保険料を採用している市区町村も多くあります。収入確保の観点からは保険税のほうがよいように思われますが、保険料とすることのメリットもあります。
例えば、保険料の減免については、保険税にすると地方税法の規定によらなければなりません。しかし、保険料とすることにより、国民健康保険法の規定で「条例で定める」こととなっていますので、市区町村に決定権があり、弾力的に決めることができます。
それぞれの地域性や住民の状況に応じた柔軟な対応ができるという点では、市区町村にとっても、また被保険者にとっても使い勝手がいいのではないでしょうか?
地域に限定された災害等が発生した場合において、それぞれの地域に保険料減免の決定権があるのは保険料を選択するメリットのひとつといえるでしょう。
国民健康保険と社会保険
国民健康保険と社会保険の違いとは
次に、国民健康保険と健康保険(社会保険)について比較しておきましょう。
いくつかの違いのなかから2点挙げてみます。
<健康保険には扶養がある>
なんといっても健康保険のよいところは、給与の金額に応じて勤務先が保険料を計算し、家族が増えても保険料が増えず、保険料の1/2を勤務先が負担してくれるところです。
また、国民健康保険には「扶養」という考え方はなく、その世帯に加入する人数に対して保険料が計算されます。
これに対し健康保険では配偶者や子どもだけでなく、所得が少ない同一生計家族などを「扶養家族」として健康保険に加入させることができます。
<健康保険独自の給付金がある>
例えば、健康保険では出産によって会社を休んだ時には「出産手当金」が支給されます。また、病気やケガの療養のため働けなくなった時には「疾病手当金」が支給されます。
これらの制度は健康保険独自のものであり、国民健康保険にはありません。
このように健康保険には利用しやすさがあるため、会社を退職後、2年間に限りそのまま健康保険を継続して利用する「任意継続」という制度も設けられています。
まとめ
個人事業主が国民健康保険を支払っても、その支払額は所得税や住民税と同様に費用にはできません。しかし、保険料(税)の計算には、前年の所得額に応じて決定される部分があります。
したがって、青色申告控除などによって少しでも所得額を小さくしておくと、翌年に支払う保険料(税)を減らすことにつながります。
個人事業主は青色申告の特典を大いに利用しましょう。
大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。
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