ついに解決!販売促進費を徹底解説

[取材/文責]山田隆裕

帳簿をつける際、多くの個人事業主の方々を悩ませている勘定科目の一つに、販売促進費があります。販売促進費は広告宣伝費と酷似していて、かつ交際費とも似ているため、混同してしまうケースがよく見られます。これらの明確な線引きは難しいのですが、課税のされ方が異なるため軽視はできません。また販売促進費に関しては、小規模事業者持続化補助金という援助制度も存在するので、この機会に押さえておくとよいでしょう。
これまで曖昧にしてきた販売促進費の内容を明確に理解し、よりクリーンな経理を目指しましょう。

販売促進費について

勘定科目の一つである販売促進費は、「販売費及び一般管理費(販管費)」に分類されます。「販売費及び一般管理費(販管費)」には販売促進費の他にも、交際費や広告宣伝費、販売手数料などが含まれていますが、それぞれの内容が類似しているため明確に区別することは簡単ではありません。交際費や広告宣伝費、販売促進費などは特に内容が酷似していますが、明確な区分基準が存在しないため、今回はそれぞれの区分に含まれる具体内容を例に挙げながら、一般的な区分の方法を解説していきます。

販売促進費に当てはまる範囲

販売促進費とはその名の通り、販売を促進するためにかかる費用を指します。具体的には、実演販売や試供品の配布、展示会、特売、店頭でのPOPやポスターの制作、商品のおまけなどに係る費用です。
販売促進費の要件としては、大きく分けて三つが挙げられます。

  • ①商品の売上の増大に繋がる費用であること
  • ②消費者又は取引先を対象として支出された費用であること
  • ③損金として算入することのできる費用であること

経理上の扱い

販売促進費は勘定科目の5つの分類である資産、負債、純資産、収益、費用の内、費用に含まれるため、販売促進費を仕分けする際には、「販売促進費」を借方、「現金」や「普通預金」などの代金支払い方法を貸方に書き記します。

曖昧な区分

販売促進費はその内容が交際費や広告宣伝費と被っていることもあり、区分が曖昧になっています。定まった明確な区分基準が存在しないことも、曖昧さを助長している要因の一つとなっています。
そこで、ここでは区分に含まれている具体例を挙げながら、一般論を交えて曖昧な広告宣伝費の内容を説明していきます。

広告宣伝費との違い

販売促進費と広告宣伝費はどちらも、商品やサービスを不特定多数に対して広く宣伝する為にかかる費用ですが、広告宣伝費は、テレビやチラシ、新聞などで商品やサービスを間接的に宣伝するための費用になります。
すなわち一般的に、商品を直接的に宣伝する場合は販売促進費、間接的に宣伝する場合は広告宣伝費、というように区分されます。ただし、勘定科目の上では販売促進費と広告宣伝費は区別されているものの、広義には販売促進費が広告宣伝費を内包する形となっており、どちらかに統一してしまうケースもあります。

交際費との違い

交際費とは、得意先や仕入先、その他事業に関係のある者に対する接待、供応、慰安、贈答などの行為のために支出する費用をいいます。不特定多数を対象とした宣伝費用である販売促進費や広告宣伝費とは異なり、交際費は、得意先や仕入先など特定の者を対象とした、上記のような「接待、供応、慰安、贈答」といった行為にかかる費用を表します。
このように書くと交際費と販売促進費の違いは明瞭だと思われるかもしれませんが、実際には交際費と販売促進費の区別が難しい場合があります。例えば同じ物の贈答でも、商品購入の特典として抽選で当選した人にのみ贈った場合は、その費用は販売促進費に含まれますが、取引先に対してお歳暮を贈った場合には交際費に該当します。
 
また、交際費と広告宣伝費の区別も複雑になっています。例えば、カレンダーや手帳、手ぬぐい等に社名が記されていて不特定多数に対する宣伝効果を持っている場合、それらの物品を取引先や仕入先に贈答しても、その費用は交際費には含まれず、広告宣伝費として勘定されます。
 

税務上、交際費の損金算入は厳しく制限されているため、これらの仕分けを適切に行うことは非常に重要です。

小規模事業者持続化補助金について

販売促進費に関連して、小規模事業者が販路開拓に取り組むための費用を補助する「小規模事業者持続化補助金」という制度が存在するのでご紹介します。

制度概要

小規模事業者の事業の持続的発展を後押しするために、小規模事業者が商工会・商工会議所の支援を受けて経営計画を作成し、その計画に沿って取り組む販路開拓等の経費の一部を補助するというものです。
補助率は対象となる経費の3分の2以内で、金額の上限が50万円と定められています。なお、複数の事業者が連携して共同事業に取り組む場合に限り、上限が500万円まで上げられています。

対象となる事業

対象となる取り組みは、①商工会議所の支援を受けながら実施する販路開拓への取り組みと、②販路開拓等とあわせて行う業務効率化の取り組みの二つに分けられます。
①の販路開拓への取り組みで広告宣伝費や販売促進費に係るものは、新たな販促用のチラシ作成費、新たな販促品の調達費、ネット販売システムの構築のための費用などがあります。
②の業務効率化に向けた取り組みについては、広告宣伝費や販売促進費とは関係がないものも多く含まれるため、特にスタートアップ企業に対して有意義な制度となっています。例えば、労務管理システムのソフトウェア購入費や、専門家からの指導を受けるための謝礼金などが対象として含まれます。該当するものがないか確認してみましょう。

対象者

補助の対象となる事業者の条件は事業者の種類によって異なり、以下の様なものが挙げられます。

卸売業・小売業 常時使用する従業員の数が5人以下
サービス業 常時使用する従業員の数が5人以下
サービス業の内、宿泊業・娯楽業 常時使用する従業員の数が20人以下
製造業その他 常時使用する従業員の数が20人以下

申請手順

申請から補助金受領までの手続きの流れは、以下のようになっています。
 

  • ①経営計画書・補助事業計画書等の必要書類の作成
  • ②近くの商工会議所へ事業支援計画書等の作成と交付を依頼
  • ③日本商工会議所へ申請書類一式を送付
  • ④日本商工会議所の審査
  • ⑤交付決定後、特定事業の取り組み実施
  • ⑥実績報告書の提出
  • ⑦日本商工会議所による提出資料の確認
  • ⑧補助金の請求・受領

 

制度の内容や申請書類などは、年によって変わる可能性があります。制度の利用を希望する方は、最新の情報を商工会議所に問い合わせてください。

☆ヒント
今回見てきた様に、販売促進費と広告宣伝費、交際費を明確に区別することは難しいものです。しかし、区別を疎かにしていると、毎年お歳暮を取引先に送っているのに、年によってお歳暮に係る費用が販売促進費に含まれたり、交際費に含まれたり…というあやふやな状況になってしまう可能性もあります。こうした状況に陥ることを避け、クリーンな経営を目指す為にも、勘定科目の区別に詳しい税理士に相談してみましょう。
また、販売促進の活動が対象となっている補助金制度についても説明しました。こうした制度を上手く利用して経営の一助とするには、どのような費用が販売促進費に含まれるのかを適切に理解しておくのが重要です。そうした機会を逃さない為にも、税理士を上手く活用することをオススメします。

まとめ

勘定科目の中でも、販売促進費と交際費、広告宣伝費の区別は複雑で、時に曖昧です。それぞれの違いが分からないままに帳簿をつけてしまうと、同じ費用でも年によって異なる項目に加えてしまったり、経営状況を数値で客観的に把握するにあたってのミスリードになってしまったりする可能性もあります。それぞれの内容をしっかりと把握して、クリーンな経営を心がけましょう。

慶應大学卒。現、同大学院所属。
大学4年時に公認会計士試験に突破。
自分の知識の定着も兼ねて、会計・財務などに関する知識を解説していきます。

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