法人が含み益のある資産を所有している場合の税金と処理方法

[取材/文責]長谷川よう

株式や不動産など、法人では含み益のある資産を所有していることが多いです。含み益のある資産を所有している場合に気になるのが、含み益に対する税金はどうなるのかという点と、含み益の会計処理方法のことでしょう。
そこで、ここでは法人が含み益のある資産を所有している場合の税金と処理方法について解説します。

含み益と実現益の違い

含み益の処理方法について理解するためには、含み益と実現益の違いを知っておく必要があります。それぞれを、詳しく見ていきましょう。

①含み益

含み益とは、まだ現実の利益にはなっていないが、売却をすれば利益が出る状態における、見込みの利益のことです。帳簿上の価格(簿価)よりも時価の方が上回っている場合に含み益が生じます。

 

例えば、簿価100万円の株式を所有していて、時価が110万円だった場合、差額の10万円が含み益になります。

②実現益

実現益とは、実際に確定した利益のことです。実際に販売などを行い利益が出れば、それが実現益になります。例えば、簿価100万円の株式を110万円で売却した場合は、10万円の実現益が出ます。逆に言えば、資産を保有し続ける場合は、含み益がどれだけ出ようと実現益は生じません。

含み益に対する法人税の考え方

モノを販売したり、サービスを提供するなどで利益をあげた場合、その利益は実現益です。実現益にはもちろん、法人税などの税金がかかります。

 

では、資産などに含み益がある場合にはどうなるのでしょうか。ここでは、含み益に対する法人税の考え方について見ていきましょう。

原則、含み益には法人税はかからない

法人税では、益金(利益)に対して税金が課されます。益金をどのタイミングで認識するのかについては、基準が設けられています。

 

原則、資産の販売やサービスの提供については、目的物の引渡し、または役務の提供の日をもって益金に認識します。そのため、いまだ販売されていない資産については、法人税は課されません。つまり、原則、含み益には法人税がかからないことになります。

例外的に含み益を計上する資産とは

法人は活動をしていくなかで様々な資産を取得しますが、その中には金融資産や金融負債も含まれます。金融資産とは現金や預金、売掛金や受取手形、有価証券などで、金融負債とは買掛金や支払手形、短期の借入金などです。

 

もともと、わが国では、時価のあるものであっても、含み益については税金を課さないという考え方でした(取得原価主義)。しかし、インターネット技術の発展や普及などで、多くの会社で株式などの金融資産の売買が日常的になってきたことや、世界の会計基準では時価によるものがスタンダードになってきたことなどから、取得原価主義では対応できなくなってきました。そのため、現在では、我が国でも金融資産については時価で評価することになっています。

 

つまり、金融資産では含み益についても課税されます。ただし、含み益に課税される資産は、市場価格が明確にわかるもので、短期の売買が行われるものに限られます。代表的なものが、有価証券です。

 

有価証券は、保有目的に応じて、売買目的有価証券や満期保有目的有価証券、子会社株式および関連会社株式、その他有価証券に分かれます。

 

このうち、市場価格が明確にわかり短期の売買が行われるものは、売買目的有価証券とその他有価証券の一部です。つまり同じ有価証券でも、売買目的有価証券とその他有価証券の一部については含み益に課税されますが、満期保有目的有価証券や子会社株式および関連会社株式では、含み益に課税されないことになります。

 

売買目的有価証券を保有している場合は、含み益に課税されます。正しく含み益に課税がされるためにも、決算日に含み益を計上する仕訳を行う必要があります。具体的には、次のような仕訳を行います。

 

例)取得価格1,000円の株式を100株保有していた。決算日の時価は1,100円だった。
なお、この株式は売買目的のため保有している。

 

この具体例の含み益は、(時価1,100円-取得価格1,000円)×100株=10,000円です。

 

借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額 摘要
有価証券 10,000円 有価証券評価損益 10,000円 有価証券評価益

 

有価証券評価損益または有価証券評価益勘定を使って、含み益を帳簿上に記載することで、税金の課税対象にします。

含み益や含み損を知ることで、資金繰りや税金対策に利用できる

ここまでは、含み益の課税について見てきました。不動産などの長期的に保有するものについては、含み益に課税はされません。しかし、売買目的有価証券などの短期的に売買する金融資産については、含み益に課税されます。

 

しかし、含み益やその逆の含み損を把握することは、納める税金の金額を正しく計算するだけでなく、資金繰りや税金対策に利用することもできます。そこで、資金繰りや税金対策の観点から、含み益について見ていきましょう。

①資金繰り

不動産や有価証券などの資産は、売却すると一時に大きな資金を得ることが可能です。そのため、万が一、資金不足に陥りそうなときには、不動産や有価証券などの資産を売却して資金をつくることが可能です。

 

長期保有目的であれば、含み益に税金も課されません。そこで、資金に余裕のある場合は、将来の資金が不足するリスクに備えて、不動産や有価証券などの資産を購入しておくことは、資金繰りを円滑にするための方法のひとつです。

 

資産を売却して資金をつくる際に注意しなければならないのが、税金のことです。含み益がある場合には、売却することでそれが実現益となり、課税の対象になります。資産の売却金額と税金の納付額を考慮した資金繰りを行う必要があるため、常に、資産の含み益がいくらあるのかを会社で把握しておいた方が良いでしょう。

②税金対策(タックスプランニング)

保有する資産の含み益や含み損を把握しておくことは、会社の税金対策(タックスプランニング)に役立ちます。タックスプランニングとは、将来、支払う法人税がいくらになるのか計算することです。

 

会社の長期的な事業計画を策定する際、これから行う事業の内容や計画とともに、売上や経費、利益や税金がどのようになっていくのかも含め計画を立てていきます。タックスプランニングを正確に行うには、実現されるであろう含み益や含み損についても妥当性が必要とされます。

 

また、長期的なタックスプランニングでなくても、短期的な節税対策に含み益や含み損を利用することも可能です。例えば、利益が多く、納める税金の金額が高くなりそうな場合は、含み損のある資産を売却することで利益を圧縮でき、納める税金の金額を抑えることができます。

 

あるいは、金融機関からの融資などを計画している場合で、利益があまり出ていない場合は、含み益のある資産を売却し、最終的な利益を増やすことも可能です。

 

このように、含み益や含み損を把握しておくことは、税金だけでなく、資金繰りやタックスプランニングにおいても重要です。

まとめ

不動産や株式などの資産を保有していると、必ず、含み益や含み損が発生します。市場価格が明確にわかるもので、短期の売買が行われるものは、含み益や含み損を計上し、税金の計算に反映させる必要があります。

 

また、長期的に保有する資産であっても、資金繰りやタックスプランニングを行うためには、含み益や含み損を常に把握しておく必要があります。

 

会社にとって、含み益や含み損を把握することは、思っているより重要です。定期的に含み益や含み損がいくらになっているのかを把握して、健全な経営に役立てましょう。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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