法人の貸付金には利子・税金が発生する?役員貸付金のケースについて解説

[取材/文責]阿部正仁

同族会社が代表取締役にお金を貸しても、法人は利子を受け取らないケースがあるでしょう。しかし、法人は金融機関と同じように貸付金利子を受け取るべきというのが税法の考え方であり、税務調査でも争点になります。そこで、役員貸付金を例に貸付金と利子の税金について解説します。

役員貸付金の概要、発生する原因

役員貸付金とは、代表取締役などの役員に対して会社のお金を貸し付けたものを指します。

役員貸付金のデメリット

役員貸付金があるデメリットは次の通りです。

(1)銀行融資の引き出しで不利

銀行融資を申し込んだとき、融資担当者から「(借りる前に)まずは役員貸付金を回収してください」といわれるケースがあります。そもそも金融機関は役員貸付金に対して、会社のお金をプライベートに遣ったと見る傾向にあります。

(2)未収利息を計上しなければならない

役員貸付金は利子を受け取っていなくても、未収利息を計上して、法人の所得にプラスしなければなりません。役員貸付金にかかる利子を計上しないと税務調査で間違いと指摘されてしまいます。

役員貸付金が発生する原因

デメリットがあるのにもかかわらず、役員貸付金が発生するのには理由があります。

(1)本当に貸している場合

金銭貸借契約書を交わしたり、貸付金残高を管理したりするなど、役員への債権をきちんと認識しているケースです。

(2)どんぶり勘定の場合

おもに次のようなどんぶり勘定により、役員個人が認識しないまま、役員貸付金が発生してしまいます。

①会社の経費と個人のプライベート費用を混同している場合

プライベート費用を会社の経費にできないため、相手勘定科目を役員貸付金と処理するケースがあります。

②帳簿上の現金残高が実際の現金残高よりも多い場合

たとえば、支出したプライベート費用について会計処理をしない場合、帳簿上の現金残高は減少しませんが、実際の現金残高は減少。そのため、帳簿上の現金残高を実際の現金残高に合わせるための相手勘定科目として役員貸付金が用いられます。

役員貸付金の税金のルール

役員貸付金の税金は「貸付金利子」と「貸付金残高」の取り扱いに区分されます。

未収利息を計算する方法

未収利息は「税法上の利息-実際の受取利息」で計算します。そのため、利息を全く受け取っていない場合は「税法上の利息=未収利息」です。

 

税法上の利息は次の通りです。

  • (1)金融機関から融資を受けている場合:借入金の平均調達利率
  • (2)その他の場合:特例基準割合
貸し付けた期間 特例基準割合
平成21年1月1日から平成21年12月31日までの期間 4.5%
平成22年1月1日から平成25年12月31日までの期間 4.3%
平成26年1月1日から平成26年12月31日までの期間 1.9%
平成27年1月1日から平成28年12月31日までの期間 1.8%
平成29年1月1日から平成29年12月31日までの期間 1.7%
平成30年1月1日から平成30年12月31日までの期間 1.6%
平成31年1月1日から令和元年12月31日までの期間 1.6%
令和2年1月1日から令和2年12月31日までの期間 1.6%

利子に源泉所得税が課税される可能性あり

上記の「税法上の利息-実際の受取利息」は原則、給与として源泉所得税の対象になります。ただし、次の場合には源泉所得税の対象から外れます。

 

  • ①災害や病気など臨時に多額の生活資金が必要となった役員に、合理的と認められる金額や返済期間で貸し付ける場合
  • ②借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率で役員に貸し付ける場合
  • ③「税法上の利息-実際の受取利息」が1年間で5,000円以下の場合

経費(貸倒損失)に計上するのは難しい

そもそも役員貸付金は金銭債権であり、不良債権として貸倒損失に計上するのは難しいのが現実です。次のように貸倒損失として認められるハードルが高いからです。

 

  • ①会社更生法などの法律の手続きにより債権が切り捨てられること
  • ②債権者集会、行政機関や金融機関などのあっせんによる協議により、合理的な基準に基づいて債権が切り捨てられること
  • ③貸し付けた相手(債務者)が客観的に返済能力のないこと など

 

役員貸付金は上記①、②の手続きを踏めないのはもちろん、③の役員に返済能力のないことを証明することは難しいといえます。

 

債務免除という法律上の手続きを踏めば、役員貸付金を消せますが、相手勘定科目は貸倒損失でなく、寄付金になります。つまり債務免除による寄付金はほぼ経費で落とせません。法人が経費に計上できる枠は、次の算式で計算するため少額です。

 

  • ①(資本金等の額 ×当期の月数÷12)×0.25%
  • ②所得の金額×2.5%
  • ③(①+②)×4分の1=(損金算入限度額)

 

例)1年決算の法人が資本金等の額1,000万円、所得の金額1,500万円の場合

  • ①(1,000万円×12÷12)×0.25%=2万5,000円
  • ②1,500万円×2.5%=37万5,000円
  • ③(①2万5,000円+②37万5,000円)×4分の1=損金算入限度額10万円

役員貸付金を消す方法

役員貸付金を消すポイントは役員個人の返済するための財源を確保することに尽きます。

役員報酬の設定額を上乗せする

役員報酬の設定額を実際の支給額に上乗せして精算できます。たとえば、設定額70万円、実際の支給額50万円の場合、会計処理は次の通りになります。

 

借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額 摘要
役員報酬 70万円 現金預金 40万円 手取り金額
    預り金 10万円 給与天引き分(便宜上の金額)
    役員貸付金 20万円 設定額と実際の支給額との差額を精算

将来の役員退職金と相殺する

役員報酬の設定額を実際の支給額に上乗せしても精算できない場合、将来の役員退職金を利用して精算することができます。役員退職金を1,000万円とする場合、会計処理は次の通りになります。

 

借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額 摘要
役員退職金 1,000万円 役員貸付金 1,000万円 役員貸付金の精算

個人資産の売却収入で返済する

不要不急の個人資産を売却して、役員貸付金を返済する方法もあります。特に金融機関から融資を受けていたり、これから融資を受けたりする場合は、個人資産の売却を検討する価値があります。

役員貸付金清算プランを利用する

役員貸付金清算プランとは、生命保険を利用して役員貸付金を消す手法です。具体的な手順は次の通りです。

 

  • ①法人が役員を被保険者とした生命保険に加入する
  • ②上記①の保険証券を担保として保険証券に質権設定し、役員個人が金融機関から融資を受ける
  • ③上記②の役員個人への融資額を財源にして、借入金(法人の役員貸付金)を会社に返済する
  • ④役員個人は金融機関に借入金を返済する

まとめ

役員貸付金は金融機関の心証がよくない、なるべく決算書に載せたくない勘定科目です。役員貸付金を発生させないように努める、または、役員に貸し付けても短期間で返済してもらうなどの工夫が大切になってきます。

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。

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