労災は受けられる?フリーランスが障害を負ったときに受けられる給付まとめ

[取材/文責]坂下慶太

自分が病気になったり怪我をしたりしたら、どうやって生活していけば良いのだろう。これは誰もが心配する点ですが、フリーランスの場合はどうなっているのでしょうか。フリーランスも労災保険を受けられるのでしょうか。この記事では、フリーランスが病気や怪我をした場合に受けられる金銭的な補償として、労災保険、障害年金、私的な保険制度について解説します。

新型コロナで明らかとなったフリーランスの脆弱性

新型コロナウイルスの影響で、仕事がなくなったり減ったりしたフリーランスの方もいるでしょう。今回の国の対策ではフリーランスが無視されているわけではありませんが、それでも会社員と比べて保障が劣ると感じられた方が多いかもしれません。
 
コロナウイルス関連の問題に限らず、フリーランスが病気や高齢により働けなくなったときの保険制度や年金制度の充実度は、サラリーマンと比べてかなり差があります。今回は特に労働災害にテーマを絞り、公的制度はどうなっているのか、フリーランスは何ができるのかを考えてみましょう。

フリーランスは労災保険の障害給付を受けられるか

労災保険は雇用されている労働者のための保険なので、一部の例外を除いて個人事業主であるフリーランスは障害給付の対象にはなりません。フリーランスであっても労働者性が認められる場合は労災保険が支給されます。近年は働き方が多様化しているため、今後はフリーランスの不利な状況が改善されていくかもしれません。

労災保険とは

「労災保険」の正式名称は「労働者災害補償保険」です。労働者が業務中や通勤中に病気や怪我をした場合に備えるもので、保険料は事業主が負担します。この労災保険と、「雇用保険」を総称して「労働保険」と呼びます。両制度の保険給付は別々に行われますが、保険料の納付の際は一体のものとして取り扱われます。労働者を1人でも雇用していれば、事業主は労働保険料を納めなければなりません。

主な労災保険給付

労働災害には、業務中の災害である「業務災害」と通勤中の災害である「通勤災害」とがあります。業務災害に対しては療養補償給付や休業補償給付などが、通勤災害に対しては療養給付や休業給付などが給付されます。

 

  • 療養(補償)給付
    業務災害または通勤災害による傷病で療養するときの、療養費のための給付です。療養費は全額給付されるので、労災保険が使えるときに健康保険を使ってはいけません。
  • 休業(補償)給付
    業務災害または通勤災害による傷病で療養するときに、労働できずに受けられなくなった賃金を補うための給付です。
  • 障害(補償)年金と一時金
    業務災害または通勤災害による傷病が治らずに障害が残ってしまったときに、障害等級に応じて年金または一時金を受けることができる給付です。障害の程度により等級が、給与に応じて金額が定まります。
  • 遺族(補償)年金と一時金
    業務災害または通勤災害により死亡した場合に、遺族の数や受けていた給与により年金を受けることができます。遺族がいないときは一時金を受けることができます。

フリーランスは労災保険を受けられない

労災保険は労働者のための保険なので、原則として、フリーランスは労災保険を受けることができません。労働者は事業主の支配・管理下にあり自分で傷病を防ぐことに限界がありますが、個人事業主であるフリーランスは自分で傷病を防ぐことができるはずだと考えられているのです。

特別加入制度

労災保険制度は、本来は労働者が業務や通勤で災害にあったときに保険給付を行う制度です。これに対して「特別加入制度」は、労働者以外でも業務の実情や災害の発生状況からみて労働者に準じて扱うことが適当だと認められた人が、任意で加入できる制度です。特別加入が可能な対象者としては、個人タクシー業者、土木や建築の一人親方、漁業従事者、林業従事者、医薬品の配置販売従事者、廃棄物の収集従事者、運搬業者、解体業者、船員などがあります。

フリーランスの労働者性

現状では、労働者ではないフリーランスは労災保険に加入できません。しかし、働き方が多様化する中で、フリーランスの不利な立場は実情に合わないのではないかという声が大きくなってきました。現在でも、俳優や歌手などの実演家の場合、雇用契約ではなくても労働者性が認められ労災保険が給付される場合があります。今後の政府や国民の議論によっては、フリーランスも労災保険の対象となる日が来るかもしれません。

フリーランスが障害を負ったときに使える公的な給付制度

フリーランスが病気や怪我、障害を負ったときに使える公的な制度には、「国民健康保険」と「障害基礎年金」があります。どちらも強制加入の制度ですが、未納があると給付が受けられないことがあるので注意が必要です。会社を退職した場合などは必ず加入して、以後も忘れずに保険料を納めましょう。

国民健康保険

フリーランスが仕事中に病気や怪我をしたときには、労災保険が使えません。そうした場合、「国民健康保険」を使って治療にかかる費用を軽減することができます。国民健康保険を使うと、自己負担が3割になります。
 
国民健康保険は強制加入の保険です。会社を退職した場合は会社の健康保険から外れてしまうので、14日以内に自分が住んでいる市町村の窓口で加入手続きを済ませ、以後は自分で保険料を支払い続ける必要があります。

障害基礎年金

フリーランスは労災年金や労災一時金を受けることはできませんが、病気や怪我の治療をして障害が残った場合、国民年金の「障害基礎年金」を受けることは可能です。障害基礎年金の支給要件としては、障害があることだけではなく、国民年金に加入している間に初診日があること、初診日の前日段階で保険料の納付要件を満たしていることが求められます。すなわち、保険料を納付しているか免除されているかが要件となるのです。
 
国民健康保険と同様に、会社を退職した場合は、14日以内に市町村で国民年金への加入手続きを済ませ、その後の保険料の納付を忘れないようにすることが重要です。なお、国民年金も現在は強制加入となっています。

特別障害給付金

学生に対する国民健康保険の加入が任意だった時期に学生だった人が、任意加入していなかったことで障害基礎年金を受給できない場合のために、「特別障害給付金制度」が設けられています。この制度により、障害基礎年金を受給できない人であっても給付を受けることができますが、金額は障害基礎年金に比べて少なくなります。

フリーランスの自衛手段

現状では、公的な制度の中にはフリーランスが業務中に病気や怪我をして働けなくなった場合に、休業中の収入を保障するものはないようです。この問題への対応策として、また補償全般を強化するものとして、フリーランス自身が自分で保険に加入したり、事業を大きくして労災保険に加入したりするという選択肢があります。

フリーランスが加入できる保険がある

フリーランスは、加入できない公的な労災保険の代わりに自分で任意保険に加入して業務中の事故や病気に備えることができます。フリーランスが労災保険の代わりに加入できる保険には、「フリーランス協会」「あんしん財団」「日本フルハップ公益財団法人」「商工会議所の休業補償プラン」などがあります。労災保険の手厚さには及びませんが、こうした保険に加入することで、治療にかかる費用や治療中に減ってしまう収入を補うことができます。

中小事業主用の特別加入制度を利用する

労災保険の特別加入制度には、中小事業主が加入できる制度もあります。事業を大きくして労働者を1人以上雇えば、自分とその労働者を一括して労災保険に加入させられる可能性があるのです。

 

☆ヒント
フリーランスが加入できる保険はありますが、労災保険と比べると内容的にはかなり劣ります。人を雇って特別加入制度を利用すれば労災保険に加入できますが、事業を大きくして人を雇うなら、労災保険の加入とあわせて法人化も検討しましょう。法人化すれば節税面で大きなメリットがありますが、事務手続きがかなり増え、専門的な知識も必要になります。法人化を考える際は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

一部の例外を除き、フリーランスは労災保険を活用できません。フリーランスが業務中に病気や怪我をしたり、障害が残ったりした場合に使うことができる公的保険制度は、国民健康保険や国民年金の障害基礎年金です。いずれも未納がないように気をつけましょう。また、フリーランスができる自衛手段としては、民間の任意保険に加入したり、人を雇って中小事業主となり労災保険の特別加入制度を利用したりすることが考えられます。いざというときのための対策を怠らないようにしましょう。

東京大学卒。米国大学院に進学予定。東証一部上場企業にて経理業務を担当。経理業務で体得したスキルや知識を中心に解説していきます。

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