社会福祉法人を設立して福祉事業を行いたい!社会福祉法人の設立手続きを解説
福祉事業を行う際は、株式会社やNPO法人などのさまざまな選択肢の中から法人形態を選ぶことが可能です。その中でも、社会福祉法人は設立が難しく、それだけに大きな社会的信用や税制上の優遇などが得られる法人形態です。この記事では、社会福祉法人の特徴、組織形態、設立手続きについて解説します。
社会福祉法人の特徴
社会福祉法人とは何か
社会福祉法人は、社会福祉法によって定められた社会福祉事業を行うための法人です。社会福祉法は、社会福祉を目的とする事業の全分野における共通事項を定めた法律であり、社会福祉事業の内容、社会福祉法人の形態・設立・運営、地域福祉の推進などについて規定しています。
社会福祉法では社会福祉事業について、特別養護老人ホーム・児童養護施設などの入所施設サービスが中心の第1種社会福祉事業と、保育所・訪問介護・デイサービスなどの第2種福祉事業の2種類の事業を定めています。社会福祉法人は社会福祉事業を営む法人ですが、子育て支援事業などの公益事業や貸しビル・駐車場などの収益事業を営むこともできます。なお、社会福祉法人を設立するためには所轄庁の認可が必要です。
他の法人形態との違い
社会福祉法人と事業分野が重なることもある法人形態として、株式会社とNPO法人が挙げられます。社会福祉法人を設立するなら、まずはそれぞれとの違いを理解しておきましょう。
- 株式会社との違い
最も大きな違いは、社会福祉法人が公益法人であるために税制上の優遇措置を受けられることです。社会福祉法人が行う社会福祉事業や公益事業は法人税が非課税となります。 - NPO法人との違い
NPO法人は特定非営利活動法人のことです。保健や医療、または福祉の増進や社会教育の推進など、20の分野で非営利活動を行います。NPO法人は社会福祉法人より設立が簡単で、認可ではなく「認証」を得ることで設立できます。
社会福祉法人の組織形態と運営
社会福祉法人の組織形態
社会福祉法人の機関は、評議会・理事会・監事です。それぞれの機関について、株式会社の株主総会・取締役会・監査役に対応するものとして考えるとイメージしやすいかもしれません。なお、社会福祉法の規定により、後述する会計監査人・監事・理事・評議員は兼務できません。理事と職員の兼務は可能です。
- 評議会と評議員
評議会は社会福祉法人において最も上位の機関であり、評議会の構成員が評議員です。評議会は社会福祉法人の運営に関わる重要事項の議決機関であり、法人運営の基本ルールや体制を決定するとともに、役員(理事と監事)の選任・解任などを通じて法人運営を監督します。
評議員の員数は理事の員数を超える必要があります。理事は6名以上必要なので、評議員は7名以上必要です。評議員は「社会福祉法人の適正な運営に必要な識見を有する者」から選任することとされています。 - 理事会と理事長・理事
理事会はすべての業務執行の決定、および理事の職務執行の監督を行います。また、理事長の選定や解職を行うのも理事会の役割です。
理事長は、理事会の決定に基づいた法人の内部的・対外的な業務執行権限、および対外的な業務を執行するための代表権を有します。理事長以外の業務を執行する理事として、業務執行理事を選定することができます。理事長と業務執行理事以外の理事は、理事会に参加することで法人の業務上の意思決定に参加したり、理事長を監督したりします。
理事の員数は6名以上です。理事の中には「社会福祉事業の経営に関する識見を有する者」、「当該社会福祉法人が行う事業の区域における福祉に関する実情に通じている者」、「施設を設置している場合にはその管理者」が含まれていなければなりません。理事会は理事の中から理事長1名を選定します。 - 監事と会計監査人
監事の役割は理事の職務の執行を監査することです。監事は監査報告を作成したり計算書類などを監査したりします。また、事業の報告を要求したり業務・財産の状況を調査したりすることも監事の役割です。それぞれの監事は独立して権限を行使することができます。
社会福祉法人には2名以上の監事が必要です。監事の中には、社会福祉事業や財産管理について識見を持つ者が含まれる必要があります。なお、大規模な社会福祉法人は会計監査人(公認会計士・監査法人)の設置が義務付けられています。
社会福祉法人の資産
社会福祉法人の資産には、基本財産・その他財産・公益事業用財産・収益事業用財産があります。基本財産は、土地や建物などの基本的な資産です。その他財産とは、施設の運営に必要な現金などの資産です。事業用の資産は、公益事業のための公益事業用財産と、公益事業の財源にあてるための収益事業用財産に区別されます。
社会福祉法人の運営
社会福祉法人が運営に際して定款を変更したり、基本財産を処分したり担保にしたりする場合には、所轄庁の認可または承認が必要です。また、毎会計年度に余剰が生じた場合は「社会福祉充実残額」としてこれを確定させ、「社会福祉充実計画」を立ててその余剰金額を既存事業の充実や新たな取り組みに有効活用する仕組みを作ります。
社会福祉法人を運営するためには多くの書類を作成する必要があります。お金の流れに関する書類としては、「貸借対照表」「事業活動計算書」「資金収支計算書」を作成します。「事業活動計算書」とは、株式会社の「損益計算書」に相当する書類です。
社会福祉法人の設立手続き
社会福祉法人は行政庁によるコントロールが強い法人形態です。法人を設立する際には、行政庁と協議したり人員や資産に対する細かいルールを満たしたりする必要があります。
行政との協議
社会福祉法人は、所轄庁である都道府県知事または市長(広域にまたがる場合は厚生労働大臣)の認可を受け、設立登記することで成立します。社会福祉事業を実施するには、事業実施地域の行政機関と事前協議を行って事業実施の許可を受ける必要があります。事前協議の際には、定員や人員、予算などについての事業実施に関する計画を提出します。所轄庁は法人設立の趣旨や行政計画との整合性を確認し、事業開始に向けてスケジュールを調整します。
設立準備
社会福祉法人の設立準備について特定のルールはありませんが、一般的には設立予定者同士が設立準備会(発起人会などの名称も可)を発足して準備を進めます。設立準備会には役員(理事と監事)就任予定者全員が参加することが望ましいとされています。
設立準備会は役員と評議員を選出します。それぞれに必要な員数や資質、および兼務の禁止についてはすでに述べたとおりですが、さらに親族や行政庁の職員についての就任制限規定などがあります。
設立準備会は、社会福祉事業を行うために必要な資産を準備します。資産の種類や規模については、さまざまな関係法令や通知に基づく基準や要件を満たす必要があります。
設立申請
所轄庁との協議や人員、資産が準備できたら、法人の運営を開始するために所轄庁に申請書類一式を提出します。提出するべき書類には、申請書や事業計画書、資金収支予算書、定款、土地や建物に関する書類、役員に関する書類など多くの種類があります。
設立後の手続き
申請手続きがされると認可通知書が発行されます。法人は認可日から2週間以内に法人設立の登記を行います。登記が完了したら、理事会などを開いて理事長や役員などを正式に選出します。
まとめ
社会福祉法人は社会福祉法に定められた社会福祉事業を行う法人です。社会福祉法人が行う社会福祉事業や公益事業に対しては法人税がかかりません。社会福祉法人を設立するためには所轄庁の認可が必要で、事業開始のためには所轄庁と協議しつつ、理事や監事、評議員などの人員と資本を用意し認可を受ける必要があります。設立のハードルは低くありませんが、社会的信用の高さや税制上の優遇といったメリットは大きいため、適切に専門家に相談しつつ設立を目指してみると良いでしょう。
慶應大学法学部卒。
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