知らないと損?年末調整の意外なポイント

[取材/文責]細井山豊

事業者が避けて通れない年末調整。確定申告と似ているようでその役割は異なります。実は節税のチャンスが盛りだくさん! 今回は事業者にとって基礎の基礎、年末調整について注目します。

年末調整の基本

そもそも年末調整とは何か

会社をはじめとした給与の支払者は、役員または使用人に対して給与を支払う際に所得税および復興特別所得税の源泉徴収を行っています。つまり、社員たちが受け取るいわゆる「給料」は、もともとの給料からこれらの税金が天引きされた分なのです。
しかしながら、1年間を通じて源泉徴収した所得税・復興特別所得税の総額と、その人が本来払わなければならない税金の総額は一致するとは限りません。両者を一致させるための手続きが、年末調整です。

年末調整はどのように行うのか

それでは実際に年末調整の手順を見ていきましょう。

1. 1月1日から12月31日までの1年間で支払うことが確定した給料の額を合計します。
2. 1.をもとに給与所得控除後の給与の額を求めます。この額は、「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」で知ることができます。
3. 2.からさらに、扶養控除などの所得控除を差し引きます。各種控除の詳細は次項で表にまとめてありますので、適宜参照してください。
4. 3.で求めた金額の1,000円未満を切り捨てた上で、所得税率を当てはめます。これにより税額を得ます。
5. 年末調整で住宅借入金等特別控除を行う場合には、控除額を4. で求めた税額から差し引きます。同控除の詳細は次項の表を参照してください。
6. この控除額を差し引いた税額に102.1%をかけた金額を求め、100円未満を切り捨てます。この額が、その人が1年間に収めるべき所得税および復興特別所得税となります。
7. この額を、1年間で源泉徴収した所得税および復興特別所得税の総額と照らし合わせます。源泉徴収した額の方が多かった場合は差額の還付が行われ、逆の場合は差額分が追加で徴収されます。

年末調整で受けることができる控除の種類

年末調整までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」などの必要な申告書を会社へ提出している人に関しては、いくつかの控除を受けることができます。それらを以下の表にまとめました。

控除の種類 控除の対象・要件 控除額
配偶者控除 所得者と生計を一にする配偶者(青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、合計所得金額が38万円以下の人がいれば該当します。給与収入のみの場合は、103万以下となります。 38万円(控除対象配偶者が70歳以上で老人控除にも当てはまる場合は48万円)。
配偶者特別控除 所得者と生計を一にする配偶者(青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)の合計所得金額が38万円を超えても、76万円未満でかつ所得者の合計所得金額が1000万円以下であれば該当します。ともに給与収入のみの場合は配偶者が103~141万円、所得者が1230万円以下となります。 3万円から38万円の間で、配偶者の所得に応じて変動します。
扶養控除 所得者と生計を一にする16歳以上の親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専従者を除きます)で、合計所得金額が38万円以下の人がいれば該当します。給与収入のみの場合は103万以下となります。ここでの親族とは6親等内の血族と3 親等内の姻族をいいます。19歳以上23歳以下の場合は特定扶養親族として扱われます。また、70歳以上の場合は老人扶養親族となります。 原則として38万円。特定扶養親族は63万円となります。老人扶養親族は、同居の親・祖父母は58万円、それ以外の扶養者は48万円。
障害者控除 納税者自身又は控除対象配偶者や扶養親族が所得税法上の障害者に当てはまる場合が該当します(この場合、16歳未満であっても対象となります)。 障害の内容・程度および同居か否かによって27万円、40万円、75万円のいずれかとなります。
寡婦控除 夫と離婚・死別した後に婚姻していない人、もしくは夫の生死が不明な人で、扶養親族又は生計を一にする子(所得は38万円以下であることなど、いくつか付帯条件があります)のある人が該当します。さらに、夫と死別した後に婚姻していない人、もしくは夫の生死が不明な人で、合計所得金額が500万円以下の人も該当します。扶養親族である子を有し、かつ合計所得金額が500万円以下である場合は、特定の寡婦に認定されます。 2原則27万円。特定の寡婦の場合には35万円。
寡夫控除 妻と死別もしくは離婚した後に婚姻していない人、または妻の生死が不明の人のうち、生計を一にする子がいて、なおかつ合計所得金額が500万円以下の人が該当します。 27万円。
勤労学生控除 以下の3つの条件をすべて満たす人が該当します。
1. 合計所得金額が65万円以下であること。
2. 合計所得金額のうち、給与所得以外の所得金額が10万円以下であること。
3. 学校教育法に規定する小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学、高等専門学校、および一定の課程を履修させる専修学校等の児童・生徒・学生または訓練生であること。
27万円。
生命保険料控除 該当している場合、通常秋から12月上旬にかけて各生命保険会社から「生命保険料控除証明書」が発行されます。

この控除に関しては保険の種類や契約年数等種々の規定があり、また控除額についても様々な基準があります。詳細はこちらの国税庁発行の資料を参考にしてください。

最大12万円。ケースによって金額は変わります。
地震保険料控除 概要は生命保険料控除とほぼ同じです。詳細は国税庁発行の資料を参考にしてください。(7枚目以降) 最大5万円。ケースによって金額は変わります。
社会保険料控除 納税者が自分自身、もしくは生計を一にする配偶者やその他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合に該当します。
どのような保険が該当するか等の説明はここでは割愛しますが、詳細は国税庁発行の資料を参考にしてください。(10枚目以降)
該当する社会保険料全額(給与からの差引分、本人が直接支払った分の両方。後者については本人提出の申告書の金額に基づきます)。
小規模企業共済等掛金控除 小規模企業共済等掛金に該当するのは、以下の3つです。
1. 独立行政法人中小企業基盤整備機構と契約した共済契約(旧第2種共済契約を除きます)に基づいて支払った掛金。
2. 確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金又は個人型年金加入者掛金。
3. 地方公共団体が条例の規定により実施するいわゆる心身障害者扶養共済制度で一定の要件を備えているものに基づいて支払った掛金。
該当する掛金全額(給与からの差引分、本人が直接支払った分の両方。後者については本人提出の申告書の金額に基づきます)。
住宅借入金等特別控除 大まかに、以下の5つをすべて満たす場合が該当します。
1. 新築もしくは取得の日から6ヶ月以内に居住に使い、適用を受ける各年の12月31日まで引き続き住んでいること。
2. 適用を受ける年の合計所得が3,000万円以下であること。
3. その住宅の床面積が50平方メートル以上であり、その2分の1以上がもっぱら自己の居住のために使用されること。
4. 10年以上の期間にわたり分割して支払うことになっている、新築もしくは取得のための一定の借入金もしくは債務が存在していること。
5. 居住の用に供した年とその前後の各2年、合計5年間の間で居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例等の適用を受けていないこと
ただし、1年目に限り確定申告が必要になりますので注意してください。
最大限度額等はケースにより変動がありますが、原則10年間にわたり、年末の債務残高の1%(所得税の範囲内で)で計算します。ケースごとの詳細等については国税庁のウェブサイトでご確認ください。

これらとは別に、特別の申告などをせずとも、年末調整や確定申告において所得税額を計算する際には38万円が一律に控除されます。これが基礎控除と呼ばれる控除です。

年末調整ができない場合

まず、年末の時点で在職していない人や非居住者、そして特定の雇用者に継続して雇われるわけではない日雇い労働者は年末調整を行うことができません。ただし、年度末の時点で在職してなくとも、以下に挙げる5つの要件のうちいずれかに当てはまる人は、年度の途中で年末調整を行うことができます。

・海外支店等に転勤したことにより非居住者となった人
・死亡によって退職した人
・著しい心身の障害のために退職した人(退職した後に再就職をし、給与を受け取る見込みのある人は除きます)
・12月に支給されるべき給与等の支払を受けた後に退職した人
・いわゆるパートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下である人(退職後その年に他の勤務先から給与の支払を受ける見込みのある人は除きます)

逆に、年末時点で在職している人であっても、

・1年間に支払うべきことが確定した給与の総額が2,000万円を超える人
・災害減免法の規定により、その年の給与に対する所得税及び復興特別所得税の源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人

については、年末調整をすることはできませんので注意が必要です。
また、すでに述べたように扶養控除など各種控除の適用のためには、年末調整を行う日までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」など必要な書類を提出していなければなりません。

どうする?年末調整が終わった後に変更が生じたら


場合によっては、年末調整が済んだ後に追加で給料の支払いなどが生じた……などといった事態も想定されます。ここではいくつかのケースについて、その対応策を紹介します。

追加で給料を支払うことになったら

まずは年末調整が終わった後、その年の間にその年分の給与を追加で支払うことになったケースを考えましょう。この場合はその追加分の額を、すでに申請していた年末調整の対象となっている額に上乗せして、年末調整をやり直すことが必要になります。ただし、翌年以降に給与の仕組みに改定が生じ、さかのぼって給与を支給することになった場合については、その給与差額は改訂が行われた年の所得扱いになるので、年末調整をやり直す必要はありません。

年末調整後に扶養親族などの数に異動が生じたら

年末調整が終わった後、その年のうちに結婚して控除配偶者が生じたり、子供の結婚により扶養親族の数が減ったりしたというケースを考えてみます。このような場合、事業者は該当する人からこれらの異動事項の申告を受け、異動後の状況をもとにして年末調整をやり直すことができます。ただし、その期限は「給与所得の源泉徴収票」を受給者に交付することとなる翌年1月末日までになっているので、注意が必要です。

配偶者特別控除の適用対象の配偶者の所得見積に差額が生じたら

配偶者特別控除は配偶者の所得によって控除額が変動するものでした。年末調整後に、申告した配偶者の所得と実際の所得の間に差額が生じ、控除額にも変動がある場合はどうなるのでしょうか。この場合も、異動後の状況に基づいて年末調整をやり直すことが可能です。ただし、上と同様に、その期限は「給与所得の源泉徴収票」を受給者に交付することとなる翌年1月末日までになっているので、注意が必要です。

保険料関連で異動が生じたら

ここでは2つのケースが考えられます。まずは、年末調整が終わった後、その年のうちに生命保険料や地震保険料などを支払った場合です。このような場合は、その人から保険料控除申告書による申告があれば、その異動後の状況をもとに保険料控除額を再計算して年末調整をやり直すことができます。ただしこの場合も、期限は「給与所得の源泉徴収票」を受給者に交付することとなる翌年1月末日までになっているので、注意が必要です。
次に、社会保険料のうち国民年金の保険料もしくは国民年金基金の掛金、小規模企業共済等掛金、 新生命保険料、旧生命保険料(1口9,000円を超えるもの)、介護医療保険料、新個人年金保険料、旧個人年金保険料、地震保険料および旧長期損害保険料について、翌年1月末日までにその証明書類を提出することを条件として年末調整を行ったにもかかわらず、書類が期日までに提出されなかったという場合が考えられます。その際は、それらの保険料を除いたところで生命保険料控除や地震保険料控除などの額を計算して年末調整をやり直し、差額分が追加で徴収されることになります。

住宅借入金等特別控除申告書の提出があったら

年末調整が終わった後に、給与所得者から住宅借入金等特別控除申告書の提出があった場合には、その申告に基づいて年末調整のやり直しをすることができます。ただし、その期限は「給与所得の源泉徴収票」を受給者に交付することとなる翌年1月末日までになっているので注意が必要です。

☆ヒント
1年に一度の年末調整のシーズンは、他の時期に比べて書類仕事の負担がはるかに大きくなります。控除の適用基準など煩雑な部分が多いことも、そのことに拍車をかけています。ビスカスでは、専門知識を身に着け事務能力に長けた税理士を紹介することができますので、ぜひご検討ください。

まとめ

今回は年末調整について紹介しました。年末調整においてカギを握る控除の種類やその内容、そして年末調整の対象にならない人について、そして年末調整を終えた後に生じた変更への対応策など、気にはなっていても詳しくはちょっと…という方も多かったのではないでしょうか。年に一度の年末調整、この節税の機会を最大限に利用して、ぜひ損のないようにしてくださいね。

東京大学卒。現、同大学院所属。
ベンチャー企業の経営やビジネスを学んでおり、経営に役立つ様々な知識やノウハウを習得中。

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