個人事業主も必見!雑所得の申告方法が変わる?雑所得の手続きの改正とは

[取材/文責]長谷川よう

1年の間に収入があった個人は、収入に対して所得税を国に納める必要があります。所得税の計算をする際には、収入ごとに各所得に区分する必要がありますが、その所得の1つに雑所得があります。
実は、令和4年以降、雑所得の申告方法が変わる予定です。そこで、ここでは雑所得の手続きの改正について詳しく解説します。

そもそも雑所得とはどんなもの?

まず、そもそも雑所得とはどのようなものかを確認しましょう。

 

所得税では、収入の種類に応じて給与所得や事業所得、不動産所得など10の所得区分に分け、その所得ごとに所得金額や税額の計算方法を定めています。雑所得は、他の9種類の所得のいずれにも当たらない所得のことです。国民年金や厚生年金などの公的年金や原稿料、講演料、デザインの報酬などが雑所得になります。

改正前の雑所得の申告

令和4年以降、雑所得の申告方法が変わる予定ですが、現在の雑所得の申告はどうなっているのでしょうか。雑所得は、確定申告書に収入や所得金額などを記載して申告します。所得金額の計算方法は、公的年金等とそれ以外で次のように異なります。

 

・公的年金等

公的年金等の雑所得の所得金額は、次の計算式で求めます。

 

所得金額=収入金額-公的年金等控除額

 

公的年金等控除額とは、年齢や年金の金額に応じて受けることのできる一定の控除額のことです。受け取った年金の額から公的年金等控除額を差し引いたものに、所得税が課されます。令和2年以降の公的年金等控除額は、公的年金等に係る雑所得以外の所得の金額がいくらあるかによって、次のように異なります。

 

収入金額(A) 公的年金等に係る雑所得以外の所得の所得金額
1,000万円以下 1,000万円超
2,000万円以下
2,000万円超
65歳未満 130万円未満 60万円 50万円 40万円
130万円以上
410万円未満
A×25%
+27.5万円
A×25%
+17.5万円
A×25%
+7.5万円
410万円以上
770万円未満
A×15%
+68.5万円
A×15%
+58.5万円
A×15%
+48.5万円
770万円以上
1,000万円以下
A×5%
+145.5万円
A×5%
+135.5万円
A×5%
+125.5万円
1,000万円超 195.5万円(上限) 185.5万円(上限) 175.5万円(上限)
65歳以上 330万円未満 110万円 100万円 90万円
330万円以上
410万円未満
A×25%
+27.5万円
A×25%
+17.5万円
A×25%
+7.5万円
410万円以上
770万円未満
A×15%
+68.5万円
A×15%
+58.5万円
A×15%
+48.5万円
770万円以上
1,000万円以下
A×5%
+145.5万円
A×5%
+135.5万円
A×5%
+125.5万円
1,000万円超 195.5万円(上限) 185.5万円(上限) 175.5万円(上限)

 

・公的年金等以外

公的年金等以外の雑所得の所得金額は、次の計算式で求めます。

 

所得金額=総収入金額-必要経費

 

公的年金等以外の雑所得の所得金額は、事業所得と同じように、1年間の収入から1年間の経費を差し引いて計算します。

令和4年以降の雑所得の改正内容

令和4年以降、雑所得の所得金額の計算方法と確定申告の手続きが見直されます。見直しになるのは、公的年金等以外の雑所得です。公的年金等以外の雑所得では、前々年の雑所得業務の収入金額について「前々年分の雑所得業務の収入金額が300万円以下の場合」「前々年分の雑所得業務の収入が300万円超の場合」「前々年分の雑所得業務の収入が1,000万円超の場合」の3つの区分に分け、それぞれに細かい規定が設けられました。それでは、それぞれの区分について見ていきましょう。

前々年分の雑所得業務の収入が300万円以下の場合

前々年分の雑所得業務の収入が300万円以下の場合、令和4年以降の雑所得の所得金額の計算で「現金主義による所得金額の特例」が認められることになりました。実は、雑所得の収入や必要経費は、発生主義で計上する必要があります。発生主義とは、売上や経費を入金した日ではなく、発生した日で認識する計算方法のことです。例えば、12月に原稿を作成し取引先に納品、翌1月に原稿料が入金されたとします。この場合、売上が発生するのは原稿料が入金された翌1月ではなく、原稿を作成し取引先に納品した12月です。発生主義の場合は12月に売上に計上します。

 

一方、現金主義では、現金が入金された時に売上に計上します。現金主義の場合は、翌1月に売上に計上します。現金主義なら、通帳など入金の記録だけを見て会計処理をすることが可能となるため、発生主義に比べると会計処理が楽になります。

前々年分の雑所得業務の収入が300万円超の場合

前々年分の雑所得業務の収入が300万円超の場合の改正点は、関係書類の保存についてです。今までは、雑所得を対象とした明確な保存書類の規定はありませんでした。しかし、今回の改正により、明確な保存書類が規定されています。前々年分の雑所得業務の収入が300万円を超える場合は「現金預金取引等関係書類」を翌年から5年間保存しなければならないことになりました。現金預金取引等関係書類とは、現金の受け取りや支払い、預貯金の預入や引出しに際して作成された書類のことです。具体的には通帳や現金出納帳、預金出納帳などを指します。

前々年分の雑所得業務の収入が1,000万円超の場合

前々年分の雑所得業務の収入が1,000万円超の場合は、確定申告書に貼付する書類が増えます。雑所得の場合、確定申告書に貼付する書類はこれまで特にありませんでした。しかし、令和4年以降で、前々年分の雑所得業務の収入が1,000万円超の場合は、その業務に係る総収入金額及び必要経費の内容を記載した書類を確定申告書に添付しなければならないことになりました。書類の様式はまだ公表されていませんが、事業所得の白色申告における収支内訳書のような書類を作成し、添付するものと考えられます。

 

前々年分の雑所得業務の収入が1,000万円超の場合も、前々年分の雑所得業務の収入が300万円超の場合に該当するため、「現金預金取引等関係書類」を翌年から5年間保存する必要があります。

令和4年以降の雑所得の改正内容の注意点

ここまで解説してきた令和4年以降の雑所得の改正内容には、次の注意点があります。

①収入基準

300万円超、1,000万円超といった金額は、あくまで前々年の収入の金額です。収入から必要経費を差し引いた所得金額ではないので、注意が必要です。

②対象は雑所得業務であること

令和4年以降の雑所得の改正の対象となるのは執筆や作曲など、雑所得業務の収入です。公的年金等の収入や国税や地方税の還付加算金など、業務ではない雑所得は該当しないので、こちらも注意が必要です。

③最初の基準期間は令和2年

令和4年以降の雑所得の改正内容は、前々年が基準期間となっています。令和4年の前々年は、令和2年です。今年の雑所得業務の収入金額が基準となるため、今から準備をしておく必要があるでしょう。

 

国税庁のホームページに公開されている令和2年分以降用の確定申告書Aと確定申告書Bの第一表では、収入金額、所得金額の雑所得の欄が「公的年金等」「業務」「その他」の3つに分かれています。これは、今回の改正を受けたものと思われます。確定申告書に金額を分けて記載するためにも、今から雑所得の収入金額の内訳をきちんと管理しておく必要があるでしょう。

 

まとめ

令和4年以降分の雑所得の税制改正は、雑所得の所得金額の計算方法と、確定申告の手続きの2つを同時に見直すとても大きな改正です。今までになかった、現金預金取引等関係書類の保存や、総収入金額及び必要経費の内容を記載した書類の添付などをする必要があります。

 

また、改正における基準期間は、令和2年から始まっています。そのため、今のうちから改正内容を理解し、しっかりと準備をしておくことが重要となります。

会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。

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