富裕層も“転売ヤー”も「標的」に国税庁が所得税、消費税の「調査等の状況」を公表

国税庁はこのほど、2019事務年度(19年7月~20年6月)に、所得税と消費税に関して行った税務調査などの結果を公表しました。新型コロナウイルス感染症の影響で、調査件数自体は前年度に比べ減少し、申告漏れ所得の総額もマイナスとなる中、特に富裕層では1件当たりの申告漏れが大きく増加する結果となっています。その背景には、何があるのでしょうか? わかりやすく解説します。
新型コロナにより、税務調査の件数は減少
公表されたのは「令和元事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(11月27日)。税の申告内容に疑義がある場合などに、調査官が出向いて帳簿調べなどを行うのが一般的な税務調査(実地調査)ですが、「調査等」には、文書や電話、来署依頼による面接といった「簡易な接触」も含まれます。
まず、調査の概要をみておきましょう。
●所得税について
- 調査等の件数は、43万1,000件(前事務年度61万1,000件)で、現在の統計方法になった2009年度以降で最低となった。なお、このうち37万1,000件(同53万7,000件)は、簡易な接触によるもの。
- 合計件数のうち、申告漏れなどの非違が認められたのは、26万3,000件(同37万4,000件)だった。
- 申告漏れ所得(調査等の対象となったすべての年分の合計)金額は、調査等の総額で7,885億円(同9,041億円)だった。
- 申告漏れに伴う追徴税額(不足・無申告の本税+ペナルティの加算税)は、調査等の総額で1,132億円(同1,195億円)となったが、1件当たりにすると26万円(同20万円)と、前年度を上回った。実地調査に限ると1件当たり166万円(同131万円)と、前年度に比べ26.7%増加している。
●消費税について
- 調査等の件数は、6万7,000件(同8万6,000件)だった。
- そのうち、申告漏れなどの非違が認められたのは、4万5,000件(同6万2,000件)だった。
- 追徴税額(調査等の対象となったすべての年分の合計)は、総額で304億円(同345億円)となったが、1件当たりにすると45万円(同40万円)と、前年度を上回った。実地調査に限ると、1件当たり91万円(同78万円)と、前年度を16.7%上回っている。
所得税、消費税に共通するのは、第1第一に税務調査などの件数が大きく減ったこと。理由は、新型コロナの感染拡大で、「調べに行きたくても行けない」状況が生まれたからにほかなりません。
第2第二の特徴は、にもかかわらず、1件当たりの追徴金額が増えていることです。考えられる原因の1つは、税務当局が「大きな申告漏れがありそうなところ」を重点的に調査したから。では、「狙われた」のは、誰なのでしょうか?
1件当たりの追徴税額(実地調査)

富裕層の申告漏れは過去最高に
当然のことながら、申告漏れが高額に上るのは、もともとの所得が高い人です。公表された「調査等の状況」では、国税庁自ら「『富裕層』に対して、資産運用の多様化・国際化が進んでいることを念頭に積極的に調査を実施しています」と述べています。
ちなみに、国税庁は、この「富裕層」について「有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な個人など」と「定義」していますが、明確な「会計基準」を公にはしていません。ただ、過去には「有価証券の年間配当4,000万円以上」「所得合計額が1億円以上」といった「マル秘基準」が、新聞に報じられたこともありました。
公表された内容を、具体的にみていきます。2019事業年度は、富裕層に対して4,463件(前事務年度5,313件)の実地調査を行った結果、1件当たりの申告漏れ所得金額は、1,767万円(同1,436万円)となりました。所得税の実地調査全体の1,190万円に比べると、およそ1.5倍に上る金額です。申告漏れ所得金額の総額は、789億円(同763億円)でした。
また、1件当たりの追徴税額は581万円(同383万円)となり、これは所得税の実地調査全体の222万円に比べ、2.6倍の金額に当たります。追徴税額の総額は、259億円(同203億円)でした。申告漏れ所得金額、追徴税額とも、2009年以降の最高となっています。
海外投資、ネット取引を行う個人にも厳しい視線
富裕層を含む「海外投資等を行っている個人」もターゲットです。「調査等の状況」には、「海外投資を行っている個人や海外資産を保有している個人などに対して、国外送金等調書、国外財産調書、租税条約等に基づく情報交換制度(略)などを効果的に活用し、積極的に調査を実施しています」と明記されています。
2019事業年度には、3,942件(前事務年度4,375件)の実地調査を実施し、1件当たりの申告漏れ所得は、2,406万円(同1,941万円)でした。これは、所得税の実地調査全体に比べ約2倍の金額。申告漏れ所得金額の総額は、948億円(同849億円)でした。
その結果、1件当たりの追徴税額は627万円(同375万円)と、所得税の実地調査全体と比べ2.8倍の高さになりました。追徴税額の総額は247億円(同164億円)に上っています。
コロナ禍中、マスクを高額で転売する行為が社会問題になりましたが、そうした“転売ヤー”も含む「インターネット取引を行っている個人」の申告にも、当局は特に目を光らせているようです。
2019事業年度の実地調査は1,877件(同2,127件)で、1件当たりの申告漏れ所得金額は、1,264万円(同1,243万円)。所得税の実地調査全体に比べ1.1倍でした。申告漏れ所得金額の総額は、237億円(同264億円)となっています。
1件当たりの追徴税額は、349万円(同274万円)で、所得税の実地調査全体に比べ1.6倍。追徴税額の総額は65億円(同58億円)で、これも前年度から調査件数が大きく減った中で、12.1%の増加となりました。
海外投資やネット取引などは、従来、実態がつかみにくく「税逃れ」がしやすいとも言われました。しかし、税務当局は、資金の流れを捕捉する新たな仕組みや体制を構築しつつ、「税の公平性」を保つ姿勢を明確にしています。
税務調査などの件数が今年度どうなるのかは、コロナの状況にもよるものと思われますが、このように対象をある程度絞り込んだうえで重点的な調査を実施するという傾向は、今後さらに強まっていくのではないでしょうか。
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まとめ
2019事業年度の所得税、消費税の税務調査には、新型コロナの影響で調査件数が減ったものの、追徴税額などは逆に増加する、という特徴がみられました。富裕層のほか、海外投資やインターネット取引を行う個人の申告には、今後も強い監視の目が注がれると考えるべきでしょう。
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